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■ はじめに:インフレ時代の逆張り企業
2025年現在、多くの飲食チェーンは原材料価格・人件費・物流コストの上昇に直面し、相次いで値上げを実施しています。
この“値上げドミノ”の中で、異彩を放つ企業があります。
それが サイゼリヤ です。
看板メニューである「ミラノ風ドリア」は、今も税込300円。
多くの企業が「値上げしなければ利益が出ない」と嘆くなかで、サイゼリヤは 3年連続の最高益 を叩き出しました。
売上高 2,567億円(+14.3%)
営業利益 154億円(+4.3%)
純利益 111億円(+37.0%)サイゼリア決算短信より
この数字は、単なる価格競争では説明できません。
サイゼリヤの強さの本質は、 「価格」ではなく「仕組み」にある のです。
■ 国内事業が業績を牽引
2025年8月期決算では、国内事業が業績全体を力強く牽引しました。
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国内売上高:1,729億円(前年比+18.1%)
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既存店客数:前年比+15%
(サイゼリア決算説明資料-社外用13より)
物価高に敏感な消費者にとって、サイゼリヤの低価格メニューは「生活防衛消費」の象徴。
競合チェーンが値上げに踏み切る中で、サイゼリヤは価格を据え置き、圧倒的な値頃感を維持しました。
さらに、季節限定メニューの投入や、2025年6月から始まった「朝食実験」によって、新たな顧客層の開拓も進めています。
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朝食メニューは200〜400円台
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2027年度以降、全国展開を計画
つまり、サイゼリヤは「価格の安さ」だけでなく、「来店機会を増やす仕掛け」を組み込んでいるのです。
■ 値上げしない裏側にある「仕組み」
ここで重要なのは、サイゼリヤが「単に安売りをしているわけではない」という点です。
価格を据え置くために、企業全体の コスト構造を徹底的に磨き上げている のです。
① 調達コストの最適化
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仕入先の集約によりスケールメリットを確保
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自社セントラルキッチンで一括調理・配送
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食材ロスの最小化
② DXによる省人化
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QRコード注文でホールスタッフを削減
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セルフレジの導入でレジ業務を軽減
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オペレーションの標準化でアルバイトでも回せる仕組みを構築
③ メニューミックスの工夫
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原価率の高いメニューを抑え、利益率の高いメニューを組み合わせ
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人気商品の比率をコントロールすることで全体の原価率を安定
結果として、コスト増を「値上げ」に転嫁するのではなく、“仕組みの力”で吸収 しています。
■ コスト上昇を「仕組み」で吸収
この数年、飲食業界における最大の課題は「コスト上昇」です。
特に小麦、米、油といった基礎食材は高騰を続け、円安の影響も重なっています。
にもかかわらず、サイゼリヤは営業利益率6.0%を維持。
価格を据え置きながら利益を出すことに成功しています(サイゼリア決算短信)
コスト上昇への対応策
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食材価格 → メニューミックス改善
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人件費 → DX化と省人化
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物流費 → ルート統合と配送効率化
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設備費 → 長期的な自社店舗運営モデル
つまり、価格を動かす前に「企業内部の構造を徹底的に改善」する。
この“内部からの戦い方”こそ、他社との大きな差です。
■ 海外戦略:中国市場に照準
サイゼリヤは海外展開でも攻めの姿勢を見せています。
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海外売上:838億円(+7.4%)
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海外店舗数:629店舗(前年より98店舗純増)
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中国市場を中心に 1,000店舗体制 を目指す
(サイゼリア決算説明資料-社外用13)
特に中国は現在、デフレ傾向が強く、消費者の節約志向が高まっています。
ここにサイゼリヤの「低価格モデル」がピタリとハマっているのです。
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香港、台湾、シンガポールでも堅調
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ベトナムにも1号店を出店
グローバル展開でも、価格競争ではなく「モデルの輸出」で勝負している点が特徴です。
■ サイゼリヤの「収益モデル」の本質
ここまで見てきたように、サイゼリヤの収益構造は非常にシンプルです。
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低価格を維持することで来店客数を最大化
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仕組みでコスト上昇を吸収
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DXと標準化で利益率を確保
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海外市場でスケールメリットを追求
つまり、同社は「値上げ」で利益を確保するのではなく、
「低価格でシェアを取り、仕組みで利益を積み上げる」ビジネスモデルを構築しています。
これこそ、インフレ時代の 逆張り戦略 です。
■ 価格戦略ではなく「信頼戦略」
サイゼリヤの戦略は、単なる価格維持ではなく「顧客との信頼関係」の構築にも繋がっています。
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消費者にとって「サイゼリヤはいつでも安い」という安心感
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値上げしない姿勢がブランドロイヤルティを高める
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価格を上げる他社との差別化が進む
たとえば、他のファミレスチェーンではドリアやパスタが600〜800円台に値上げされている中、サイゼリヤは税込300円。
この「価格の安心感」は、リピーター獲得に直結します。
顧客数は連結ベースで前年から 3,350万人増。
まさに「安さがブランドになる」戦略です
(サイゼリア決算説明資料-社外用13より)
■ DXによる利益率改善
この戦略を支えるもう一つの柱が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
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QRコード注文の導入(2025年8月末時点で約900店舗)
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セルフレジによる人件費削減
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オペレーションの自動化・単純化
これにより、限られたスタッフでも店舗運営が可能となり、
人手不足問題を逆手に取るかのように利益率を改善しています。
DXは単なるコスト削減ではなく、「価格を守るための攻めの手段」 として機能しているのです。
■ サイゼリヤの未来戦略
サイゼリヤは今後も「低価格×仕組み経営」を軸に成長を狙います。
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朝食メニューの全国展開(2027年度以降)
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海外店舗1,000店体制(特に中国市場)
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サプライチェーンのグローバル最適化
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DX・IT投資の継続による収益構造の強化
(サイゼリア決算短信資料より)
価格を上げる企業が多い中で、サイゼリヤは「価格を守ることでシェアを奪う」戦略を貫いているのです。
■ まとめ:インフレ時代にこそ光る“仕組み”の力
インフレ時代、価格を上げることは簡単です。
しかしそれは、顧客を失うリスクと表裏一体です。
サイゼリヤは、価格を上げずに利益を出すという 「異次元の戦い方」 を見せています。
その裏にあるのは「価格競争」ではなく「仕組み競争」。
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✅ コスト構造改革
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✅ DXによる省人化
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✅ 価格信頼性による顧客増
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✅ グローバル展開によるスケールメリット
インフレが続く今後の外食業界において、サイゼリヤのビジネスモデルは 模倣困難な競争優位 になり得るでしょう。
「価格を上げずに勝つ」ことは、単なる企業努力ではなく、 経営戦略の核心 です。
300円のミラノ風ドリアは、いまや“安さの象徴”ではなく、“戦略の象徴”となっています。
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