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はじめに
日本の最低賃金は年々引き上げられ、2025年以降もその傾向は続くと見込まれています。中小企業・小規模事業者にとって、最低賃金の引き上げは大きな負担となり得ますが、その一方で人材確保や労働環境改善には欠かせない要素でもあります。
こうした企業を支援する制度が「業務改善助成金」です。令和7年度(2025年度)版では、最大600万円までの助成を受けることが可能となり、賃上げと同時に生産性向上を進められる制度として注目されています。
本記事では、業務改善助成金の概要、助成額や対象経費、申請要件や流れ、さらに制度を活用する際のメリットと注意点を詳しく解説します。
業務改善助成金とは?
業務改善助成金は、事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。
事業場内最低賃金とは、事業場で最も低い時間給(ただし雇用開始から6か月を経過した労働者に適用)を指し、地域別最低賃金に近い水準であることが要件とされています。
助成対象となる事業者
業務改善助成金を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 中小企業・小規模事業者であること(みなし大企業は対象外)
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
申請は事業場単位で行うため、工場や営業所ごとに申請可能です。
助成額とコース区分
令和7年度版では、賃金引き上げ幅(30円、45円、60円、90円)と対象労働者数に応じて助成額が決まります。
① 30円コース
- 1人:60万円(30人未満事業者は60万円、それ以外は30万円)
- 10人以上:最大130万円(特例事業者はさらに拡充)
② 45円コース
- 1人:80万円(30人未満事業者は80万円、それ以外は45万円)
- 10人以上:最大180万円
③ 60円コース
- 1人:110万円(30人未満事業者は110万円、それ以外は60万円)
- 10人以上:最大300万円
④ 90円コース
- 1人:170万円(30人未満事業者は170万円、それ以外は90万円)
- 10人以上:最大600万円
助成額は、「設備投資にかかった実費 × 助成率」または「上限額」のいずれか低い金額が支給されます。
助成率
- 事業場内最低賃金が 1,000円未満:助成率 4/5
- 事業場内最低賃金が 1,000円以上:助成率 3/4
特例事業者と経費拡充
「特例事業者」に該当すると、通常は対象外の経費も助成対象となります。
特例事業者の要件:
- 申請前3か月間のうち、任意の1か月の利益率が前年同月比で3%ポイント以上低下している場合(物価高騰等要件)
対象経費の拡充例:
- パソコン、タブレット、スマートフォンの新規導入
- 一部の自動車(定員7人以上または200万円以下の車両)
助成対象経費の具体例
- POSレジ導入による業務効率化
- リフト付き車両による送迎業務の効率化
- 業務フロー見直しのための専門家コンサルティング
- 顧客管理システムの導入
これらはすべて「生産性向上に資する投資」であることが前提です。
申請スケジュール
- 第1期申請期間:令和7年4月14日~6月13日
- 第1期の賃金引上げ期間:令和7年5月1日~6月30日
- 第2期以降:地域別最低賃金改定前日まで
事業完了期限は令和8年1月31日まで(やむを得ない場合は3月31日まで延長可)。
申請から支給までの流れ
- 交付申請
- 都道府県労働局に申請書を提出
- 交付決定
- 労働局の審査後、交付決定通知
- 事業の実施
- 計画通りに賃金引上げと設備投資を実施
- 事業実績報告
- 結果を報告し、必要書類を提出
- 助成金受領
- 審査通過後、助成金が支給
制度のメリット
- 賃上げ負担を軽減
賃金引上げと同時に設備投資の一部が助成されるため、企業の負担を大幅に軽減。 - 生産性向上につながる
ITシステム導入や業務効率化で人材不足解消にも効果的。 - 人材確保力の強化
賃金引き上げによって採用競争力が高まり、定着率も向上。 - 物価高騰対策として活用可能
特例事業者として認定されれば、幅広い経費が助成対象となる。
注意点
- 交付決定前の設備導入は対象外
- 同一事業場での申請は年度内1回まで
- 賃金引上げは一度に実施(段階的引上げは不可)
- 地域別最低賃金改定に合わせて引上げを完了する必要がある
まとめ
令和7年度業務改善助成金は、賃金引上げと設備投資を同時にサポートする中小企業向けの強力な支援制度です。
最大600万円という高額助成に加え、物価高騰への対応策として特例事業者制度も整備されており、賃上げと生産性向上を両立させる絶好の機会となります。
人材不足や原価高騰に悩む企業にとって、この助成金は「攻めの経営」に転換するための有力な手段と言えるでしょう。