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事業承継・M&Aにおける「マルチプル倍率法」について
企業価値を評価する際に、特に事業承継やM&Aの場面でよく用いられるのが「マルチプル倍率法」です。この手法は、シンプルかつ効果的に企業の価値を示す指標で、対象会社の利益や売上に特定の倍率を掛け合わせて計算します。本記事では、マルチプル倍率法の概要、算出方法、注意点を中心に、そのメリットとデメリットについても解説し、企業価値の評価に関する理解を深めていきます。
マルチプル倍率法とは?
マルチプル倍率法は、企業の財務データに基づき、ある特定の指標(売上や利益)に倍率(マルチプル)を掛けて企業価値を算出する方法です。企業価値をシンプルに計算できる点が特徴で、業界の動向や対象企業の特性に応じて柔軟に適用できます。
代表的な指標
マルチプル倍率法でよく使用される指標として以下が挙げられます。
- EBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)
- EBIT(利払い前・税引前利益)
- 売上高
- 純利益
例えば、事業承継やM&Aの場面で対象企業のEBITDAが2億円、業界平均の倍率が6倍と仮定すると、企業価値は次のように算出されます。
マルチプル倍率法の種類
マルチプル倍率法にはいくつかのアプローチがあり、それぞれ異なる指標や倍率が用いられます。
1. PER(株価収益率)
- 株価と1株あたり利益(EPS)を用いた倍率です。企業がどの程度利益を上げられるかに注目する方法で、株式市場での評価に基づくため、公開企業に多く用いられます。
- 計算式: 企業価値 = 純利益 × PER
2. PBR(株価純資産倍率)
- 純資産を基にした倍率で、企業の純資産に対する市場価値を示します。特に資産の多い企業の評価に適しています。
- 計算式: 企業価値 = 純資産 × PBR
3. EV/EBITDA(企業価値倍率)
- 企業価値(EV)とEBITDAを基に算出する方法で、企業のキャッシュフロー生成力に着目するため、比較的安定した収益を持つ企業に適しています。
- 計算式: 企業価値 = EBITDA × EV/EBITDA
4. 売上高倍率法
- 売上高を基に評価する方法で、特に利益がまだ安定していない成長企業の評価に適しています。
- 計算式: 企業価値 = 売上高 × 売上高倍率
マルチプル倍率の設定方法
マルチプル倍率の設定は、業界の動向、対象企業の特性、市場の評価など、複数の要因を考慮して行われます。以下の手順でマルチプルを設定するのが一般的です。
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業界の平均倍率の確認
業界内で取引されている同規模の企業や同業者の倍率を参考にします。多くの場合、過去の取引事例やマーケットデータが活用されます。 -
対象企業の特性の考慮
対象企業が持つ独自の強みや市場における地位などを反映させて調整します。例えば、市場シェアが高い場合、他企業よりも高めのマルチプルが設定されることがあります。 -
経済環境の影響
経済の動向が不安定な時期は、投資家が慎重になるためマルチプルが低下する傾向にあります。逆に好調な市場では倍率が高まります。
マルチプル倍率法のメリット
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シンプルで迅速な評価
利益や売上にマルチプルを掛けるだけで企業価値を算出できるため、シンプルで迅速な評価が可能です。特に多数の企業を一度に評価する際に便利です。 -
業界水準に基づく客観的な評価
業界平均の倍率に基づくため、客観的な基準で企業価値を算出できます。 -
調整が容易
業界の状況や企業の特性に応じてマルチプルを柔軟に調整でき、過小評価や過大評価のリスクを軽減できます。
マルチプル倍率法のデメリットと注意点
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市況の影響を受けやすい
マルチプル倍率は市場の動向に左右されるため、経済不況や業界の成長停滞時には過小評価のリスクが伴います。逆にバブル時には過大評価されることもあります。 -
対象企業の個別事情を反映しにくい
マルチプルは平均的な指標であり、特異な強みや弱みを反映しづらいため、詳細な評価には限界があります。 -
正確な倍率設定が難しい場合もある
業界内の比較対象が少ない場合や成長段階が異なる場合、適切なマルチプルを見つけるのが難しいことがあります。
事業承継やM&Aにおけるマルチプル倍率法の活用事例
1. 事業承継におけるケース
- 親族や従業員に事業を承継する際、適切な企業価値評価は重要です。マルチプル倍率法を活用することで、市場基準に基づいた公正な価値での引き継ぎが可能です。
2. M&Aの際のケース
- M&Aで他企業を買収する際、迅速に複数の候補企業の評価を行うためにマルチプル倍率法が使われることが多く、特に上場企業に対しての評価が簡単です。
マルチプル倍率法を導入する際の専門家の役割
マルチプル倍率法の適用に際しては、企業価値評価の専門家であるファイナンシャルアドバイザーや会計士の意見を取り入れるのが望ましいです。これにより、業界特有の事情や最新の市場動向を考慮した精度の高い評価が実現しやすくなります。専門家のサポートを受けることで、マルチプル倍率法を効果的に活用でき、企業価値を最大化するための判断がしやすくなります。
まとめ
マルチプル倍率法は、企業価値をシンプルに評価するための手法として、事業承継やM&Aで広く活用されています。業界の平均値に基づきつつ、企業の特性を反映させた評価が可能な一方、倍率設定には市場の影響や企業の特性も反映されやすいというメリットとデメリットがあります。公正な評価を行うためには専門家のサポートが役立つことから、事業承継やM&Aを検討する際には、マルチプル倍率法を導入し、計画的に活用することが求められます。