経営者の多くが、
「会社のお金には詳しいのに、自分のお金となると意外と曖昧」
という共通点を持っています。
特に次のような声は非常に多いです。
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会社では資金繰りを見ているのに、家庭の将来資産の推移は把握していない
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老後資金や相続のイメージがまだ漠然としている
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どれくらい貯まるのか、いつ不足するのか、数字で把握していない
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事業投資と個人資産形成のバランスが感覚的になっている
しかし本来、経営者こそ
「個人のお金の動きを数字で見える化する」ことが不可欠です。
その核心となるのが、今回の記事テーマである
「キャッシュフロー表(個人)における貯蓄残高の計算方法」です。
実はこの貯蓄残高には、たった1つのシンプルなルールがあります。
Contents
■ 個人のキャッシュフロー表における貯蓄残高
前年末の貯蓄残高 ×(1+運用利率) ± その年の年間収支
一見簡単ですが、この式を正しく理解すると
将来のお金の見通しが一気にクリアになります。
また、事業投資・不動産投資・相続対策の判断も格段に精度が上がります。
この記事では、
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公式の意味は何か?
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経営者ならどう活用すべき?
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老後や相続の「詰み」リスクを防ぐには?
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数字がどう動くと人生のお金が安定するのか?
これらを“経営者の視点だけで理解できるよう”に解説します。
難しいFP用語や複雑な計算は一切使いません。
経営者が本当に知るべきポイントだけに絞りました。
1. なぜ経営者こそ「個人のキャッシュフロー表」が必要なのか?
あなたは会社の資金繰りは毎月チェックしているはずです。
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売上
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利益
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経費
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借入返済
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キャッシュ残高
しかし、自分個人のお金はどうでしょうか?
【よくあるケース】
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収入は経営者報酬だけではない(配当・不動産など)
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支出は家庭だけでなく仕事関連も混在しがち
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事業投資と個人投資が境界線で混ざりやすい
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将来のキャッシュアウト(教育費・住宅・老後)が読みにくい
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金融資産と不動産のバランスが偏りがち
つまり、
経営者の個人キャッシュフローは複雑になりやすい のです。
だからこそ、会社と同じように「個人のお金の見える化」が必要になる。
その中心になるのが「貯蓄残高の計算」です。
2. 貯蓄残高=前年末×(1+運用利率)±年間収支 が意味するもの
式を再掲します。
貯蓄残高 = 前年末の貯蓄残高 ×(1+運用利率) ± その年の年間収支
この式は、経営者にとって非常にシンプルで理解しやすい構造になっています。
【① 資産は“放っておいても増える”】
前年末の貯蓄に “運用利率” をかける理由は、
あなたのお金が 複利 で増えるからです。
経営で言えば、
「売上ゼロでも、在庫価値や投資価値が勝手に増える」
そんなイメージに近いです。
たとえば運用利率3%なら、
1,000万円は1年後に1,030万円。
“資産が働く” というのはこういうことです。
【② 年間収支でお金の増減が大きく変わる】
年間収支とは
収入 − 支出
です。
黒字なら資産が増え、
赤字なら資産が減ります。
経営で言えば、
営業利益がプラスかマイナスか に近い感覚です。
【③ 資産形成は「運用 × 収支改善」の組み合わせ】
会社と同じで、
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利益(収支)がプラス
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資産(前年末残高)も運用で増える
このダブル構造で、資産は最も早く増えます。
経営者にとっては、
PLとBSの両方を改善するようなもの と考えるとわかりやすいでしょう。
3. 【実例】数字で見ればすぐ理解できる「資産が増える仕組み」
以下は経営者の典型的な例です。
■ 年収(役員報酬+その他収入):1,000万円
■ 支出:850万円
→ 年間収支:+150万円
■ 前年末の金融資産:2,000万円
■ 運用利率:3%
この場合、貯蓄残高はこうなります。
2,000万円 × 1.03 +150万円
= 2,110万円
つまり、
1年間で110万円増えた ということです。
内訳は、
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運用益:60万円
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貯蓄(年間収支):150万円
という結果です。
経営者の多くが驚くのは、
資産が働くことで生まれる運用益の威力です。
これは、
「資産が会社の代わりに利益を生む」状態であり、
経営者にとっては大きな安心感につながります。
■ 逆に、年100万円の赤字家計ならどうなる?
例えば支出が収入を100万円上回っていた場合、
2,000万円 × 1.03 − 100万円
= 1,960万円
つまり
1年間で40万円減る わけです。
この場合、こういうことが起こります。
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運用益60万円
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しかし赤字100万円で食いつぶしてしまい、
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差し引き▲40万円
結局、
資産が働いて生んだ利益がムダになる
経営者ならすぐわかるはずです。
“黒字経営”がいかに重要かという感覚と同じです。
4. 経営者は「運用利率」をどう考えるべきか?
ここは専門的な説明ではなく、
“経営者が意思決定できるレベルの考え方”に絞ります。
■ 年1〜3%で十分に現実的
資産運用の利回りは、
無理に大きな数字を狙う必要はありません。
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安全運用:1%
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バランス運用:2%
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長期の積立投資:3%前後
このあたりが、もっとも現実的で安定します。
ポイントは、
高い利回りの投資より「続けられる運用」のほうが重要
ということです。
経営も同じで、
“売上が急に伸びる” より “安定利益”のほうが会社を守ります。
■ 事業投資と個人資産運用を混ぜないこと
経営者の資産形成の失敗パターンは、
個人資産を事業に突っ込みすぎること。
個人キャッシュフロー表を作ることで、
「事業にいくら回せるか?」
「個人資産はどのペースで増えるべきか?」
これが数字で判断できます。
5. 家計の支出を“ざっくり”把握するだけでCF表は機能する
経営者向けに強調しておきたいのは、
家計の支出を細かく分析する必要はない ということです。
重要なのは、
以下のような大きな数字だけです。
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年間の大まかな生活費
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教育費のピーク
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住宅ローンの返済額
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車・修繕などの大きな支出
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事業関連の個人成本(実質の家計費)
これだけでCF表の精度は十分上がります。
数字が多少ズレても、
大きな方向性は変わりません。
CF表は
“経営判断の材料として”使うのが目的だからです。
6. 経営者が必ず確認すべき3つのポイント
キャッシュフロー表ができたら、
経営者として以下の3点を見れば十分です。
✔︎ ① 資産が毎年どのくらい増えているか?
前年より増えていればOK。
減っていれば改善余地あり。
✔︎ ② 老後資金が不足しないか?
一般的には、
65歳〜90歳までの生活資金を想定し、
マイナスになる年がないかを確認します。
✔︎ ③ 相続税が払えるだけの金融資産があるか?
相続対策の失敗は、
不動産は多いのに、
現金が足りず相続税が払えない
というパターンが最も多いです。
CF表があると将来の預金残高が見えるため、
相続税対策が非常にしやすくなります。
7. 貯蓄残高の公式は「経営者の資産形成の教科書」になる
ここまでの内容をまとめると、
■ 貯蓄残高 = 前年末 ×(1+運用利率) ± 年間収支
この式は、経営者のために存在していると言っても過言ではありません。
経営と全く同じ構造です。
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前期繰越(前年末の貯蓄)
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投資収益(運用利率)
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営業利益(年間収支)
経営者は普段からこれをやっているので、
個人の資産形成に応用するのは非常に簡単です。
そして、
この式が示す未来の数字を見れば、老後も相続も怖くなくなる。
CF表は、経営者にとって“人生のお金の経営計画書”です。