抵当権と租税債権(税金)の優先順位は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記のどちらが早いかで決まります。法定納期限等より前に登記された抵当権は税金に優先し、後に登記された抵当権には税金が優先します。差押えの時期は関係なく、固定資産税などの地方税も同じルールです。
1. はじめに
不動産を担保に融資を受ける際、抵当権が設定されますが、税金の未払いがある場合、税務署や市町村が租税債権として差押えを行うことがあります。この場合、抵当権と租税債権のどちらが優先されるのかが問題になります。
本記事では、抵当権と租税債権の競合について詳しく解説し、その影響や対応策を紹介します。
この記事の要点
- 抵当権と税金の優劣は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記のどちらが早いかで決まります(国税徴収法15条・16条)。
- 法定納期限等以前に登記された抵当権は税金に優先し、法定納期限等より後に登記された抵当権には税金が優先します。
- 税務署や市町村が差押えをしても、法定納期限等より前に設定された抵当権には優先しません。
- 固定資産税などの地方税も、法定納期限等と抵当権の設定時期の先後で優劣が決まります。
- 最大の対策は滞納を防ぐことです。一時に納付できない場合は、換価の猶予などの制度を早めに相談しましょう。
2. 抵当権と租税債権とは?
抵当権は金融機関が不動産を担保に取る権利で、租税債権は国や地方団体が税金を徴収する権利です。どちらも競売などの換価代金から回収できるため、優先順位が問題になります。
2-1. 抵当権とは
抵当権は、銀行や金融機関が貸付を行う際に、不動産などを担保に取る権利のことです。
主な特徴:
- 登記によって第三者対抗要件を持つ
- 債務者が返済できない場合、競売を通じて回収が可能
2-2. 租税債権とは
租税債権は、国や地方団体が未払いの税金を回収するための債権で、税法に基づき強制的に差押えが行われることがあります。国税(法人税・所得税・消費税など)は税務署が、地方税(固定資産税・住民税など)は都道府県や市町村が徴収します。
主な特徴:
- 税法上、特定の優先権を持つ(国税は原則としてすべての公課その他の債権に先立って徴収される。国税徴収法8条)
- ただし、法定納期限等より前に設定された抵当権には劣後する
3. 抵当権と租税債権の優先順位
抵当権と税金の優劣は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記のどちらが早いかで決まります。差押えの時期は関係ありません。
3-1. 原則的な優先順位
抵当権どうしの優先順位は登記の順番で決まりますが、抵当権と税金の優劣は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記のどちらが早いかで決まります。
つまり、法定納期限等以前に登記された抵当権は租税債権より優先され、法定納期限等より後に登記された抵当権には租税債権が優先します。
| ケース | 優先されるもの | 根拠 |
|---|---|---|
| 税金の法定納期限等以前に抵当権を設定登記 | 抵当権(銀行) | 国税徴収法16条 |
| 抵当権の設定登記が法定納期限等より後 | 税金 | 国税徴収法8条・16条 |
| 固定資産税などの地方税 | 法定納期限等と抵当権設定の先後で判断 | 地方税法、総務省通知 |
※補足:「法定納期限等」には、その日に当たる日も含まれます。また、抵当権の設定時期は、その登記がされた日で判断されます(国税庁「国税徴収法基本通達 第16条関係」)。申告納税の国税の法定納期限は原則として申告期限ですが、更正や決定による税額などは別の日が基準になる場合があります。
3-2. 租税債権が優先するのは法定納期限等が先の場合
租税債権が抵当権に優先するのは、税金の法定納期限等が抵当権の設定登記より前にあるケースです。
- 差押えが行われた場合
→ 差押えをしても、法定納期限等より前に設定された抵当権には優先しない(優劣は差押えの時期ではなく、法定納期限等と抵当権設定の先後で決まる) - 固定資産税・都市計画税などの滞納
→ 地方税も、法定納期限等と抵当権設定の先後で優劣が決まる(抵当権に無条件で優先するわけではない) - 法人税や所得税などの滞納がある場合
→ 法定納期限等が抵当権の設定登記より前なら、競売代金から税金が先に回収される
つまり、法定納期限等が抵当権の設定より前の税金の未払いがあると、金融機関の担保権が十分に回収できなくなるリスクがあるため注意が必要です。
※補足:総務省の通知では、地方税・国税と担保権付きの私債権が競合した場合、差押えの先後ではなく、法定納期限等と担保権の設定時期によって配分額を定めるとされています(総務省)。地方税の法定納期限は、固定資産税のように納期が複数ある税目では第1期分の納期限とされます。国税優先の原則の詳細は「国税優先の原則とは?抵当権との優先順位と差押えのルールを徹底解説」、複数の税金が競合したときの配当の手続きは「交付要求とは?仕組み・手続き・企業が知るべきポイントを徹底解説」で解説しています。
4. 具体的な事例
以下は説明用の数値例です。抵当権の設定登記と税金の法定納期限等のどちらが早いかで、競売代金から誰がいくら回収できるかが逆になります。
4-1. 銀行融資 vs. 税務署の差押え
- A社が銀行から1億円の融資を受け、土地に抵当権を設定
- その後、A社が法人税5000万円を滞納し、税務署が土地を差押え
- 競売が行われた結果、売却価格8000万円
この場合、抵当権は法人税の法定納期限等より前に設定されているため:
✅ 銀行が8000万円を回収(担保されている1億円の範囲内)
✅ 税務署は、この土地の売却代金からは法人税を回収できない
一方、法人税の法定納期限等が抵当権の設定登記より前だった場合は、まず税務署が5000万円を回収し、残った3000万円が銀行に配分されます。
| パターン | 銀行の回収額 | 税務署の回収額 |
|---|---|---|
| 抵当権の設定登記が法人税の法定納期限等より前 | 8000万円 | 0円 |
| 法人税の法定納期限等が抵当権の設定登記より前 | 3000万円 | 5000万円 |
法定納期限等が抵当権の設定より前の税金があると、銀行の担保権が完全に保護されないリスクが発生!
4-2. 固定資産税の未払い
- B社は土地に5億円の抵当権を設定し、銀行から融資
- しかし、固定資産税2000万円を滞納し、市町村が土地を差押え
- 競売価格5億円の場合、抵当権の設定登記が固定資産税の法定納期限等より前なら、銀行が5億円(担保されている債権の範囲内)を回収し、市町村は0円。固定資産税の法定納期限等が抵当権の設定登記より前なら、まず市町村が2000万円を回収し、残り4億8000万円が銀行に分配
| パターン | 銀行の回収額 | 市町村の回収額 |
|---|---|---|
| 抵当権の設定登記が固定資産税の法定納期限等より前 | 5億円 | 0円 |
| 固定資産税の法定納期限等が抵当権の設定登記より前 | 4億8000万円 | 2000万円 |
固定資産税も、法定納期限等と抵当権設定の先後で優劣が決まる!
5. 競合を避けるための対策
競合を避ける最大の対策は税金を滞納しないことです。資金繰りが厳しいときは、滞納する前に税務署や市町村、金融機関に相談しましょう。
5-1. 定期的な納税チェック
企業経営者は、法人税・固定資産税などの滞納を防ぐために、定期的な納税状況の確認を行うことが重要です。
5-2. 税務リスクを考慮した資金計画
銀行融資を受ける際に、税務リスクを考慮し、資金計画に余裕を持たせることが望ましいです。金融機関は融資の際に納税証明書の提出を求めるなどして、税金の滞納がないかを確認することがあります。
5-3. 事前に金融機関と相談
税務リスクが発生しそうな場合、金融機関と事前に協議し、対応策を練ることが有効です。
※補足:国税を一時に納付すると事業の継続が困難になるおそれがある場合などは、納期限から6か月以内に申請することで「換価の猶予」(原則1年以内)を受けられる場合があります(国税徴収法151条の2)。災害や病気、事業の休廃業などの場合は「納税の猶予」(国税通則法46条)もあります(税務研究会)。差押えの限界については「無益な差押えの禁止とは?企業経営者が知るべきポイントを徹底解説」も参考にしてください。
6. まとめ
抵当権と租税債権の優劣は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記の先後で決まります。滞納を防ぎ、納税と融資の時期を意識した資金管理を行いましょう。
抵当権と租税債権の競合は、企業や不動産所有者にとって重大な問題です。特に、法定納期限等が抵当権の設定より前の税金は、差押えの有無にかかわらず金融機関の担保権よりも優先されるため、慎重なリスク管理が必要です。
✅ 抵当権と税金の優劣は、税金の法定納期限等と抵当権の設定登記の先後で決まる(差押えの時期は関係ない)
✅ 固定資産税などの地方税も、法定納期限等と抵当権の設定時期の先後で優劣が決まる
✅ 抵当権の設定より前に法定納期限等が来る税金の滞納は、銀行の担保権を脅かす
✅ 企業は定期的な納税状況チェックと資金計画を徹底することが重要
債権管理と税務対策を万全にし、事業の安定性を確保しましょう!
※本記事は一般的な解説です。個別の滞納や競売、配当の判断は、税理士・弁護士などの専門家や、税務署・市町村にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
抵当権と租税債権の競合について、よく寄せられる質問に結論から回答します。
Q. 抵当権と税金はどちらが優先されますか?
税金の法定納期限等と抵当権の設定登記のどちらが早いかで決まります。法定納期限等以前に登記された抵当権は税金に優先し、後に登記された抵当権には税金が優先します。
Q. 税務署が差押えをすれば抵当権より優先されますか?
優先されません。抵当権と税金の優劣は差押えの時期ではなく、法定納期限等と抵当権の設定登記の先後で決まります。
Q. 固定資産税は抵当権より優先されますか?
無条件に優先されるわけではありません。固定資産税は市町村が徴収する地方税で、抵当権との優劣は、固定資産税の法定納期限等と抵当権の設定時期のどちらが早いかで決まります。
Q. 法定納期限等とは何ですか?
原則として、税金を納めるべき期限として法律で定められた日です。申告納税の国税は原則として申告期限、地方税で納期が複数ある税目は第1期分の納期限が基準になります。更正や決定による税額などは別の日が基準になる場合があります。
Q. 税金を一度に払えない場合はどうすればよいですか?
滞納する前に税務署や市町村に相談し、換価の猶予や納税の猶予などの制度が使えないか確認します。国税の換価の猶予は、納期限から6か月以内に申請が必要です。
出典・参考
本記事の主な出典と、2026年10月30日の更新時に確認した資料は次のとおりです。
- 国税徴収法(第8条・第15条〜第17条)
https://hourei.net/law/334AC0000000147 - 国税庁「国税徴収法基本通達 第8条関係(国税優先の原則)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/02/01/008/01.htm - 国税庁「国税徴収法基本通達 第16条関係(法定納期限等以前に設定された抵当権の優先)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/02/03/016/01.htm - 総務省「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001066911.pdf - 税務研究会「換価の猶予と納税の猶予」
https://www.zeiken.co.jp/zeimutusin/article/no3694/TA00036942001.php
