Contents
はじめに:人手不足倒産という新たな危機
2025年度上半期(4〜9月)、人手不足を原因とする倒産が214件発生し、上半期としては過去最多を更新しました。これは単なる「人が足りない」問題ではなく、中小零細企業の経営構造そのものが限界に近づいているサインとも言えます。
本記事では、この人手不足倒産の実態を整理し、中小企業が参考にできる生き残り戦略・具体例をまじえて解説します。
1. データから見る「人手不足倒産」の実態
1.1 件数の急増と業種別傾向
-
214件:2025年上半期の人手不足倒産件数。前年同期比で +51件 と大幅増。
-
業種別では、とくに 道路貨物運送業 が 33件(前年19件→+14件増)で突出。
-
その他、老人福祉事業(11件)や 労働者派遣業(8件)など労働集約型サービス業も増加。
-
この傾向は「人がどう働くか」に大きく依存する業種が、構造変化の波に飲まれている証左です。
1.2 価格転嫁率から見える限界
-
帝国データバンクの調査によると、全業種平均の価格転嫁率は 39.4%。
-
対して、道路貨物運送業は 28.6% と底が見える水準。
-
要するに、コスト上昇分を顧客に転嫁できず、利益が削られ続けるという構図。
1.3 最低賃金の引き上げという追い風・逆風
-
2025年度の最低賃金は全国加重平均で 1,121円 に引き上げ。前年比 +66円。
-
この上昇は過去最大幅だが、賃上げ余力のない中小・零細企業にとっては重荷。
-
人件費高騰 + 賃金負担増加が、人手不足倒産を加速させる背景となっています。
1.4 さらに拡大する傾向:TSRのデータも裏付け
-
東京商工リサーチ(TSR)によれば、2025年1〜9月の人手不足関連倒産は 285件 に達し、過去最多を更新。
-
中でも「求人難」「従業員退職」「人件費高騰」がそれぞれ過去最多に。
-
特に「従業員退職」は前年同期比 1.6倍 に増加し、人材流出傾向が鮮明化しています。
2. なぜ中小企業は「人手不足倒産」に陥るのか?構造的要因の分析
以下は倒産する企業に共通した構造的な弱点です:
-
採用コスト・採用難
-
求人費用上昇、広告単価高騰、WEB採用の競争激化
-
若年層が大企業・IT・ホワイト企業に流れやすい
-
-
定着できない・辞められる現場
-
労働条件・環境の悪さ
-
キャリアパス不在/評価体系不明瞭
-
長時間労働・過重業務・残業文化
-
-
人件費が吸収できない事業構造
-
価格転嫁できない:特に物流・運送業など
-
利幅が薄いビジネスモデル
-
コスト高(燃料・保険・整備など)と賃上げの二重苦
-
-
スケールの限界
-
小規模店舗・事業者は量を稼げない
-
多店舗化・ノウハウ蓄積・投資余力がない
-
-
技術・自動化投資の遅れ
-
DX化・自動化を後回しにしてきたツケ
-
人依存業務が多く、破綻誘因が多い
-
これらを無視すると、人が採れず、辞められ、利益を出せない悪循環に陥ります。
3. 中小零細企業が今すぐ実行すべき“選ばれる会社”戦略
以下は、すぐにでも取り掛かれる具体的戦略です。
3.1 採用効率化・チャネル多様化
-
求人導線の簡略化:LINE応募・スマホ応募フォーム、SNS拡散など。
-
魅力発信:社内風景、人のストーリー、社員インタビューを公開。
-
リファラル採用活用:紹介報酬・インセンティブを設計。
-
アウトソーシング:採用業務の一部を外注化、スクリーニングを専業に任せる。
3.2 定着・離職防止強化
-
キャリアパス設計:昇格・等級制度・役割明確化
-
評価制度の透明化:目標管理・面談制度
-
福利厚生の強化:住宅手当、通勤補助、リフレッシュ休暇
-
働き方柔軟化:時短勤務・シフト制の導入
3.3 生産性向上・自動化投資
-
IT導入:勤怠管理、業務支援(RPA・業務効率化ツール)
-
補助金活用:IT導入補助金、省力化投資補助金
-
業務棚卸:不要業務を削除し従業員の時間を創出
3.4 価格・収益構造見直し
-
価格転嫁交渉:顧客・取引先に価値説明、価格上昇を理解してもらう
-
付加価値サービス展開:保証・サポート・保守契約・パッケージ化
-
収益モデルの多様化:サブスク、メンテ契約、定額制併設
3.5 規模拡大・統合戦略
-
業務提携・共同配送:近隣業者とコストシェア
-
M&A・事業譲渡:買収で規模をつくる、事業承継型に切り替える
-
連携ネットワーク:地域ネットワーク・共同購買組合を設立
4. 実例:成功した中小企業の取り組み
-
物流業A社(地方運送)
→ AIルート最適化システム導入、ドライバー稼働率UP、採用コスト削減 -
介護B社
→ 夜勤シフト手当見直し、定着支援制度導入 → 離職率低下 -
製造C社
→ 補助金でロボット導入。残業工数半減、人員削減せず利益改善
5. 今後の見通しとリスク要因
-
人手不足倒産は年間300件台へ拡大も
-
最低賃金はさらに上がる可能性大
-
輸入コスト高・円安の影響が事業を圧迫
-
技術革新・AI対応が遅れた企業は相対的に淘汰
-
“働きたい会社≠給料だけ”の時代、魅力設計が不可欠
6. まとめ:倒産理由の王者は「人」である
-
2025年上半期、人手不足倒産が過去最多の214件。
-
運送・介護・派遣などの労働集約型業種が特に深刻。
-
価格転嫁できず利益圧迫、賃上げ困難がトリガー。
-
中小企業は“採用・定着・効率化”を一気通貫で改革すべき時期に来ています。
“人を制する者が経営を制す”
採れない・辞める・続かない会社は、いずれ淘汰される。
今、できることを即実行することが、未来を守る第一歩です。
お問い合わせ