円安倒産・コロナ破たんが再び加速中――2025年「見えないリスク」を捉えよ:中小企業経営者のための危機対応ガイド

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はじめに

今年(2025年)は、表面的には訪日客増加や株価上昇、デジタル投資の拡大など、ポジティブなニュースも少なくありません。しかしその裏で、特に中小・零細企業にとって無視できない“構造的なリスク”が拡大しています。東京商工リサーチ社が11月4日に発表した、最新データでは、①「円安」を契機とした倒産、②「コロナ要因(支援終了・返済負担増)」による破たん――の二つが再び注目されています。本稿では、これらのデータを整理しながら、経営者が「今、備えるべきこと」を具体的な視点でお伝えします。

1. 円安関連倒産の現状

まず「円安関連倒産」について整理します。2025年10月時点で、円安を主要因とする倒産が6件発生しており、これで40カ月連続の発生となっています。さらに、1月~10月累計では56件と、前年同期比16.4%の減少ながら、既に2023年通年(52件)を上回っています。
負債総額の面でも特徴があります。10月単月では14億1,200万円と前年同月比21.3%減少したものの、1~10月累計では998億9,900万円と前年同期比で3.3倍に急増しており、特に一社あたりの負債規模が大きい案件が倒産総額を押し上げています(例:丸住製紙㈱ 負債590億円)。
産業別では、卸売業が4件(前年同月2件)、建設業1件、小売業1件と、幅広く発生しています。共通して見られるのは「輸入資材・原材料・エネルギーのコスト上昇を、価格転嫁できなかった中小企業が倒れ始めている」という構図です。
円安がもたらすもの。ドル/円が154円台まで進んだ10月末時点では、輸入価格の上昇、エネルギーコスト高、物価全体の押し上げ要因などが改めて浮かび上がりました。為替変動が単なる市場動向ではなく、企業経営に「構造ショック」として作用していることを改めて示しています。

2. コロナ関連破たんの再浮上

次に「コロナ関連破たん」です。10月は176件の破たんが判明し、これは2020年2月以降累計で 13,070件 に上ります。破たん率で見ると、全国の企業数(約358万9,333社)を母数とすると、年間比率でおよそ 0.364%。つまり、約300社に1社がコロナ関連で破たんしている計算です。
都道府県別では、東京都が2,606件(構成比19.9%)と圧倒的多数。次いで大阪府1,189件、福岡県774件と続きます。これは、都市部における飲食・宿泊・サービス業の比重が高く、コロナ支援終了後の影響を強く受けている表れと考えられます。
この動向が示すのは、コロナ禍そのものが終わったわけではないということ。融資返済・借入金利の上昇・人件費も上昇という“返済+コスト高”の構図が、経営体力の乏しい中小企業を再び苦しめています。つまり、「コロナ後」の時代においても、コロナ関連リスクは継続しているのです。

3. なぜ今「倒産増加」に振れているのか

では、なぜこのタイミングで円安倒産・コロナ破たんが浮上しているのでしょうか。背景には複数の構造要因があります。

(i) 輸入依存・為替リスク
円安が継続することで、輸入原材料・部品・燃料の価格が上昇します。しかし多くの中小企業は「価格転嫁」を先延ばしにしたり、値上げが消費者・取引先の抵抗にあったりして、利益を圧迫され続けています。特に、下請け/小規模企業では交渉力が弱く、値上げを価格に反映できない構造になっています。

(ii) コスト増+価格交渉力低下
人件費、電気・ガス料、物流コストも上昇の一途をたどっています。加えて、取引構造として「元請け→下請け」の階層が深い企業では、価格交渉力がさらに弱く、吸収余力が小さい。結果、収益性が劣化し、資金繰りが赤信号を迎えやすくなっています。

(iii) 支援終了・返済圧力
コロナ禍の支援策(給付金・補助金・無利子融資など)は徐々に縮小・終了フェーズに入っています。これに伴い、返済開始や金利負担の増加、中堅規模以上では設備の更新・人材確保のコストも増えています。支援期終了=資金余力期の終わり、という構図が見え始めています。

(iv) 人手不足・高齢化・承継難
倒産・休廃業のデータを見ると、後継者難・経営者高齢化・人材流出も要因となっています。構造不況業種では、収益改善よりも「早めに手を引く」選択をする企業も増えており、これは“あきらめ型”退出の動きとして現れています。

4. 中小企業が“今”取るべき具体的対策

上記の状況を踏まえ、中小零細企業経営者にとって「今すべきこと」を以下に整理します。

① 価格転嫁力・交渉力の強化
円安・物価高という外部環境の変化を、いかに価格設定に反映できるかが生き残りの鍵です。具体的には:

  • 契約書・取引条件に「為替・資材価格上昇時の見直し条項」を入れる

  • 納入先・仕入先とのウィンウィン交渉を常時行い、コスト構造の可視化を促す

  • 新規顧客・直販チャネルの開発によるマージン構築

② 資金繰り・返済スケジュールの見直し

  • コロナ融資の返済開始時期を確認、必要ならリスケ交渉を行う

  • 返済負担を軽減するために、助成金・補助金活用・リース活用・設備投資を慎重に

  • 倒産しやすい “負債1,000万円未満” の企業でも件数が増えており、油断できないことを認識

③ 人材確保・働き方モデルの見直し

  • 人手不足は多業種共通。採用だけでなく「働きやすさ」「仕組み化」「アウトソーシング」も視野に

  • 若手・シニアのダブル活用、パート・副業人材の活用、DXによる省力化

  • “人材=コスト”という発想から、“人材=価値”への移行

④ 事業モデルの再構築・出口戦略の準備

  • 円安・コロナ関連リスクを機に、輸入依存型/人手依存型のモデルを転換

  • 海外仕入れ先の多様化、輸出・海外売上比率の見直し、日本国内だけで完結できるモデルへのシフト

  • “撤退戦略”ではなく“承継・M&A・業態転換”を早期に検討する

⑤ リスク見える化と早期モニタリング

  • 外部環境(為替・燃料・人件費・金利)を定期的にチェックし、影響シミュレーションを行う

  • 例えば「USD/JPY150」「燃料価格20 %上昇」「最低賃金引き上げ5 %」といったシナリオで収益への影響を分析

  • 倒産件数が“増える局面”にある今、「いつ何が来てもおかしくない」という認識を持つことが重要

5. ケーススタディ(中小企業向け)

ここでは、想定できる中小零細企業の具体例を挙げて、どのように対応すべきかを考えます。

ケースA:輸入部品を使う製造業(資本金500万円・従業員10名)
問題点:ドル建て仕入れ比率70%。円安でコストが30%増。価格改定できず利益率がマイナスに。
対応策:

  • 為替ヘッジ契約、もしくは円建て仕入先の交渉

  • 仕入れ以外の国内代替部品の検討

  • 顧客向け「価格改定リスク説明資料」を作成し、値上げの理解を得る

  • 月次収益・為替感応度を経営会議に入れ、早期警戒機能を持たせる

ケースB:地域の学習塾(資本金300万円・教室2校)
問題点:少子化進展、オンラインサービス台頭、運営コスト上昇。2025年1-9月の倒産件数は37件と過去最多ペース。
対応策:

  • オンライン併用モデルを採用(ハイブリッド授業)

  • 生徒数・契約率・収益構造の見直し、固定費削減

  • 地域密着型サービス(学び+保育+地域イベント)など新たな価値提供

  • 倒産リスクの高まりを受け、早期M&A/統合交渉の検討

6. 今後の見通しと警戒点

  • 円安のトレンドは、単なる通貨の変動ではなく、中小企業の収益構造を直撃する構造変化に変わってきています。

  • コロナ関連破たんも、支援終了の潮目、返済期のピークを迎えつつあります。

  • 今後、倒産件数は “量” から “質(規模・構造)” へと変化する可能性があります。特に、負債1,000万円未満の零細規模でも影響が出ています。

  • 経営者として最も恐れるべきは「見えていたが手を打たなかったリスク」です。だからこそ、今この時点で「変化を先取りする」姿勢が求められます。

7. 終わりに

中小企業は常に「環境変化への耐力」が勝負です。円安倒産も、コロナ関連破たんも、どちらも「予測不可能」ではなく「予測可能」なリスクの集まりでした。
あなたの会社が今後数年で勝ち残るかどうか――その分岐点は「今、何を見て」「何を動くか」にあります。
ぜひ今回のデータをきっかけに、自社の収益構造をもう一度俯瞰し、“次の危機”に備えてください。
事前準備をした企業だけが、これからの荒波を生き抜くことができるでしょう。

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