相続の場面で重要な手続きとなる「限定承認」と「単純承認」。いずれも相続人が被相続人の財産をどのように引き継ぐかを決定する方法で、それぞれにメリットやデメリットがあります。事業承継やM&Aを計画している中小企業にとっても、相続の手続きを正しく理解しておくことが、スムーズな承継に繋がります。本記事では、「限定承認」と「単純承認」の概要と選択時のポイントを詳しく解説していきます。
Contents
「限定承認」と「単純承認」の基本概念
相続が発生した場合、相続人は次の3つの方法から選択して財産を承継します:
- 単純承認:すべての財産と負債を無条件で引き継ぐ
- 限定承認:プラスの財産の範囲内で負債も引き継ぐ
- 相続放棄:一切の財産と負債の承継を拒否する
ここでは、相続人が財産を引き継ぐ際の方法として「限定承認」と「単純承認」に焦点を当て、それぞれの特徴を解説します。
単純承認:財産も負債も全て引き継ぐ
単純承認は、被相続人の全財産と負債をそのまま引き継ぐ方法です。単純承認を選択すると、相続人は負債の額が相続財産を上回っていたとしても、すべての債務を弁済する義務が発生します。
単純承認のメリット
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手続きが簡単
単純承認は特別な申請を行わず、原則として放置しておくだけで成立します。 -
財産を全て引き継げる
プラスの財産が負債を上回っている場合、財産をそのまま受け取ることができるため、資産の多い相続において適しています。
単純承認のデメリット
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負債が残るリスク
負債が相続財産を上回っている場合、すべての借金を引き継ぐことになるため、返済に苦しむ可能性がある。 -
単純承認のタイミングに注意
相続開始後、相続人が被相続人の財産を処分したりする行為を行うと、単純承認とみなされる「法定単純承認」が適用されます。これにより意図せずにすべての財産と負債を引き継ぐことになります。
限定承認:プラスの財産の範囲内で負債を引き継ぐ
限定承認は、相続財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。例えば、相続財産が500万円で負債が700万円だった場合、相続人は500万円の負債のみ支払えばよく、残りの200万円は返済する必要がありません。
限定承認のメリット
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負債が多い場合でもリスクを最小限に抑えられる
限定承認を行うことで、相続財産の範囲内で負債を整理できるため、負債が財産を上回っていても過剰な支払い義務が生じません。 -
事業承継でのリスク管理
被相続人の事業を引き継ぐ際にも、負債を限定しつつ事業の財産を守ることができるため、事業承継やM&Aを行う際に便利です。
限定承認のデメリット
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手続きが複雑
限定承認は、相続開始から3か月以内に家庭裁判所に申請する必要があり、単純承認よりも手続きが多いのが特徴です。 -
費用がかかる可能性がある
限定承認を行う場合、専門家による財産評価や家庭裁判所の手数料が発生するため、金銭的な負担がかかります。
限定承認と単純承認の選択基準
1. 負債額の確認
被相続人の負債が財産よりも多い場合や、負債の額が不明な場合は、リスクを軽減するために限定承認が検討されます。
2. 事業承継におけるリスクの調整
事業承継の場面では、負債も含めた資産承継が必要ですが、限定承認を行うことで、負債が相続財産を超えた場合でも過剰な負担を回避できます。
3. 手続きの簡便さを優先する場合
手続きをできるだけ簡単に済ませたい場合や、相続財産に大きなリスクがない場合には単純承認が適しています。
実際の相続手続きでの注意点
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法定単純承認に注意する 被相続人の財産に手をつけた場合、単純承認が成立してしまう可能性があるため、相続の意思決定をするまでは慎重な行動が求められます。
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期限内の判断と申請が重要
限定承認を選択する場合、相続が発生したことを知ってから3か月以内に家庭裁判所への申請が必要です。期限を過ぎると単純承認として扱われるため、素早い判断と行動が求められます。 -
専門家のサポートを活用する
相続に関する法的な手続きは複雑であるため、特に事業承継が絡む場合は、弁護士や税理士といった専門家に相談することがスムーズな相続手続きのカギとなります。
限定承認と単純承認の選択におけるまとめ
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単純承認
財産と負債をすべて引き継ぐため、手続きが簡単であり、相続財産に大きなリスクがなければ選択肢として適しています。 -
限定承認
負債のリスクを最小限に抑えたい場合や、被相続人の負債額が不明な場合に効果的な方法です。
相続の方法を選択することで、事業承継やM&Aの場面でもリスクを最小限に抑えつつ、スムーズに財産を引き継ぐことができます。正しい選択を行い、後々のトラブルを回避するために、相続に関する基本知識をしっかりと身につけておきましょう。