Contents
- 1 ──海外展開する中小企業・経営者が押さえるべき“年金と保険料”のルール
- 2 1. 社会保障協定の2つの目的(おさらい)
- 3 2. 2025年12月1日時点:日本が協定を結んでいる24カ国
- 4 3. 「通算あり国」と「二重加入防止のみ国」に分けると見やすい
- 5 4. 「年金だけ」か「医療・労災・雇用保険も」かで国別に違う
- 6 5. 派遣期間ルール:原則「5年」がキーワード
- 7 6. 主要国別の「押さえるべきポイント」
- 8 7. 「どの国に出すか」で社会保険コストが変わる
- 9 8. 中小企業こそ「専門家×事前シミュレーション」が必須
- 10 9. まとめ:社会保障協定は「海外戦略×人事戦略×老後戦略」をつなぐインフラ
──海外展開する中小企業・経営者が押さえるべき“年金と保険料”のルール
海外展開が当たり前になった今、
- 海外子会社・支店への駐在
- 長期の技術指導・営業派遣
- 現地法人への転籍
- 海外からの外国人採用
など、国をまたいで働く人材 がどんどん増えています。
そこで必ず問題になるのが、
「社会保険(年金・医療など)は日本と相手国のどちらに払うのか?」
という論点です。
この“二重払い”や“年金受給資格”の問題を解決するために結ばれているのが
社会保障協定 です。厚生労働省
本記事では、2025年12月1日現在の情報をもとに、
- 日本が社会保障協定を結んでいる 24カ国の全体像
- 国ごとの 「二重加入防止」・「加入期間通算」 の違い
- 年金だけか、医療・労災・雇用保険まで対象か の違い
- 派遣期間(原則5年)の扱いの違い
を、経営者視点でわかりやすく整理します。
1. 社会保障協定の2つの目的(おさらい)
まずは大枠から。
厚生労働省・日本年金機構は、社会保障協定の目的を大きく以下の2つに整理しています。厚生労働省+1
- 保険料の二重負担を防ぐ
- 日本からドイツやアメリカなどに駐在させると、本来は
「日本の厚生年金+相手国の年金」
という ダブル加入 が発生します。 - 協定を結ぶことで、一定条件の下で「どちらか一方だけ」に加入すればよい、というルールを決めています。
- 日本からドイツやアメリカなどに駐在させると、本来は
- 年金加入期間の通算(掛け捨て防止)
- 各国とも老齢年金の受給には「加入〇年以上」という条件があります。
- 協定があると、日本と相手国の加入期間を通算して受給資格を満たせる場合があります(給付は各国別々に支給)。
経営者にとっては、
- 会社負担の社会保険コスト を抑える
- 駐在者・グローバル人材の 老後の不安を減らす
という2つの意味で非常に重要な枠組みです。
2. 2025年12月1日時点:日本が協定を結んでいる24カ国
厚生労働省の資料によると、
2025年12月1日現在、日本は24カ国と社会保障協定を発効済み です。厚生労働省+1
協定発効済みの国は以下のとおり(50音順):
- ドイツ
- イギリス
- 韓国
- アメリカ
- ベルギー
- フランス
- カナダ
- オーストラリア
- オランダ
- チェコ
- スペイン
- アイルランド
- ブラジル
- スイス
- ハンガリー
- インド
- ルクセンブルク
- フィリピン
- スロバキア
- 中国
- フィンランド
- スウェーデン
- イタリア
- オーストリア
(※オーストリアは2025年12月1日発効)厚生労働省+1
さらに、ポーランド、トルコ、ベトナムなどとは交渉中・実質合意済とされており、今後も拡大が見込まれています。厚生労働省+1
3. 「通算あり国」と「二重加入防止のみ国」に分けると見やすい
経営者として最初に押さえておきたいのは、
「加入期間の通算ができる国かどうか」 です。
厚生労働省の公式資料では、
「イギリス・韓国・中国・イタリアとの協定には、加入期間通算の規定は含まれていない」
と明記されています。厚生労働省+1
◆ グループA:
二重加入防止 + 加入期間通算ができる国(20カ国)
- ドイツ
- アメリカ
- ベルギー
- フランス
- カナダ
- オーストラリア
- オランダ
- チェコ
- スペイン
- アイルランド
- ブラジル
- スイス
- ハンガリー
- インド
- ルクセンブルク
- フィリピン
- スロバキア
- フィンランド
- スウェーデン
- オーストリア など厚生労働省+1
→ これらの国では、日本と相手国の年金加入期間を通算して受給資格を満たすことが可能 です。
◆ グループB:
二重加入防止のみ(期間通算なし)の国(4カ国)
- イギリス
- 韓国
- 中国
- イタリア厚生労働省+1
→ これらの国では、
保険料の二重払いは防げるが、加入期間の通算はできない という点が重要です。
特に中国・イタリアは、近年協定が発効した国として実務上の相談が多いエリアです。年金ネット+1
4. 「年金だけ」か「医療・労災・雇用保険も」かで国別に違う
社会保障協定と言っても、
対象となる制度は国ごとに違います。
日本年金機構の一覧では、
各国ごとに対象制度として、
- 公的年金
- 公的医療保険
- 労災保険
- 雇用保険
- 介護保険・家族給付
などが組み合わせで示されています。年金ネット+1
ざっくり整理すると、次のような傾向があります。
◆ パターン1:年金のみが対象の国(例:多くの協定国)
例:
- フィリピン
- スウェーデン など
これらの国との協定では、
公的年金制度のみ が二重加入防止や通算の対象となり、
医療や雇用保険などは、それぞれの国のルールで加入します。年金ネット
◆ パターン2:年金+医療保険が対象の国
例:
- ドイツ
- フランス
- ベルギー
- アメリカ などtokyo-visa35.com+1
これらの国では、
- 年金
- 医療保険(健康保険に相当)
について、少なくとも二重加入防止の対象となっています。
ベルギーなどでは、さらに労災・雇用保険まで対象に含まれるケースがあります。joea.or.jp+1
◆ パターン3:年金+雇用保険などが対象の国
例:
経営者への示唆
- 年金だけに意識が向きがち ですが、
医療・労災・雇用保険も含まれる国では、
トータルの社会保険料のインパクトが大きく変わります。 - 「どの拠点に海外子会社を作るか」「どの国に駐在者を出すか」を考える際、
法人税率だけでなく社会保障協定の対象範囲も比較項目に入れる と、中長期コストが読みやすくなります。
5. 派遣期間ルール:原則「5年」がキーワード
二重加入防止の中心ルールは、
“5年以内の一時派遣”かどうか です。
日本年金機構の説明では、概ね次のような運用が示されています。年金ネット+1
● 原則ルール
- 日本の会社から協定相手国に 5年以内の予定 で派遣
→ その期間は 日本の社会保険のみ に加入(相手国は免除) - 5年を超える予定の長期派遣
→ 原則として 派遣先国の制度に加入
● 5年を超えた場合の延長
- 当初5年以内の予定だったが、延長により5年超になった場合
→ 申請により、両国の合意が得られれば、最長5年程度まで延長 されるケースあり(例:イタリア・中国・スウェーデン等の説明会資料)。it.emb-japan.go.jp+2S-PAYCIAL+2
※ただし、協定や国ごとに細かいルールが違うため、個別確認が必須 です。
6. 主要国別の「押さえるべきポイント」
ここからは、日系企業の進出が多い代表的な国をピックアップして、
協定上のポイントをざっくり押さえます。
6-1. アメリカ
- 区分:二重加入防止+期間通算あり厚生労働省
- 対象制度:年金+一部医療(メディケア)等が対象joea.or.jp+1
- 特徴:
- 日米両国への年金二重払いを避けられる
- 日本側の加入期間が、米国の老齢年金の受給資格期間を満たすのにカウントされるため、短期駐在者でも米年金を受給できるケース が生じうる
6-2. ドイツ・フランス・ベルギーなど欧州主要国
- 区分:二重加入防止+期間通算あり
- 対象制度:多くの国で年金+医療保険+場合によっては労災・雇用保険まで対象年金ネット+1
- 特徴:
- トータルの社会保険料負担が大きいエリアだけに、協定の有無・内容がコストに直結
- 長期的な欧州展開を見据えた場合、拠点選びの判断要素 として重要
6-3. 中国
- 区分:二重加入防止のみ(通算なし)年金ネット+1
- 対象制度:年金を中心とした公的年金制度が対象年金ネット+1
- 特徴:
- 日中協定では、原則として 派遣開始日から5年間は派遣元国の年金制度のみ に加入する形(一定の延長余地あり)S-PAYCIAL+1
- ただし 加入期間の通算は一切なし。
→ 中国での短期勤務は、日本の老齢年金の受給資格には影響せず、逆も然り。
6-4. イギリス・韓国・イタリア
- 区分:二重加入防止のみ(通算なし)厚生労働省+1
- 特徴:
- ロンドン・ソウル・ミラノなど、拠点候補としてよく挙がる国だが、
“通算が効かない”点を理解しておく必要あり。 - イタリアは年金+雇用保険が協定対象だが、やはり通算は不可。年金ネット+1
- ロンドン・ソウル・ミラノなど、拠点候補としてよく挙がる国だが、
6-5. オーストラリア・カナダ・オランダなど
- 区分:二重加入防止+通算あり厚生労働省+1
- 特徴:
- 永住権・移民先として人気の高い国が多く、
「日本+相手国の年金をそれぞれ按分支給」という形になりやすい。 - 長期的なキャリア設計・老後生活を考える際に、通算ありは大きな安心材料。
- 永住権・移民先として人気の高い国が多く、
7. 「どの国に出すか」で社会保険コストが変わる
ここまでの比較から見えてくるのは、
「海外進出先・駐在先の国選びは、
法人税や人件費だけでなく、“社会保障協定の中身”でも差が出る」
という点です。
経営者目線でのチェックポイント
- 協定の有無
- そもそも社会保障協定がない国の場合、
日系駐在員は 日・現地双方で年金保険料を払う可能性 があります。
- そもそも社会保障協定がない国の場合、
- 通算規定の有無
- 通算がない国(イギリス・韓国・中国・イタリア)は、
短期駐在が多いほど「掛け捨て」になりやすい。
- 通算がない国(イギリス・韓国・中国・イタリア)は、
- 対象制度の範囲
- 年金だけ対象の国と、医療・労災・雇用まで対象の国では、
会社負担の総コストが大きく変わる。
- 年金だけ対象の国と、医療・労災・雇用まで対象の国では、
- 派遣期間と延長のしやすさ
- 原則5年。延長できるかどうか、
また延長申請が現実的かどうかは国ごとに異なります。年金ネット+1
- 原則5年。延長できるかどうか、
8. 中小企業こそ「専門家×事前シミュレーション」が必須
大企業と違い、中小企業は
- 駐在員一人あたりの社会保険コスト
- 手続きの手間
- 万が一のミスによる追徴リスク
の影響が経営にダイレクトに跳ね返ってきます。
実務的なおすすめステップ
- 候補国ごとに協定の有無と内容を一覧化する
- 「二重加入防止のみ」か「通算あり」か
- 「年金だけ」か「医療・労災・雇用まで」か をざっくり整理
- 派遣パターンごとに社会保険料のシミュレーションを行う
- 「3年駐在」
- 「5年駐在の可能性」
- 「現地採用への切り替え」など
- 社会保険労務士・国際税務に強い専門家への相談
- 協定の個別解釈
- 実務上の申請手続き(適用証明書の取得等)nenkinichikawa.org+1
- 従業員への説明・同意プロセス
- 「なぜこの国を選ぶのか」
- 「会社がどこまで保険料を負担するのか」
- 「将来の年金にどう影響するか」
を明確にしておくことで、
グローバル人材の安心感・エンゲージメントも高まります。
9. まとめ:社会保障協定は「海外戦略×人事戦略×老後戦略」をつなぐインフラ
最後に要点を整理します。
- 2025年12月1日現在、日本は 24カ国と社会保障協定を発効済み。厚生労働省+1
- 協定は
① 二重加入の防止 と
② 年金加入期間の通算 を目的とした枠組み。厚生労働省+1 - 国によって
- 通算ができる国(20カ国)
- 二重加入防止のみの国(イギリス・韓国・中国・イタリア)
に分かれる。厚生労働省+1
- 対象制度も
- 年金だけ
- 年金+医療
- 年金+医療+労災+雇用
など、国ごとに違う。年金ネット+1
- 派遣期間は 原則5年 が基準。延長や例外は協定・国ごとにルールが異なる。年金ネット+1
海外展開を考える経営者にとって、
社会保障協定は「単なる年金の話」ではなく、
海外戦略 × 人事戦略 × 老後の財産戦略
をつなぐ“見えないインフラ”です。
今後、ポーランドやベトナムなどとの協定が発効していけば、
さらに選択肢は増えます。厚生労働省+1
「海外に出す前に、必ず社会保障協定を確認する」
これを社内ルールにしておくだけでも、
長期的なリスクとコストは大きく変わってきます。