『7業種の倒産動向に学ぶ ― 生き残る経営者、沈む経営者の分かれ道』

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はじめに

2025年、我が国の中小企業を取り巻く環境は、決して“安全圏”とは言えなくなってきています。特に「倒産件数」が増加傾向を示しており、業種を問わず構造的な転換が進んでいます。実際、最新の 帝国データバンク や 東京商工リサーチ の調査によれば、多くの業種で倒産が過去最多ないしそれに近い水準となっています。

一方で、例外的に“逆風”の中で比較的好調を維持している業種もあります。例えば製麺所。なぜこのような二極化が起きているのか。この記事では、以下の7業種を取り上げ、それぞれの倒産状況を整理するとともに、経営者が「自社をどう変えるか」「どんな備えが必要か」を考えるための視点を提示します。

対象となる7業種:

  1. 製麺所(製麺業)
  2. すし店(寿司)
  3. 中華料理店
  4. ハンバーガー店
  5. 経営コンサルティング業
  6. 医療機関/歯科医院
  7. (補足として)飲食店全体・その他流通・サービス系の倒産潮流

※ただし、今回は「6業種」として整理します(製麺所・すし店を“比較的健闘”業種とし、それ以外5業種を“危機業種”として位置づけます)。


1.製麺所の倒産は減少、だが油断禁物

まず、製麺所の状況です。帝国データバンクの調査によると、2025年1~10月の製麺所の倒産件数は「4件」にとどまり、過去10年で最少ペースとなっています。 TDB+2カブドットコム+2
この数字だけをみると「かなり好調」と映ります。

なぜ好調と言えるか

  • 飯食業界でコメ価格が高騰する中、麺類(ラーメン・うどん・中華麺・パスタ等)の需要が拡大している。帝国データバンクも「コメ高騰を背景に麺メニューが増加」「家庭用でもパスタ・中華麺などが主食替わりになった」と分析しています。 FNNプライムオンライン+2カブドットコム+2
  • 製麺所において「増収」の割合が38.9%と、過去20年で比較的高い水準。利益を「増益」とした事業者も44.2%に達し、赤字の割合も19.3%と過去最少レベル。 TDB+1
    このように、需要側の追い風+業界内での改善が倒産件数の低下につながっていると理解できます。

しかし、注意すべき点もあります

  • コスト構造の重さ:製麺所は原材料(小麦・輸入小麦価格)やエネルギーコスト、包装・運送、人件費など上昇圧力を受けています。帝国データバンクも「エネルギーコスト・人件費増加に直面し、価格転嫁が難しい企業では減益・赤字のケースも」であると指摘しています。 TDB+1
  • 需要拡大が「一時的」である可能性:コメ高騰→麺需要→という流れは追い風ですが、消費構造や競争環境が変われば逆風に転じる可能性もあります。帝国データバンクが「この需要シフトは一時的となる可能性もある」と警鐘を鳴らしています。 FNNプライムオンライン
  • 業界全体の構造課題:製麺業界自体は、後継者難・機械老朽化・規模縮小が進んでおり、「斜陽化」の側面も指摘されています。例えば、ある記事では「東京都内の製麺会社が20年前から半減した」などの指摘も。 賢者の選択サクセッション

経営者へのメッセージ(製麺所・加工業者向け)

  • 需要が追い風である今、「特注麺」「飲食店専用」「OEM開発」など、付加価値を高める方向を強化すべきです。
  • 価格競争に巻き込まれないために、ブランド化・商品差別化・販路多様化(家庭用・海外・飲食店向け)を進めること。
  • コスト上昇リスクに備え、原材料調達の見直しやエネルギー効率改善、運送コスト低減、人件費管理を事前に仕組み化すべき。
  • 「追い風がいつ終わるか」を想定して、先行して収益構造の強化を図ること――受け身ではなく、備えあれば憂いなし、です。

2.すし店(寿司業界)-回復傾向にあるが構造リスクあり

次に、すし店の状況を整理します。2025年1~10月の「すし店」倒産は17件で、前年同期比29.1%減となっています。 カブドットコム
この減少は、コメ高騰・インバウンド需要の回復などが背景にあると言われています。

好調の背景

  • 外食支出の回復:データによると、二人以上世帯の寿司(外食)の年間支出が2024年には約16,236円まで戻っており、22年ぶりに1万6千円台に回復しています。 カブドットコム
  • 訪日外国人(インバウンド)需要の拡大:2025年9月までに累計3,000万人超の訪日客が記録され、「すし店」にとって追い風となっています。 カブドットコム

ただし、見過ごせない構造課題も

  • 小規模店の苦戦:町のすし店は職人確保・食材価格高騰・運営コスト上昇・競合激化などで引き続き厳しい。価格転嫁も難しい。 カブドットコム
  • インバウンド頼みのリスク:インバウンド需要が続くとは限りません。旅行者数の変化、為替・政策・海外情勢の影響もあります。
  • 競争環境の変化:回転寿司チェーンの出店拡大や安価化、チェーン化進展により、個人店・町のすし店には厳しい環境が続いています。

経営者へのメッセージ(すし業界向け)

  • インバウンド・観光需要に依存せず、地域住民や常連客の基盤を強化すべきです。
  • 食材・人件費・光熱費などのコスト上昇に対して、メニュー構成・原価見直し・効率化による“稼げる構造づくり”を進めること。
  • ブランド化や専門化(高級握り、地域食材、体験型寿司、テイクアウト寿司など)によって価格転嫁可能な価値を構築すべき。
  • 後継者育成・職人確保・業務効率化など、慢性的な人材課題に取り組むことが、生き残りに直結します。

3.中華料理店 ― 倒産件数が急増、構造転換期へ

中華料理店の倒産も、2025年1~10月で20件に達し、過去10年で最多水準に戻る見込みです。 ITmedia+1
ここ数年低位で推移していた「町中華」ですが、2025年に入って急に苦境が鮮明となっています。

苦境の背景

  • 食材・光熱費・人件費などのコストが高騰。特に野菜・ラード・油・光熱等が重くのしかかっています。 テレ朝NEWS
  • 売上不振が主要因(70%)となっており、赤字累積型の倒産も増加しています。 ITmedia
  • 競争激化:他業態(ラーメン・焼肉・定食など)やチェーン大型店の競争が激しくなり、町中華が価格・量・技術だけでは差別化しづらくなっています。

経営者へのメッセージ(中華料理店向け)

  • コスト上昇を吸収・転嫁できる“独自性”を強めるべき。例えば、素材拘り・体験性・テーマ化など。
  • テイクアウト・デリバリー・冷凍中華メニューなど店舗外展開を検討し、収益チャネルを多様化すべき。
  • 業務効率化・人材確保(スタッフトレーニング・短時間勤務等)を積極的に行い、固定費構造を軽くすべき。
  • 小規模店ゆえの強み(地域密着・口コミ・リピート)を改めて磨き直す必要があります。

4.ハンバーガー店 ― 小規模店の淘汰が進む

2025年1~10月のハンバーガー店倒産は8件で、過去最多を更新するペースとなっています。統計開始以降で最多となった事態です。 カブドットコム
その背景には「2,000円超バーガー」など“高級化”の流れと、格安チェーンとの二極化があります。

苦境の背景

  • 価格のボラティリティが激しく、消費者の財布の紐が固いため“価格転嫁”が難しい。
  • 小規模店(従業員5名未満が中心)は、固定費・仕入れコストが圧迫され、チェーン・大量生産型・ブランド力ある店に太刀打ちできなくなっています。
  • 全件“破産型”で再建型の道がほとんどとれておらず、撤退を選ぶ事業者が増加しています。

経営者へのメッセージ(バーガー系飲食店向け)

  • 小規模店だからこそ、強みを尖らせるべき(テーマ化、高級素材、地産地消、限定メニューなど)。
  • コスト管理を徹底し、サプライチェーンの見直し(仕入れ先の見直し・原価構造の可視化)を実施すべき。
  • ブランド・SNS・口コミ・体験価値を武器に、チェーン店とは異なる“魅力”を打ち出すべき。
  • “生き残るための副収入”も視野に入れ、例えば物販・冷凍販路・イベント出店など多チャネル展開を検討すべきです。

5.経営コンサルティング業 ― “経営のプロ”も厳しい時代へ

2025年1~10月で、経営コンサルティング業者の倒産件数は146件に達し、昨年の159件を上回るペースで推移しています。 TDB+1
これは経営支援を行う“プロ”とされる業種自身が淘汰期に入っていることを示唆しています。

背景と構造的な課題

  • コロナ禍での「DX/IT導入」特需が一段落し、顧客ニーズが高度化・多様化しています。単なるIT導入支援、補助金申請代行では限界に来ています。 TDB+1
  • 生成AIや自動化が進む中、人件費・稼働率・スケーラビリティに課題を抱える小規模コンサルが淘汰されています。特に資本金1000万円未満のコンサルが8割超を占めるというデータも。 サードニュース
  • 収益モデルの脆弱性。少数企業に受注依存、大型案件を獲れず、固定費(オフィス費用・人件費)を抱えてしまっているケースが散見されます。

経営者へのメッセージ(コンサル業/専門サービス業向け)

  • “低単価・汎用サービス”モデルから脱却し、「高付加価値」「専門性」「成果保証型」へシフトすべき。
  • 技術・AI・自動化ツールを活用して、業務効率を高め、スケール可能なサービスを構築すべき。
  • 営業チャネル・顧客構成を見直し、受注の偏りを減らし、複数顧客・長期契約に移行すべき。
  • 自社自身が「経営モデルの変化を体現する存在」であるべき。クライアント企業を支援するだけでなく、自社を“模範”にできているか確認すべきです。

6.医療機関/歯科医院 ― 社会インフラでも経営は厳しい

最後に、医療機関および歯科医院の倒産動向を。2025年1~10月の累計で医療機関(病院・診療所)56件、歯科医院23件となっており、2024年実績(64件)を上回るペース。 カブドットコム
病院が15年ぶりに2桁倒産となるなど、医療・福祉の分野でも経営環境が厳しいのです。

背景

  • 人件費(医師・看護師・技師)、設備維持・更新、光熱費・物価上昇が医療機関のコストを押し上げています。
  • 一方で、診療報酬・公的補助・患者数の伸び率が追いついておらず、採算が悪化している施設が増えています。 カブドットコム
  • 地域医療・中堅・小規模医療機関が特に影響を受けており、「後継者難」「人口減少」「医療過剰供給地域」など構造課題も複合しています。

経営者へのメッセージ(医療・歯科機関向け)

  • 経営効率化・業務改善を推進し、固定費構造を見直すこと。例えば、設備の統合・連携・アウトソーシング化。
  • 新たな収益源(予防医療、地域連携、デジタル診療、在宅医療)などへの転換を検討すべき。
  • 強みを活かした差別化:例えば「地域特化」「専門診療」「高齢者向け包括ケア」など、競合との差を明確にする。
  • 後継者育成・リスクマネジメント(経営者リスク、災害・パンデミック対応)など、長期視点の経営を構築すべきです。

7.共通して浮かび上がる“生き残りの条件”

以上6業種を通じて、倒産が増える業種・減る(比較的)業種、それぞれに共通する構造が見えてきます。ここでは、経営者が自社に落とし込むべき“生き残りの条件”を整理します。

(1) 価格転嫁力・付加価値構築

多くの倒産業種が、「コスト上昇を顧客価格に転嫁できない」弱さを抱えています。逆に、製麺所のように強みを活かして付加価値をつけ、価格転嫁を進めている業者は倒産件数を抑えています。
価格を上げるにはお客様に“価値”を感じてもらわねばなりません。
→ 商品・サービスを「差別化」し、「競争軸を価格から価値へ」転換することが重要です。

(2) コスト構造の見える化と固定費軽減

人件費・光熱費・原材料・設備維持などのコスト上昇が共通の重荷です。これをただ“我慢”するのではなく、「見える化」し、「固定費を可変化」できる仕組みを構築する企業が強い。
→ 生産性・効率・物流・間接業務の改善を継続的に行うこと。

(3) 小規模ゆえの脆弱性を補う“協業・連携”

小規模零細企業ほど、受注依存・人材依存・備えの弱さ・リスク分散力の低さが倒産要因となっています。経営コンサル業や飲食の小規模店が特に影響を受けています。
→ 他社との協業・販路共有・業務提携・M&Aや事業承継準備を通じて“スケール”あるいは“水平連携”を検討すべきです。

(4) ニーズ変化・構造変化を先読みする力

技術・消費・社会構造の変化が加速する中で、伝統的な強みだけでは通用しなくなっています。例えば、コンサル業界では「まずはIT」需要が峠を迎え、次の段階が求められています。製麺所でも「麺人気」が追い風ですが、それが永続とは限りません。
→ 市場・顧客ニーズの変化を定期的にモニタリングし、自社のビジネスモデルをアップデートし続ける力が必要です。


おわりに

2025年の倒産動向は、中小企業経営者にとって“警告”と“学び”の両面を持っています。
倒産が急増している5業種では、「価格転嫁できない」「コスト構造が重たい」「小規模ゆえの脆弱性」「顧客ニーズ変化への対応遅れ」が明確に浮かび上がっています。
一方、製麺所・すし店といった“比較的健闘している”業種も、決して油断できる状況ではありません。追い風の時期だからこそ、「次の逆風に備える」取り組みを先行しておくことが、中小企業経営者に求められています。

このデータは、単なる統計ではなく“行動”につなげるためのヒントです。
今こそ、自社を俯瞰し、数字を味方に、変化を味方に、人と仕組みを味方に――
「しなやかに、強く、生き残る経営」を、ぜひ実践していただきたいと思います。

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