令和8年度で拡充された人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」とは? 中小企業の人材育成戦略を大きく変える制度の全体像

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はじめに
近年、企業経営において「人材の再教育」や「リスキリング」という言葉が急速に広がっています。デジタル化、脱炭素化、業務効率化などの環境変化の中で、企業が持続的に成長していくためには、従業員のスキルを新しい分野へとアップデートしていくことが不可欠になっているからです。

こうした背景の中で、厚生労働省が用意している制度の一つが「人材開発支援助成金」です。その中でも特に注目されているのが、事業展開等リスキリング支援コースです。この制度は、企業が新しい事業分野へ挑戦したり、DXやGXなどの成長分野に対応するために従業員へ教育訓練を実施する際に、その費用の一部を助成する制度です。

令和8年度においては、この制度がさらに拡充され、企業の人事戦略や人材育成計画と連動した訓練も助成対象に含まれるようになりました。

さらに大きなポイントとして、訓練と連動した設備投資に対する助成制度が新設され、制度の魅力が大きく高まっています。

これにより、単なる研修費用の補助ではなく、企業の経営戦略と人材戦略を結びつける制度としての位置づけがより明確になっています。

人材開発支援助成金とは何か

まず、人材開発支援助成金とは、企業が雇用する労働者に対して職業訓練や教育訓練を実施した場合に、訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。企業が計画的に人材育成を行うことを支援することで、労働者のキャリア形成を促進し、企業の生産性向上につなげることを目的としています。

企業が教育訓練を実施する際には、どうしても研修費用や研修期間中の人件費が負担になります。そのため、多くの企業では人材育成の重要性を理解していても、十分な投資ができないケースが少なくありません。この助成金制度は、そうした企業の人材育成投資を後押しするための仕組みとして設けられています。

事業展開等リスキリング支援コースの概要

人材開発支援助成金の中でも、事業展開等リスキリング支援コースは、企業が既存事業の枠を超えて新たな分野へ進出する際に必要となる人材育成を支援する制度として創設されました。

新規事業の立ち上げ、デジタル化の推進、脱炭素経営への対応など、企業が環境変化に対応するために必要なスキル習得を目的とした訓練に対して助成が行われます。

この制度は令和4年度から令和8年度までの期間限定の制度として設けられており、企業のリスキリング投資を後押しする役割を担っています。

企業の事業展開と人材育成を同時に進める制度

事業展開等リスキリング支援コースの最大の特徴は、事業戦略と人材育成を一体的に設計することが前提となっている点です。

企業が新しい事業領域に進出する際には、それに対応できる人材が必要になります。この制度では、そうした新しい業務に従事するための知識や技能を習得させる訓練に対して助成が行われます。

例えば、新規事業を開始する企業が新しい製品開発に取り組む場合、その業務に必要となる専門知識や技術を習得するための研修を従業員に受けさせることがあります。また、企業がDXを推進する際には、デジタル技術を活用できる人材の育成が必要になります。

さらに、脱炭素や環境対応などの分野でも、新しい知識や技術を持つ人材の育成が重要になります。こうした新しい分野に対応するための教育訓練を実施した場合に、その費用の一部を助成するのがこの制度です。

令和8年度の制度拡充ポイント

令和8年度の拡充で特に重要なのが、「企業内の人事及び人材育成に関する計画」に基づく訓練が新たに助成対象に加わった点です。

これまでは、新規事業やDXなどの事業展開に直接関係する訓練が中心でしたが、今後は企業が策定する中長期的な人材戦略に基づく教育訓練も助成対象となります。

企業内の人事及び人材育成に関する計画とは、企業の中長期的な経営戦略を踏まえ、将来必要となる職務や人員構成、配置方針などを整理したうえで、必要なスキルや教育訓練の内容を体系的にまとめたものです。

この計画に基づいて実施される教育訓練は、今後従事することが予定される職務に必要な知識や技能を習得させるものである必要があります。

例えば、品質管理部門を強化するために、製造部門で働く社員を品質管理業務へ配置転換する計画を立て、そのために品質管理や検査に関する知識を学ぶ研修を実施するケースなどが該当します。

助成率と助成額の内容

助成内容について見てみると、中小企業の場合、訓練にかかった経費の最大75パーセントが助成されます。また、訓練時間に応じて訓練期間中の賃金助成も行われ、1人1時間あたり最大1000円の助成が受けられます。

さらに、訓練修了後に賃金の引き上げなど一定の要件を満たした場合には、助成率が上乗せされる仕組みも設けられています。

受講者一人当たりの経費助成には上限が設けられており、訓練時間によって次のように設定されています。

10時間以上100時間未満の訓練では最大30万円
100時間以上200時間未満では最大40万円
200時間以上の訓練では最大50万円

また、1事業所あたりの年間助成限度額は最大1億円となっており、大規模な人材育成にも対応できる制度となっています。

「設備投資助成」の新設(中小企業のみ)

令和8年度の拡充として、訓練に関連した生産性向上のための設備投資に対する助成が新たに設けられます。
  • 内容: 訓練終了後、その訓練で得た知識・技能を活用して生産性向上を図るための機器・設備等を購入した場合に助成されます
  • 助成率・額: 購入費用の50% 150万円まで支給されます

助成率・助成額(継続)

拡充後も、高い助成水準が維持されています。
区分
経費助成率
賃金助成額(1人1時間)
中小企業
75%
1,000円
大企業
60%
500円
※1人1訓練あたりの経費助成限度額は、実訓練時間数に応じて中小企業は30万〜50万円、大企業は20万〜30万円となります

対象となる訓練の要件

対象となる訓練は、企業の通常業務とは区別して実施されるOFF-JTであることが必要であり、訓練時間は10時間以上である必要があります。

また、訓練の内容は職務に関連している必要があり、訓練開始から3年以内に従事する予定の業務に関連していることが求められます。

さらに、同一の労働者に対して助成を受けられる訓練回数は、原則として1年度につき3回までとなっています。制度を利用する際には、こうした制限にも注意が必要です。

制度活用の手続きの流れ

制度を活用するためには、訓練を実施する前に職業訓練実施計画届を提出する必要があります。また、人材育成計画に基づく訓練を実施する場合には、事業展開等実施計画を提出し、その内容について認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。

特に中小企業の場合は、この確認が必須となるため、早めに準備を進めることが重要です。

人材育成投資が企業成長を左右する時代

この制度は単なる研修費用の補助制度ではなく、企業の経営戦略と人材戦略を連動させる仕組みとして設計されています。経営者が将来の事業構造を見据えて人材育成計画を作成し、それに基づいて教育訓練を実施することで、企業の成長と従業員のキャリア形成を同時に実現することが可能になります。

特に中小企業にとっては、教育投資のコストが大きな負担になることが多いですが、この制度を活用することで、少ない負担で高度な人材育成を進めることができます。

DX人材の育成や新規事業への転換を検討している企業にとっては、非常に有効な制度と言えるでしょう。

まとめ

今後、日本企業が持続的に成長していくためには、人材への投資が不可欠です。事業展開等リスキリング支援コースは、そのための強力な支援制度として位置づけられています。

制度の内容を正しく理解し、企業の人材戦略と結びつけて活用することが、これからの企業経営において大きな差を生むことになるでしょう。

人材育成は単なるコストではなく、企業の未来をつくる投資です。この助成金をうまく活用しながら、企業の成長を支える人材を育てていくことが重要になります。

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