はじめに
定款は会社の設立や運営において重要な役割を果たす基本的なルールを定めた文書です。しかし、定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」といった異なる要素があり、それぞれの内容によって記載の有無が変わります。この記事では、特に事業承継やM&Aの観点から、定款の相対的記載事項と任意的記載事項について解説し、それぞれの重要性や注意点について詳しく説明します。
定款の基本構造
定款は、会社設立時に定める文書で、会社法などの法的枠組みに基づいて、会社の運営に必要な事項を定めています。定款には以下のような構成要素があります:
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絶対的記載事項 これは、必ず定款に記載しなければならない事項です。例えば、会社の商号、目的、本店所在地、設立時の株式数、取締役の氏名などが該当します。
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相対的記載事項 これは、定款に記載することによって効力が発生する事項です。記載がなければ、その事項に関して法律の規定が適用されますが、定款に定めることで、会社独自のルールが優先されるケースもあります。
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任意的記載事項 記載するかしないかは会社の自由であり、記載しなくても会社の運営に影響を及ぼさないものです。しかし、記載することで、特定の運営方針や規定をより明確にすることができます。
相対的記載事項とは?
相対的記載事項は、法律に基づいて自動的に適用される内容ではなく、定款に記載することでその効力が発生する事項です。事業承継やM&Aの際には、これらの事項をきちんと理解し、適切に対処することが重要です。以下は、相対的記載事項の代表的な例です:
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株式譲渡制限 株主が自分の株式を第三者に譲渡する際のルールを定めるものです。中小企業では、経営者の意思に反した株主の入れ替わりを防ぐため、株式譲渡に関して何らかの制限を定めることが一般的です。
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特別利害関係人の議決権制限 事業承継やM&Aの場面では、特定の株主や役員が利害関係者である場合、その議決権の行使を制限することが可能です。
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取締役の選任方法 取締役の選任に関して特別な規定を設けることができます。たとえば、取締役の選任には株主総会での特別な手続きを定めるなど、会社独自のルールを定款に盛り込むことができます。
これらの事項を定款に明記することで、事業承継やM&Aの際にトラブルを回避し、スムーズな経営移行が可能になります。
任意的記載事項とは?
任意的記載事項は、会社が自由に定めることができる事項です。法律上、記載が義務付けられているわけではありませんが、経営方針や事業承継を明確にするために有効です。以下は、任意的記載事項の一例です:
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役員報酬に関する規定 取締役や監査役の報酬に関する基準や手続きを定めることができます。報酬の決定プロセスを明確にすることで、透明性の高いガバナンスを実現できます。
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役員退職慰労金の支払い規定 役員が退職した際の慰労金に関するルールも、任意的に定款に定めることができます。事業承継時に役員の退任が伴う場合、退職金の支払いに関する事前の合意形成がスムーズに進みます。
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会社の持株会制度に関する規定 持株会制度を導入する場合、その詳細な運営規定を定款に盛り込むことができます。これにより、従業員の株式保有を奨励し、会社と従業員の結びつきを強化することが可能です。
定款の変更と注意点
事業承継やM&Aの際には、定款を見直し、必要に応じて変更することが求められます。以下の手続きと注意点を押さえておきましょう:
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株主総会の特別決議 定款の変更には、株主総会の特別決議が必要です。総株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る必要があります。
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登記手続き 定款変更が決定した場合、法務局への登記が必要です。変更内容によっては、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
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公示の徹底 定款変更後は、関係者や取引先に対して公示することも重要です。特に事業承継やM&Aの際には、透明性を確保するために、適切な情報公開を行うことが求められます。
まとめ
定款の相対的記載事項と任意的記載事項は、中小企業が事業承継やM&Aを進める際に、経営の安定やスムーズな移行を実現するために重要な役割を果たします。事業環境の変化に応じて、定款を柔軟に見直し、適切な手続きを踏むことで、企業の持続的成長と安定を確保できるでしょう。
特に事業承継やM&Aを検討している企業にとって、定款の役割を理解し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら適切な手続きを進めることが、成功の鍵となります。