Contents
- 1 1. はじめに:景気好調の裏で“静かに消える”中小企業
- 2 2. 倒産の特徴:小型化・多発化・中小企業化
- 3 3. 主な倒産要因:“人手不足・物価高・後継者難”の三重苦
- 4 4. 休廃業・解散は倒産の“7倍ペース”
- 5 5. 業種別倒産動向:サービス・建設・小売で急増
- 6 6. 地域別分析:地方ほど厳しい
- 7 7. 特徴的な事例:「粉飾倒産」と“見せかけの成長”
- 8 8. 自動車・建設業界が今後の焦点
- 9 9. 中小企業が今学ぶべき5つの教訓
- 10 10. 成功している中小企業の共通点(実例)
- 11 11. 今後の見通し:通年1万件超えも現実味
- 12 12. まとめ:倒産は“他人事”ではなく“明日の教科書”
- 13 ✅ この記事の結論
1. はじめに:景気好調の裏で“静かに消える”中小企業
2025年の日本経済は一見すると明るいニュースが多い。
日経平均株価は史上最高値を更新し、インバウンド需要も前年比15%増。
大阪・関西万博を控え、観光業や建設業界が活況を呈している。
しかし、その裏で中小企業の倒産は8四半期連続で増加。
2025年度上半期(4〜9月)の倒産件数は 5,172件(前年比+1.5%) に達し、
年度上半期としては 12年ぶりに5000件を超える水準 となった。
つまり、「景気が良くても倒産が増えている」という、
構造的な異常事態が今起きているのです。
2. 倒産の特徴:小型化・多発化・中小企業化
今回の倒産統計で最も特徴的なのは、倒産の「質」が変化している点です。
指標 | 結果 | 備考 |
---|---|---|
倒産件数 | 5,172件(+1.5%) | 4年連続増加 |
負債総額 | 6,927億円(▲49.6%) | 小規模倒産中心 |
負債1億円未満の構成比 | 76.4%(過去30年で最高) | 零細企業が主役 |
破産の構成比 | 90.1% | 実質的な廃業型倒産 |
倒産はもはや「経営破綻」ではなく、
日常的に起こる“経営リタイア”に変わりつつあります。
事業の継続に疲弊し、
「黒字でも、もう続けられない」
という“あきらめ倒産”が急増しています。
3. 主な倒産要因:“人手不足・物価高・後継者難”の三重苦
(1) 人手不足倒産が過去最多
2025年9月の「人手不足」関連倒産は月間46件と過去最多を更新。
前年同月比で倍増しています。
-
従業員退職:19件(3.8倍増)
-
求人難・採用困難:13件
-
人件費高騰:14件
特に 従業員10人未満の企業が全体の9割近く を占め、
“1人辞めたら回らない”という構造的リスクが浮き彫りになっています。
(2) 物価高倒産:コスト高に耐え切れず
物価上昇・光熱費高騰・物流費上昇が止まらず、
「価格転嫁が追いつかない企業」が増加。
9月単月の物価高倒産は76件(前年同月+73%)。
製造・小売・建設など、原価上昇の影響を受けやすい業種に集中しています。
(3) 後継者難・経営者高齢化
さらに深刻なのが、経営者の「高齢化倒産」です。
2025年1〜9月で 経営者の病気・死亡による倒産は249件。
これは前年を上回るペースで、全体の3.3%を占めています。
つまり、「経営体力」よりも「経営者の寿命」が
倒産のトリガーとなっているケースが急増しているのです。
4. 休廃業・解散は倒産の“7倍ペース”
倒産よりも深刻なのが、休廃業・解散件数の急増です。
-
2025年1〜9月:約5.2万件(+5.4%)
-
このままのペースなら、年間7万件超で過去最多更新
-
倒産(7,619件)の約7倍にのぼる勢い
特に地方では「事業承継を諦める」ケースが目立ち、
“静かな廃業”が地域経済の根を蝕んでいます。
5. 業種別倒産動向:サービス・建設・小売で急増
業種 | 件数(前年同期比) | 背景 |
---|---|---|
サービス業 | 1,762件(+4.0%) | 労働集約型・人件費上昇 |
建設業 | 1,036件(+7.4%) | 資材高・人手不足 |
小売業 | 594件(+7.6%) | 消費鈍化・価格転嫁難 |
不動産業 | 169件(+18.1%) | 金利上昇の影響 |
農林漁業 | 64件(+10.3%) | 燃料高・天候リスク |
特徴:
“人の手が要る業界”ほど倒産率が高い
一方、製造・運輸・ITなどは微減に留まるが、人件費圧迫は共通課題
6. 地域別分析:地方ほど厳しい
地区 | 倒産件数増減 | 特徴 |
---|---|---|
北陸 | +49.3% | 資材高直撃・中小建設業に打撃 |
近畿 | +3.6% | 物価高・小売倒産が増加 |
中部 | +3.9% | 自動車部品関連が打撃 |
九州 | +1.7% | 観光回復も人手不足続く |
関東・中国 | 減少 | 大企業の受注支えで持ち直し |
地方の中小企業は“仕事はあるが人がいない”という二律背反に苦しみ、
体力勝負から脱却できずに撤退を余儀なくされています。
7. 特徴的な事例:「粉飾倒産」と“見せかけの成長”
2025年上半期に話題を呼んだのが、
上場AI企業「オルツ」の粉飾倒産事件です。
-
売上の9割が“循環取引”による架空計上
-
民事再生法申請(負債24億円)
-
AI・DXといった“新時代産業”でも不正は起こる
ある金融関係者はこう語ります。
「コロナ期に“安定していた会社”こそ危険だった。」
つまり、数字の裏にある“違和感”を感じ取る感性が、
今の経営者にはより重要になっています。
8. 自動車・建設業界が今後の焦点
🚗 自動車業界
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対米輸出の関税が15%に上昇。
-
大手メーカーが価格引き下げや輸出縮小へ。
-
中小部品メーカーに受注減・単価下落の波が及ぶ。
🏗 建設業界
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公共工事の減少・資材高騰・職人不足。
-
受注があっても人が集まらない。
-
賃上げ圧力で利益を圧迫。
→ 今後最も倒産増が予想される2大業界です。
9. 中小企業が今学ぶべき5つの教訓
① 数字より“現場感覚”を磨く
粉飾や見せかけの成長に騙されず、現場の手触り感を重視。
「数字が良くても人が疲弊していないか」を確認すること。
② 人手不足を「採用」でなく「仕組み」で解決
-
業務の標準化・マニュアル化
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DX導入(勤怠・請求・顧客管理)
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外注・副業人材・クラウドワーカーの活用
③ 承継・引退を“経営計画”に組み込む
後継者問題は「誰に任せるか」よりも「いつ引き継ぐか」。
M&A・事業譲渡も早期に検討を。
④ 資金繰りは“毎月見える化”
銀行任せではなく、キャッシュフロー表を自社で管理。
金利上昇下では“資金繰り力”が生死を分ける。
⑤ 外部の知恵を活用する
経営コンサル、社労士、会計士などを「守り」ではなく「攻め」の参謀に。
特に補助金・助成金を戦略的に使う企業は生存率が高い。
10. 成功している中小企業の共通点(実例)
事例① 建設業A社(大阪)
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DX導入で現場管理システムを活用。
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書類作業時間を60%削減。
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人手不足の影響を最小化。
事例② 小売業B社(福岡)
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高齢経営者がM&Aで後継者を確保。
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廃業ではなく「譲渡による再生」を選択。
事例③ 飲食業C社(東京)
-
アルバイト中心から正社員化+教育制度構築。
-
離職率を30%→8%に改善。
✅ 共通点は「人に頼らず、仕組みで回す」こと。
組織設計・評価制度・デジタル化を並行して進めている。
11. 今後の見通し:通年1万件超えも現実味
帝国データバンクの分析では、
2025年度下半期も5000件超の倒産が濃厚。
-
通年では 1万件超え の可能性が高い。
-
「ゼロゼロ融資返済」「人手不足」「賃上げ」「金利上昇」の四重苦。
これらに対し、経営者ができる唯一の防御策は、
「設計された経営」への転換です。
12. まとめ:倒産は“他人事”ではなく“明日の教科書”
中小企業の倒産増加は単なる経済ニュースではありません。
それは「明日は我が身」への警鐘です。
事業を続けるだけで価値がある時代は終わり、
“どう設計して生き残るか”が問われる時代へ。
中小企業が取るべきは、
-
現場のDX化
-
人材の複線化
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承継と出口戦略の早期設計
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補助金・助成金を活用したリスク緩和
これらを同時に進める「戦略経営」です。
✅ この記事の結論
観点 | 現状 | 今後の対策 |
---|---|---|
倒産件数 | 12年ぶり5000件超 | 通年1万件超の恐れ |
主因 | 人手不足・物価高・後継者難 | 構造的課題への対応 |
特徴 | 零細・高齢経営者・あきらめ型 | 早期撤退・M&A・承継 |
対策 | DX・仕組み化・外部連携 | “人に頼らない経営”へ転換 |
💬 結論:
倒産の波は「経済の悪化」ではなく「構造の変化」から起きている。
この変化に適応した企業だけが、次の時代の“残る企業”となる。
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