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導入:倒産データから見えてきた3つの異変
2026年10月8日、東京商工リサーチが、2026年度上半期(4〜9月)の「物価高倒産」「ゼロゼロ融資利用後の倒産」「税金滞納倒産」に関する調査を公表しました。
今回の調査で注目したいのは、3つの数字です。
- 物価高倒産:436件。前年同期比17.8%増
- ゼロゼロ融資利用後の倒産:149件。同30.6%減
- 税金滞納倒産:168件。同100.0%増
物価高倒産は4年連続で増加し、税金滞納倒産は前年同期の2倍になりました。一方、ゼロゼロ融資利用後の倒産は減少しています。
一見すると、倒産を取り巻く状況には改善と悪化の両方が見られます。しかし、中小企業の経営という視点で重要なのは、単純な増減だけではありません。
原材料費や人件費の上昇、借入金の返済、税金・社会保険料の支払い。これらが重なると、売上があっても手元資金が不足し、事業継続が難しくなる可能性があります。
本記事では、東京商工リサーチの最新データを整理し、中小企業経営者が確認すべき数字と具体的な対策を解説します。
結論:利益・返済・納税を一体で管理することが重要
今回の調査から、経営者が押さえておきたいポイントは3つあります。
- 物価高への対応: 原価上昇分を価格に反映できず、利益が削られていないか。
- 借入返済への対応: 返済を続けながら、必要な運転資金を確保できるか。
- 納税への対応: 税金・社会保険料の支払いに必要な資金を確保できているか。
売上高が前年を上回っていても、利益率が低下していれば資金繰りが悪化することがあります。また、会計上は利益が出ていても、借入返済や納税などの支出によって現金が不足する場合があります。
経営者は、売上だけでなく、粗利益、営業利益、借入返済、納税予定額、手元資金を合わせて確認する必要があります。
1.物価高倒産は436件、4年連続で増加
東京商工リサーチによると、2026年度上半期の物価高倒産は436件でした。前年同期の370件から17.8%増加し、2022年度からの円安局面で最多となりました。
一方、負債総額は908億600万円で、前年同期比7.5%減少しています。年度上半期では3年連続の減少です。
負債10億円以上の倒産も18件となり、前年同期の22件から減少しました。
つまり、倒産件数が増えている一方で、負債総額は減少しています。東京商工リサーチは、大型倒産が落ち着いたことなどを背景として挙げています。
小・零細企業を中心に倒産が増加
資本金別では、1,000万円未満の企業が279件で、全体の63.9%を占めました。
業種別では、飲食店などを含む「サービス業他」が111件で最多となり、前年同期比24.7%増でした。
物価高倒産の調査対象は、負債1,000万円以上の企業倒産のうち、仕入コストや資源・原材料価格の上昇、価格転嫁の難しさなどが関係した企業です。
出典:東京商工リサーチ「年度上半期の『物価高』倒産436件 小・零細規模を中心に、4年連続増加」(2026年10月8日)
なぜ価格転嫁できない企業ほど苦しくなるのか
原材料費や仕入価格が上がっても、販売価格を据え置けば、粗利益が減少します。
例えば、売上100万円、原価60万円の場合、粗利益は40万円です。
原価が10%上昇して66万円になり、売上が変わらなければ、粗利益は34万円になります。粗利益は6万円、15%減少します。
| 項目 | 価格上昇前 | 原価上昇後 |
|---|---|---|
| 売上 | 100万円 | 100万円 |
| 原価 | 60万円 | 66万円 |
| 粗利益 | 40万円 | 34万円 |
| 粗利益率 | 40% | 34% |
※上記は仕組みを説明するための仮定例であり、東京商工リサーチの調査数値ではありません。
この状態が続くと、人件費や家賃、借入返済などを負担する余力が低下します。
特に、小規模企業では、仕入先との交渉力や価格決定権が限られている場合があります。値上げによる顧客離れを懸念して価格改定を先送りすると、売上を維持できても利益が残らない状況に陥りかねません。
2.ゼロゼロ融資利用後の倒産は149件に減少
2026年度上半期のゼロゼロ融資利用後の倒産は149件で、前年同期比30.6%減となりました。年度上半期では2023年の335件をピークに、3年連続で減少しています。
負債総額は310億2,200万円で、前年同期比17.2%減でした。
2026年9月の倒産は19件で、前年同月比56.8%減。2022年2月の19件に並ぶ、4年7カ月ぶりの10件台となりました。
ただし、2020年7月の第1号からの累計は2,461件に達しています。
出典:東京商工リサーチ「年度上半期の『ゼロゼロ融資』利用後の倒産149件」(2026年10月8日)
倒産件数の減少だけで安心することはできない
ゼロゼロ融資は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業の資金繰りを支えるために実施された、実質無利子・無担保の融資です。
融資によって当面の資金を確保できても、その後に本業の利益が回復しなければ、借入金の返済が経営を圧迫する可能性があります。
東京商工リサーチは、業績回復の遅れ、過剰債務の返済難、返済条件の変更による返済の先送りなどを課題として挙げています。
また、同社の調査では、資本金1,000万円未満の企業が94件で全体の63.0%を占めました。倒産形態は破産が135件で、90.6%でした。
金利上昇局面では返済計画の再確認が必要
東京商工リサーチは、金融機関の採算重視の姿勢や金利上昇の影響にも言及しています。
借入金の金利条件は企業によって異なるため、金利が上がればすべての企業の返済額が直ちに増えるわけではありません。しかし、変動金利の借入がある企業や、今後借り換えを予定している企業では、利息負担の変化を確認する必要があります。
経営者が確認したいのは、次の点です。
- 借入残高と金利、返済期限
- 毎月の元金返済額と利息
- 本業の利益で返済を賄えているか
- 返済後も運転資金が残るか
- 返済条件の変更が必要な場合、早めに金融機関へ相談できているか
返済を続けること自体が目的になり、仕入れや人件費などの運転資金が不足してしまえば、本業の回復も難しくなります。
3.税金滞納倒産は168件、前年同期の2倍に
今回、特に注目したいのが税金滞納倒産です。
東京商工リサーチによると、2026年度上半期の税金滞納倒産は168件で、前年同期比100.0%増となりました。この10年で最多です。
調査では社会保険料も対象に含まれています。
負債総額は323億500万円で、前年同期比42.3%増でした。
資本金1,000万円未満の企業は98件で、全体の58.3%。倒産形態では破産が164件となり、97.6%を占めました。
出典:東京商工リサーチ「『税金滞納』倒産が168件、前年同期の2倍に大幅増」(2026年10月8日)
納税資金が確保できなくなるまでに何が起きているのか
税金滞納倒産の背景には、コスト上昇による利益の圧迫や、運転資金の不足などがあります。
例えば、仕入代金や給与の支払いを優先し、税金や社会保険料の納付を後回しにする。借入金の返済負担も重なり、納付に必要な資金を確保できなくなる。
このような状況では、経営者が資金繰りを立て直そうとしていても、滞納が長期化することで取引先や金融機関からの信用に影響する可能性があります。
東京商工リサーチも、滞納が一定期間続くと金融機関や取引先に取引照会が送付され、信用低下につながるおそれがあると指摘しています。
ただし、税金を一時的に滞納した企業がすべて倒産するわけではありません。今回の調査は、企業倒産のうち税金滞納が関連したケースを集計したものであり、滞納企業全体の倒産率を示すものではありません。
納税は、利益が確定してから考えるものではない
経営者が注意したいのは、税金や社会保険料の支払いを、手元に余裕ができたら対応するという考え方です。
事業で得た資金は、仕入代金、給与、借入返済、税金など、さまざまな支出に充てられます。資金繰りを計画する際には、納税予定額もあらかじめ織り込む必要があります。
資金不足が予想される場合は、納付期限を過ぎる前に、税理士や所管窓口などへ相談し、利用可能な対応を確認することが重要です。
4.3つの倒産データから見える共通点
3つの調査は対象となる倒産の定義が異なります。そのため、436件、149件、168件を足し合わせて倒産全体の件数とみなすことはできません。
しかし、経営上の教訓を整理すると、共通する問題が見えてきます。
共通点①:コスト上昇を販売価格に反映できない
原材料費やエネルギー価格、人件費などが上がる一方、価格改定が遅れると利益が減少します。
共通点②:利益が不足すると返済と納税が重くなる
利益が減少した状態で借入返済が続けば、運転資金に余裕がなくなります。税金や社会保険料の納付資金も確保しにくくなります。
共通点③:資金不足への対応が後手に回る
資金繰りが厳しくなってから対策を始めると、価格改定や金融機関への相談、費用構造の見直しなど、選択肢が限られる可能性があります。
このため、経営者は倒産件数のニュースだけを見るのではなく、自社の経営数字に置き換えて考えることが大切です。
5.中小企業経営者が今すぐ確認したい5つの項目
① 商品・顧客別の粗利益
売上高だけでなく、商品・サービス別の原価と粗利益を確認します。
- 仕入価格や外注費がどれだけ上がったか
- 価格改定後の粗利益率はどう変わったか
- 利益が出ていない商品や取引はないか
採算が悪化している商品・取引が分かれば、価格改定、仕様変更、取引条件の交渉などを検討できます。
② 値上げと価格交渉の計画
一律の値上げが難しい場合でも、原価上昇の影響が大きい商品から見直す方法があります。
値上げによる顧客離れだけでなく、値上げしないことで利益が減少する影響も比較しましょう。
③ 借入返済と金利負担
借入金の残高、返済予定、金利条件を一覧化し、今後の資金繰りに与える影響を確認します。
返済が難しくなる兆候があれば、資金が尽きる前に金融機関へ相談することが重要です。
④ 税金・社会保険料の納付予定
納付予定額と納付期限を資金繰り表に反映します。納税用の資金を日常の運転資金と混同しない管理も有効です。
⑤ 3〜6カ月先の資金繰り
毎月の入金と支出を予測し、資金残高が不足する時期を事前に把握します。
売上が想定を下回った場合、原価がさらに上がった場合、金利負担が増えた場合など、複数のシナリオを用意しておくと、対応を早められます。
6.利益と資金を残すための具体的な対策
対策1:値上げだけでなく、利益構造を見直す
価格改定は重要ですが、それだけで十分とは限りません。
商品・サービスの構成、顧客別の採算、外注費、業務効率などを見直し、売上が増えたときに利益も増える構造をつくります。
対策2:資金繰り表を毎月更新する
少なくとも今後3〜6カ月程度の資金繰りを見通し、入金予定、仕入支払い、人件費、借入返済、税金・社会保険料の納付を一体で管理します。
予測と実績の差を毎月確認することで、資金不足の兆候を早めに把握できます。
対策3:金融機関や専門家への相談を先送りしない
返済負担が重い場合や、納税資金の確保が難しい場合は、問題が深刻化する前に相談しましょう。
金融機関への相談では、資金繰り表や試算表、返済予定表、改善計画などを用意すると、現状と今後の見通しを説明しやすくなります。
税金・社会保険料については、税理士や所管窓口などに早めに相談し、適用可能な制度や手続きを確認することが重要です。
7.今後の見通し:倒産件数だけでなく、利益と資金の変化を見る
東京商工リサーチは、物価高倒産について、価格転嫁が進まない小・零細企業を中心に、今後も高水準で推移する可能性を示しています。
ゼロゼロ融資利用後の倒産は減少していますが、過剰債務や金利上昇による負担は引き続き注視すべき課題です。
税金滞納倒産についても、物価や人件費の上昇、納税原資の不足が問題となっています。
今後、経営者が注目すべきなのは、倒産件数だけではありません。
- 仕入価格や人件費の上昇がどこまで続くか
- 価格改定によって粗利益率を維持できているか
- 借入返済と利息の負担がどう変わるか
- 税金・社会保険料の納付資金を確保できているか
- 手元資金が何カ月分の支出を賄えるか
これらを定期的に確認し、状況の変化に応じて経営判断を修正する必要があります。
まとめ:倒産を防ぐために、売上・利益・資金を一体で管理する
2026年度上半期の東京商工リサーチの調査では、物価高倒産436件、ゼロゼロ融資利用後の倒産149件、税金滞納倒産168件という結果が公表されました。
3つの数字は、それぞれ異なる問題を示しています。
- 物価高倒産:価格転嫁が進まず、利益が圧迫されている
- ゼロゼロ融資後の倒産:借入返済や過剰債務への対応が課題として残る
- 税金滞納倒産:納税資金を確保できないほど資金繰りが厳しい企業がある
重要なのは、これらを別々の問題として扱わないことです。
利益が減れば返済余力が低下し、手元資金が不足すれば納税も難しくなります。経営者は、売上を伸ばすことだけでなく、適正な価格設定、利益の確保、借入返済、納税資金の管理を一体で考える必要があります。
まずは直近の試算表、借入返済予定表、納税予定額、資金繰り表を確認し、3〜6カ月先に資金不足が生じないか点検してみてください。
「利益は出ているか」だけでなく、「返済と納税を済ませても現金が残るか」。この視点が、これからの中小企業経営ではますます重要になります。
出典
- 東京商工リサーチ「年度上半期の『物価高』倒産436件 小・零細規模を中心に、4年連続増加」(2026年10月8日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203319_1527.html - 東京商工リサーチ「年度上半期の『ゼロゼロ融資』利用後の倒産149件 物価高で『飲食店』が高水準、9月は4年7カ月ぶりに10件台」(2026年10月8日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203320_1527.html - 東京商工リサーチ「『税金滞納』倒産が168件、前年同期の2倍に大幅増 2026年度上半期の『税金滞納』倒産 破産が97.6%」(2026年10月8日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203318_1527.html
※本記事の統計は上記の東京商工リサーチ公表資料に基づいています。経営上の分析および仮定例は、統計そのものとは区別して記載しています。