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1. 改正の背景と概要
令和6年1月1日から施行された、相続税及び贈与税の税制改正は、相続時精算課税制度や暦年課税制度において、重要な変更が行われる内容となっています。この改正は、相続対策や贈与を行う際のルールを見直し、税負担の公平性を保つために実施されました。特に、贈与税の基礎控除の創設や、相続時精算課税の見直しが注目されています。
2. 相続時精算課税制度の改正
相続時精算課税制度は、贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上かつ推定相続人または孫である場合に選択できる制度で、生前贈与を受けた財産を相続時にまとめて精算する仕組みです。今回の改正では、以下の点が変更されます。
2.1 基礎控除の創設
改正により、相続時精算課税を選択した場合でも、110万円の基礎控除が新たに設けられました。これにより、毎年の贈与額が110万円以下であれば、贈与税が発生しないことになります。
2.2 贈与財産の加算対象期間の延長
相続時精算課税を選択した場合、贈与財産は相続財産に加算されますが、今回の改正により、相続開始前の3年以内から7年以内に延長されました。これにより、より長期間にわたる贈与が相続財産に加算されることになり、生前贈与を行う際の戦略に影響を与えます。
3. 暦年課税制度の改正
暦年課税制度は、毎年110万円までの贈与に対して非課税とする制度です。この制度は多くの人が活用している贈与税の基本的な仕組みであり、相続税対策としても有効です。しかし、今回の改正により、暦年課税制度にもいくつかの重要な変更が加えられました。
3.1 生前贈与の加算期間の延長
これまで、相続開始前3年以内の生前贈与は相続財産に加算されていましたが、改正後はこれが7年に延長されます。ただし、4年目から7年目に行われた贈与については、100万円までの金額は相続財産に加算されません。この変更により、長期にわたる贈与戦略が必要となります。
4. 特例制度の創設
改正後の相続税・贈与税には、災害等により被災した財産に関する特例が新たに導入されました。この特例は、贈与された土地や建物が災害で被害を受けた場合、相続税の課税価格から被災した価額を控除することができるというものです。この特例は、災害による経済的損失を軽減し、相続税の負担を抑えるための措置です。
5. 具体例で見る税額計算の変化
今回の改正により、具体的な税額計算にも変化が生じます。例えば、相続時精算課税制度を利用し、合計3,300万円の財産を贈与、相続財産が1500万円だった場合の税額計算を見てみましょう。
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贈与時の税額
贈与額3,300万円から基礎控除の110万円が差し引かれます。そしてさらに、特別控除2,500万円を差し引き、残額に対して20%の贈与税が課されます。この場合、税額は138万円となります。
これは制度改正前であれば、3300万円から特別控除2500万円が差し引かれるのみで、そこに20%の課税があり、160万円の課税だったことを考えると、相当有利な制度になりました。 -
相続時の税額
相続時に、この贈与額(3300万円ー基礎控除110万円=3190万円)が相続財産1500万円に加算され、相続財産の合計が4,690万円になります。この合計額が相続税の基礎控除額を下回るため、相続時には税額が0円となり、贈与時に納付した138万円は還付される、という仕組みです。
6. 注意点:税制改正が及ぼす影響
今回の税制改正では、特に贈与と相続に関する戦略を立てる際に、いくつかの重要なポイントがあります。
6.1 生前贈与のタイミング
相続税対策として生前贈与を行う際には、贈与のタイミングがより重要になります。加算期間が7年に延長されたため、早めに贈与を行うことがより有効となります。また、年間110万円以下の基礎控除を活用し、計画的に贈与を行うことが重要です。
6.2 相続時精算課税の選択
相続時精算課税を選択した場合、暦年課税に戻すことができないため、慎重に選択する必要があります。特に、贈与額が大きい場合や、相続時の税負担を軽減したい場合には、この制度を利用するメリットがありますが、全体的な税負担を見極めて判断することが大切です。
7. まとめと今後の展望
令和6年1月1日に施行された相続税及び贈与税の改正は、相続や贈与に関する戦略に大きな影響を与えるものです。特に、贈与財産の加算対象期間の延長や、基礎控除の創設によって、長期的な税務対策が重要となります。今後も税制の動向に注目しながら、適切な相続・贈与戦略を立てることが求められます。