2026年7月、帝国データバンクと東京商工リサーチが相次いで公表した調査は、医療業界にとって非常に象徴的な内容となりました。
一言で表現すると、
「患者はいる。市場も拡大している。しかし利益が残らない。」
という状況です。
実際、
- 医療機関全体の倒産は過去最多ペース
- 診療所は上半期として過去最多
- 歯科医院は市場規模が1兆円を突破する一方で倒産・休廃業が増加
という、一見すると矛盾した現象が起きています。
今回は、帝国データバンクと東京商工リサーチの最新データをもとに、その背景と今後の経営課題を整理します。
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2026年上半期 医療機関倒産は39件で過去最多
帝国データバンクによると、
2026年上半期(1〜6月)の医療機関倒産は39件。
これは前年同期35件を上回り、上半期として過去最多となりました。
このペースが続けば、
年間80件前後
となる可能性があり、2025年(66件)を大きく超えて過去最多を更新する見込みです。
一方で、
負債総額は123.8億円と前年より約33%減少しました。
つまり、
大型倒産ではなく、小規模医療機関の倒産が急増している
ことが今回の最大の特徴です。
業態別では「診療所」が過去最多
内訳を見ると、
- 病院:4件
- 診療所:19件
- 歯科医院:16件
となっています。
特に注目すべきは診療所です。
19件という数字は、
2009年上半期の16件を超え、
統計開始以来最多となりました。
倒産した診療所の約半数が内科
診療所19件の内訳を見ると、
- 内科 9件
- 外科 4件
- 眼科 3件
- 婦人科 2件
となっています。
さらに内科では、
老人ホームやデイサービスを併設していた法人も多く、
介護事業側の採算悪化まで重なり、
経営破綻へ至ったケースもありました。
つまり、
医療単体ではなく、
介護を含めた地域包括ケア全体で収益悪化が起きていることが分かります。
「経営者の病気・死亡」が4割という衝撃
今回の調査で最も印象的だった数字があります。
診療所倒産の約4割が
経営者の病気・死亡
でした。
全業種平均では、
この理由による倒産はわずか3.8%です。
つまり医療業界では、
医師個人への依存度が極めて高く、
院長が倒れた瞬間に経営が止まってしまう構造が浮き彫りになっています。
歯科医院は市場拡大、それでも倒産は増加
一方、
東京商工リサーチの調査では、
歯科医院の市場自体は成長しています。
全国6,590社の2025年実績は、
- 売上高:約1兆282億円
- 前年比3.8%増
- 純利益:約304億円
- 前年比4.1%増
となり、
売上は4年連続で増加しています。
つまり、
市場そのものは縮小していません。
しかし業績は完全に二極化
ところが、
企業別に見ると状況は大きく異なります。
2025年は
- 増収企業:57.3%
- 減収企業:42.3%
となりました。
市場全体は伸びていても、
伸びる医院と苦戦する医院が明確に分かれているのです。
さらに利益では、
- 増益48.2%
- 減益51.4%
となっており、
利益面では減益企業の方が多くなっています。
これは、
売上が伸びても利益が残らない医院が増えていることを意味します。
売上5億円未満が96%
歯科医院6,590社のうち、
売上5億円未満は95.8%。
そのうち、
約半数は売上1億円未満です。
つまり、
ほぼ全てが地域密着型の中小規模医院という構造になっています。
だからこそ、
少しのコスト上昇でも利益に直結してしまいます。
なぜ利益が出なくなったのか
背景には複数の要因があります。
① 人件費高騰
歯科衛生士不足
歯科医師不足
看護師不足
受付スタッフ不足
採用競争が激しく、
賃上げが避けられません。
② 医療材料の値上がり
銀歯などの貴金属価格
医療消耗品
医療機器
中東情勢など国際情勢の影響もあり、
価格上昇が続いています。
③ 診療報酬では吸収できない
帝国データバンクも、
金融機関担当者のコメントとして
「診療報酬の上り幅で多少補填されても、収益性改善には寄与しない」
と紹介しています。
つまり、
制度改定だけでは利益改善は難しいという見方です。
倒産だけではない。「静かな退出」がさらに多い
歯科医院では、
2025年の
- 倒産 26件
に対し、
休廃業・解散は125件
でした。
実に約4.8倍です。
これは、
経営破綻する前に
後継者不在や高齢化を理由に、
静かに市場から退出している医院が非常に多いことを示しています。
今後の生き残りポイント
東京商工リサーチでは、
今後成長が期待される分野として、
- デジタル歯科医療
- 自費診療
- 高齢化対応
を挙げています。
従来型の保険診療だけではなく、
付加価値を提供できる医院ほど成長余地があると考えられます。
医療業界全体で求められる変化
帝国データバンクは、
今後の課題として、
- 医療DX
- 働き方改革
- 賃上げ
- 事業承継
- M&A
- 経営改善
を挙げています。
一方で、
医療機関を狙った悪質なM&Aや詐欺案件も増えているため、
十分な注意が必要とも警鐘を鳴らしています。
中小企業診断士・経営コンサルタントとしての考察
今回のデータから読み取れる本質は、
「患者数の問題ではなく、利益構造の問題」
だということです。
医療需要そのものは依然として存在し、歯科市場も拡大しています。しかし、物価・人件費・医療材料費の上昇に対し、診療報酬だけでは十分に吸収できず、利益率が低下しています。その結果、同じ市場環境でも「利益を確保できる医院」と「利益が残らない医院」の差が急速に広がっています。
特に診療所では、院長個人への依存度が高く、高齢化や健康問題が経営リスクへ直結する構造が明らかになりました。今後は「良い医療を提供すること」に加え、「持続可能な経営体制を構築すること」が重要になります。
具体的には、
- 適切な診療科目・サービス構成の見直し
- 自費診療や予防医療など収益源の多様化
- 医療DXによる業務効率化
- 人材定着・採用力の強化
- 早期からの事業承継・M&A戦略
など、経営の視点を取り入れた取り組みが、生き残りを左右する時代に入ったと言えるでしょう。
まとめ
2026年上半期は、医療機関の倒産が39件となり、上半期として過去最多を更新しました。特に診療所の倒産増加が顕著で、経営者の高齢化や人件費・物価高騰など複数の要因が重なっています。
一方で、歯科医院市場は売上高1兆円を突破し、全体としては拡大を続けています。しかし、増収・減収、増益・減益が混在する「二極化」が鮮明となり、成長できる医院と苦戦する医院の差は今後さらに広がる可能性があります。
医療機関にとって重要なのは、制度改定を待つことではなく、自院の収益構造や人材戦略、事業承継まで含めた経営改革に早期に取り組むことです。これからの医療経営では、「良い医療」と「強い経営」の両立が、地域に選ばれ続けるための重要な条件になるでしょう。