価格が吸収できない企業が消える時代へ:物価高・税滞納・ゼロゼロ融資後倒産のリアルと中小企業が今すぐ取るべき3つの対策

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はじめに

2025年の秋口──円安が再び進み、原材料価格や人件費・光熱費の高騰が、企業の収益構造を直撃しています。こうしたコストアップの波を受けて、東京商工リサーチ(TSR)が発表した最新データでは、「物価高倒産」「税金滞納倒産」「ゼロゼロ融資後倒産」の3つが、特に中小・零細企業で急増しています。今回はこの“止まらない倒産トレンド”を整理し、中小企業経営者として即実践すべき経営改善のヒントを提示します。


① 物価高倒産:価格転嫁できなければ倒れる

まず、物価高倒産の実態を見てみましょう。TSRによると、2025年10月に発生した「物価高倒産」は85件、前年同月比 +88.8%、約1.9倍となりました。 TSRネット+1 さらに、1〜10月累計では638件(前年同期比 +9.6%)で、年間では前年の702件を上回るペースにあります。 TSRネット
この数字が示すのは、「仕入原材料・エネルギー・人件費の価格上昇」を受けて、それを価格に転嫁できなかった企業が倒産に追い込まれているという構図です。

特に被害を受けているのが小・零細企業です。資本金1,000万円未満が57件(構成比67.0%)、従業員数10人未満が63件(構成比74.1%)も占めています。 TSRネット さらに倒産形態をみると「破産」が78件(構成比91.7%)にのぼり、再建まで持ちこたえる体力を持たない企業が多く含まれています。

この傾向から読み取れるのは、価格転嫁の遅れやブランド力・価格決定力の弱さが倒産リスクを加速させるということです。特に取引先・顧客・仕入先との交渉力が弱く、固定費が重くのしかかっている企業は、コスト転嫁できず利益が圧迫され、結果として資金繰りが悪化します。

また、円安による輸入原材料高も背景にあります。国内産であっても、輸入品や原材料・包装資材・エネルギーの海外依存度が高い企業は影響が大きく、円安局面が長期化すれば、コスト構造改革が急務となります。

⇒ 経営者が今すぐ見直すべきポイント

  • 原価上昇幅を可視化し、価格転嫁可能か検証する

  • 価格競争に巻き込まれていないか、値上げの余地・ブランド力を見直す

  • 固定費(人件費・賃料・光熱費)を「変動費化」する工夫を検討する

  • 仕入れ・輸入比率を見直し、円安の影響を受けづらい調達構造にシフトする


② 税金滞納倒産:支払い義務が圧力となる

次は「税金滞納倒産」です。2025年1~10月、税金(社会保険料を含む)滞納が原因となった倒産件数は137件で、2年連続で100件超えとなりました。 TSRネット+1 負債総額は464億2,800万円となり、前年同期比 −25.7%ではあるものの、負債1億円未満が70件(構成比51.0%)と、小規模企業の割合が増加しています。 TSRネット
滞納というと“支払い先を延ばしているだけ”のように思いがちですが、実際には支払義務そのものが「資金繰りの壁」になっています。特に、社会保険料・住民税・法人税・消費税などは “毎月・定期的”に発生する固定支出であり、売上が戻らなければたちまち支払いが滞る構造です。

加えて、賃上げ・人材確保の必要性が高まっている中、社会保険の適用拡大など負担増の動きが中小企業を直撃しています。収益が厳しい中で、社保料の支払いが重荷となれば、他の経費が削れず、滞納→金融機関の信用低下→資金調達困難→倒産という“負のスパイラル”に陥る可能性があります。

⇒ 経営者が今すぐやるべき対策

  • 社会保険料・税金支払いスケジュールを把握、資金繰りと連動して管理する

  • 支払いに窮したら、速やかに税務・社保当局と“分割納付”や“延納”の相談を行う

  • 利益確保とともに「支払い余力」を意識した資金ポジションを維持する

  • 固定費の見直し(人件費以外)と利益改善の両輪で支払い余力を高める


③ ゼロゼロ融資後倒産:返済スタートで見える資金ショック

最後に「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)利用後の倒産」です。2025年10月には38件(前年同月比 −5.0%)発生し、累計では2,154件に達しています。 TSRネット 従業員10人未満企業が37件(構成比97.3%)と、ほとんどが小規模事業者です。
コロナ禍の緊急融資・借換保証が終了し、返済本格化段階に入る中、融資を受けたものの収益改善が追いつかず、資金繰りが破綻する企業が表面化しています。

特に注意したいのが「名目上売上が上がっていても倒産する」いわゆる“黒字倒産”のリスクです。物価上昇や値上げによる売上増があっても、コスト上昇分を吸収できず、実質のキャッシュフローがマイナスというケースが増えています。TSRも「物価高による名目上の売上増をたどった場合、返済原資を確保できずて資金繰りに行き詰まる企業も出てくる」と指摘しています。 TSRネット
また、年末年始に向けて資金需要が活発化する時期であり、過剰債務を抱える企業は新規資金調達にも限界が出てくるため、今から「返済可能か?」を問い直す必要があります。

⇒ 経営者が今すぐ点検すべきこと

  • 借入返済スケジュールを“本格返済”スタート前に確認・見直す

  • 売上高だけに注目せず、「キャッシュフロー」で収益構造を把握する

  • 過剰債務となっていないか、借入金/自己資本比率・返済可能性をチェック

  • 専門家(認定支援機関/税理士)と「返済計画の見直し」「再建の仕組み作り」を検討する


④ なぜ「今」倒産が増えるのか?共通する3つの構造

これら3つの倒産動向には、共通する経営構造の問題があります。

  1. 価格転嫁できない構造
     原材料・人件費・光熱費が上がる中、値上げが難しい業種・商品構造では利益が圧迫されます。

  2. 資金繰り余力の欠如
     支払い義務(税金・社保・借入返済)が定期的・固定的に発生し、利益=キャッシュフローではない企業ほど支払い不能に陥ります。

  3. 小規模・零細での脆弱性
     従業員数10人未満・資本金1,000万円未満の企業が中心。交渉力・ブランド力・内部管理体制が弱く、外部変化に対応できないケースが目立ちます。

このような構造が重なると、外部要因(円安・物価高・金利上昇)がトリガーとなって“耐えられないスピード”で倒産に至るのです。


⑤ 中小企業経営者が取るべき3大アクション

倒産を防ぐため、経営者として今すぐ取り組むべきアクションを3つ挙げます。

アクション A:価格・収益構造の見直し

・値上げの余地を検証し、価格転嫁できないと判断したらコスト削減・商品構造改革を検討
・高付加価値化、オリジナル商品の開発、ブランド強化を進めて価格決定力を高める
・仕入れ(輸入品・包装資材・エネルギー)構造を見直し、円安に強い調達体系へ

アクション B:資金繰り力・キャッシュフロー管理の強化

・「売上−費用=利益」ではなく、「入金−出金=キャッシュフロー」で経営状況を把握
・税金・社会保険料・借入返済など固定支出の支払いスケジュールを可視化し、予防的に対応
・専門家の支援を受けて、返済計画・改善計画を策定(補助金・保証制度活用も検討)

アクション C:再建・改善支援制度の活用

・信用保証協会の「経営改善サポート保証」、中小企業庁の「経営改善計画策定支援(405事業)」などを早期に検討
・支援制度の特徴・選び方・申請要件を理解し、早期に行動を起こすことがリスク回避のカギ
・今は“待ち”の姿勢ではなく、“改めて構造を立て直す”姿勢が求められています


⑥ まとめ:待ってはいけない変化対応

円安・物価高・人件費上昇という“外部環境の波”は、一時のものではなく構造化しつつあります。
その中で「価格を上げられない」「支払いが滞る」「返済が始まる」という3つの要因が、それぞれ倒産を誘発しています。
中小企業にとっては、ただ売上を追うだけでなく、価格決定力・キャッシュフロー管理・改善支援制度活用に“先手”を打つことが生存の分かれ目です。
「もう少し様子を見よう」という遅れが、次の倒産につながる可能性があります。
経営者として、今この瞬間に「構造を変える」決断を。そして行動を。

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