省力化投資補助金(一般型)は、採択されて補助金を受け取って終わりではありません。
補助事業の終了後、最大5年間にわたり「賃上げ目標を達成しているか」を毎年確認されるという特徴があります。
特に重要なのが「基本要件」と呼ばれる3つの賃上げ指標です。
これを達成できなかった場合、補助金の返還義務が生じる可能性があるため、非常に注意が必要です。
本記事では、最新の手引き(要件未達|返還義務のページ)を基に、返還ルールを徹底的にわかりやすく解説します。
Contents
■ 基本要件とは?達成できなければ“返還対象”に

省力化投資補助金の「基本要件」は次の3つです。
① 給与支給総額の増加(企業全体)
応募時に設定した年平均成長率の目標を、事業計画期間完了時点で達成しているかを判断します。
「給与支給総額の年平均成長率を2.0%以上増加させる目標または1人当たり給与支給総額…の目標が達成できていない場合は、達成率に応じて返還」
② 1人当たり給与支給総額の増加
企業が応募時に設定した“自社独自の目標値”を達成できていなければ返還の対象になります。
「1人当たり給与支給総額の年平均成長率が…設定した目標に達していない場合は返還」
③ 事業場内最低賃金を「都道府県最低賃金+30円」以上に引き上げる
事業期間中の“毎年3月末”にチェックされます。
「最低賃金+30円未達の場合、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求める」
※この③が最も返還のリスクが高いため注意。
■ 返還義務が発生するのはいつ?
返還判定のタイミングは次のとおり。
● 給与(①②)
→ 事業計画期間終了時点(多くは5年目)で一度だけ判定
● 最低賃金(③)
→ 事業期間中の毎年3月末に判定
最低賃金は「毎年判定」されるため、1年だけ未達でも返還対象になります。
■ 基本要件を達成できなかった場合の返還ルール
返還計算は少し複雑ですが、ポイントだけ押さえれば理解できます。
資料では 返還パターン1〜8 が示されています(p.31)
それをわかりやすくまとめると次のようになります。
▼【給与(①②)・最低賃金(③) 達成状況別:返還の有無】
| パターン | ①給与総 | ②1人給与 | ③最低賃金 | 結果(返還) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 達成 | 達成 | 達成 | なし |
| 2 | 達成 | 達成 | 未達 | 最低賃金分のみ返還 |
| 3 | 達成 | 未達 | 達成 | なし |
| 4 | 達成 | 未達 | 未達 | 最低賃金分のみ返還 |
| 5 | 未達 | 達成 | 達成 | なし |
| 6 | 未達 | 達成 | 未達 | 最低賃金分のみ返還 |
| 7 | 未達 | 未達 | 達成 | 給与関係の返還 |
| 8 | 未達 | 未達 | 未達 | 給与+最低賃金の両方返還 |
(資料:基本要件の返還パターン(p.31))

■ 給与の返還計算式:未達度合いに応じて返還
給与(①・②)は、どちらも未達の場合に返還が発生。
返還額は次のように計算します。
【返還額(給与関係)】
=(補助金交付額 − 補助上限引上げ額)×(1 − 達成率)
※達成率は②と①のうち「高い方」を使います
■ 最低賃金の返還計算:年数分を返還(毎年判定)
最低賃金は 事業期間中の毎年3月末に判定 されるため、
未達の年がある場合、その年数分を返還します。
【返還額(最低賃金)】
= 補助金交付額 ÷ 事業計画年数 × 未達年数
(例)5年計画で1年だけ未達 → 補助金の1/5を返還
■ 実際の例(資料の「パターン8」を文章で説明)
「給与総額・1人当たり給与総額・最低賃金すべて未達」の場合(最悪のケース)
資料 p.31 の図で示されているように:
① 最低賃金未達 → 補助金の1/5を返還
(最低賃金分の返還)
② 残りの補助金に対して
→ 給与の未達成率に応じて追加返還
(給与支給総額の返還)
❗つまり、最低賃金+給与の“ダブル返還”になります。
このケースが最も返還額が大きくなるため、注意が必要です。
■ 特例要件(大幅賃上げ)を選択した企業は要注意
補助上限額の引き上げを受けた企業には、さらに厳しい返還条件があります。
特例要件は次の2つ:
① 給与支給総額+6%以上の増加
(基本要件+4%上乗せ)
② 最低賃金を「+50円」以上
「①②のいずれか一方でも未達なら、引上げ分は全額返還」
さらに基本要件も未達なら、基本部分も追加返還。
■返還が免除されるケース(救済措置)
次の場合は返還が免除されます。
● 付加価値額が増加していない
● 企業全体として過半数の年度が営業利益赤字
● 天災など、事業者が責めを負わない事情がある場合
「事業者の責めに帰さない場合は返還を求めません」
■ 再生事業者の場合は「基本要件」の返還が免除
再生事業者(私的整理・事業再生中の企業)は、基本要件未達でも返還が免除されます。
「再生事業者については基本要件未達の場合の返還要件が免除」
■【まとめ】知らないと返還につながる「基本要件」
給与・最低賃金の管理は事業終了後5年間続く
基本要件は、補助事業後の企業に課される「賃上げのコミットメント」です。
達成できない場合、補助金を返還しなければならない可能性があります。
特に重要なポイントは以下の通り:
✔ 給与要件(①②)は“双方未達”の場合のみ返還
✔ 最低賃金(③)は“毎年判定”で1年でも未達なら返還
✔ 最悪ケースは“給与+最低賃金のダブル返還”
✔ 特例要件(大幅賃上げ)の未達は“引上げ分全額返還”
✔ 成長鈍化・赤字・天災などの場合は返還免除あり
✔ 再生事業者は基本要件の返還が免除
補助金を受け取るために最も大切なのは
「採択後 〜 効果報告までの賃金管理」です。
特に「最低賃金+30円」は多くの企業が忘れがちな落とし穴です。
しっかりと賃金台帳を管理し、毎年の判定に備えましょう。