「売上は戻ってきた。それなのに、資金繰りは楽にならない」
そんな状況にある企業にとって、今回の倒産動向は他人事ではありません。
東京商工リサーチ(TSR)が2026年11月2日に公表した記事によると、10月に判明した「新型コロナ」関連の経営破たんは125件。2020年2月からの累計は1万4,825件に達しました。
一方、2026年1〜10月の「円安」倒産は67件。前年同期の56件を19.6%上回り、年末まで2カ月を残して、2025年の年間65件を超えました。
コロナ破たんはピークから減少傾向にありますが、円安倒産は前年を上回っています。両者を同じ動きとして捉えることはできません。
ただし、経営者が読み取るべき共通の課題はあります。本業の収益力が十分に回復しないまま、仕入れや人件費の上昇、借入返済が重なると、売上があっても現金は残りにくいということです。
コロナ破たんは減っても、経営への影響は残っている
TSRによる新型コロナ関連の経営破たんは、負債1,000万円未満を含む集計です。
| 項目 | 記事の内容 |
|---|---|
| 2026年10月に判明した件数 | 125件 |
| 2020年2月からの累計 | 1万4,825件 |
| 2026年内の動き | 7月に年内最多を記録し、8月に減少。その後は月間150件未満 |
| 中期的な傾向 | 2023〜2024年をピークに徐々に減少 |
| 企業倒産全体の背景 | 長期化する物価高、人手不足などを背景に前年同期比で微増 |
| TSRの見通し | コロナ破たんは一進一退しながら、当面は月間100件台で推移すると予想 |
注意したいのは、「コロナ破たん」という名称だけで、現在の感染拡大が直接の原因だと受け取らないことです。
記事が指摘しているのは、本業の改善が進まない企業にとって、事業環境の悪化とコロナ融資の返済が二重の負担になっているという問題です。
借入で確保した資金は、事業を立て直すための時間をつくります。しかし、その間に利益を生む力が回復しなければ、返済が進むほど資金の余裕は薄くなります。
ここから得られる教訓は、「資金調達できたこと」と「経営が改善したこと」を分けて判断する必要があるということです。
出典:東京商工リサーチ「新型コロナ破たん、10月は125件発生」
地域別では東京が最多。ただし、件数と比率は別の指標
累計件数では東京都が2,939件で、全体の19.8%を占めています。記事に掲載された都道府県の件数は次のとおりです。
| 都道府県 | 累計件数 |
|---|---|
| 東京都 | 2,939件 |
| 大阪府 | 1,337件 |
| 福岡県 | 916件 |
| 愛知県 | 649件 |
| 北海道 | 646件 |
| 兵庫県 | 626件 |
| 神奈川県 | 616件 |
| 埼玉県 | 462件 |
| 千葉県 | 412件 |
| 京都府 | 401件 |
| 広島県 | 382件 |
| 宮城県 | 362件 |
累計300件以上は14都道府県、200件以上300件未満は4県、100件以上200件未満は19県です。10件未満の都道府県はなく、最少は鳥取県の38件でした。
なお、本文で個別の件数が列挙されているのは、300件以上の14都道府県のうち12都道府県です。残る2県の名称・件数は、提示本文だけでは確認できません。
企業数を基にした累計比率では、全国が0.413%。主な地域は以下のとおりです。
| 地域 | 累計のコロナ破たん率 |
|---|---|
| 東京都 | 0.703% |
| 福岡県 | 0.676% |
| 宮城県 | 0.608% |
| 群馬県 | 0.521% |
| 京都府 | 0.506% |
| 全国 | 0.413% |
| 岐阜県〔最低〕 | 0.165% |
この比率の分母は、2016年の総務省「経済センサス」による企業数358万9,333社です。現在の企業数を用いた単年の倒産率ではなく、個々の企業が今後倒産する確率でもありません。
記事では「250社に1社」と表現されていますが、掲載数値を単純計算すると約242社に1社です。「250社に1社」は概数として読む必要があります。
地域差は確認できますが、この数字だけで原因まで判断することはできません。企業数や業種構成などを確認せず、「この地域は経営が弱い」と結論づけるのは適切ではありません。
経営者にとって大切なのは、自社の所在地だけでなく、主要な販売先・仕入先がある地域にも目を向けることです。取引先の経営悪化は、入金遅延や供給停止を通じて自社に影響する可能性があります。
出典:東京商工リサーチ「新型コロナ破たん、10月は125件発生」
円安倒産は52カ月連続。10カ月で前年の年間件数を超えた
円安関連倒産の主な数字を整理します。
| 項目 | 記事の内容 |
|---|---|
| 2026年10月の件数 | 6件、前年同月と同数 |
| 2026年1〜10月の累計 | 67件 |
| 前年同期との比較 | 56件から19.6%増加 |
| 前年年間との比較 | 2025年1〜12月の65件を超過 |
| 連続発生期間 | 2022年7月から52カ月連続 |
| 10月の負債総額 | 20億7,700万円、前年同月比47.0%増 |
| 負債総額の動き | 2カ月連続で前年同月を大幅に上回る |
| 10月の業種内訳 | 卸売業5件〔前年同月4件〕、運輸業1件〔同ゼロ〕 |
| 記事で示された為替水準 | 1ドル=157〜158円 |
| TSRの見通し | 円安倒産は当面、高水準で推移する可能性 |
10月単月の件数は前年と変わりません。しかし、年初からの累計は増加し、10月の負債総額も前年同月を上回っています。
「今月は6件だから影響は小さい」と判断するのではなく、単月、累計、負債額を分けて確認することが必要です。
なお、1ドル=157〜158円は記事が記載した水準であり、この記事を読む時点の最新為替レートを示すものではありません。
出典:東京商工リサーチ「2026年10月の『円安』倒産6件、52カ月連続発生」
輸入コストの上昇を、販売価格に反映できるか
10月の円安倒産で最大だったのは、被服実習用教材を販売する(株)スタイリッシュ・エイチ・アンド・エイ〔兵庫県〕で、負債は11億円でした。
記事によると、仕入商材の大半を輸入に依存していたため円安の影響を受け、コスト上昇によって資金繰りが悪化していました。提示本文では、具体的な倒産手続きや発生日までは確認できません。
この1社の負債は、10月の円安倒産の負債総額の約53%に相当します。したがって、負債総額の増加を、そのまま全企業の一様な悪化と捉えることにも注意が必要です。
この事例から考えられる経営上の論点は、輸入依存度だけではありません。
- 仕入価格が上がってから販売価格を変えるまで、何カ月かかるか
- 長期契約や固定価格の見積もりが、採算を圧迫していないか
- 原価上昇を反映した商品別・取引先別の利益を把握できているか
- 高額になった在庫の仕入れが、現金を拘束していないか
これらは事例から導いた分析であり、当該企業の未確認の事情を示すものではありません。
また、直接輸入していない企業にも、国内仕入先の値上げや物流費などを通じて影響が及ぶ可能性があります。確認すべきなのは、海外との直接取引の有無だけでなく、自社の原価が何に左右されるかです。
出典:東京商工リサーチ「2026年10月の『円安』倒産6件、52カ月連続発生」
2つの動向が示すのは、利益と現金を同時に守る必要性
ここからは、2本の記事を踏まえた経営上の分析です。
コロナ関連では、本業の回復が不十分な企業に返済負担が重なっています。円安関連では、輸入コストなどの上昇に価格転嫁が追いつかない問題が指摘されています。
経路は異なりますが、いずれも「事業で稼ぐ資金」と「支払う資金」のバランスに行き着きます。
ただし、両集計の対象や定義が同一とは限らず、企業の重複も確認できません。125件と6件を足して「合計131件」と扱うことはできません。
教訓① 売上が戻っても、粗利益が戻るとは限らない
例えば、月商1,000万円の企業を考えてみましょう。
| 項目 | 原価上昇前 | 原価上昇後 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 売上原価 | 700万円 | 770万円 |
| 粗利益 | 300万円 | 230万円 |
| 粗利益率 | 30% | 23% |
これは仕組みを示す仮の例です。売上が同じでも、売上原価が10%増えると、粗利益は70万円減少します。粗利益の減少率は約23%です。
この粗利益から人件費や家賃などを支払うため、もともと利益の薄い企業ほど影響が大きくなります。
見るべきなのは売上高だけではなく、商品・案件・取引先ごとの粗利益額と粗利益率です。
教訓② 黒字でも、返済後に現金が減ることがある
借入金の元本返済は、損益計算書上の費用ではありません。しかし、返済すると預金は減ります。支払利息とは分けて考える必要があります。
利益が出ていても、借入元本の返済、在庫の増加、売掛金の回収待ち、設備投資などが重なれば、現金は減少します。
経営会議では「今月の利益」と併せて、「今月の現金増減」と「今後の最低預金残高」を確認することが重要です。
教訓③ 値上げは、実施したかより利益が残ったか
販売価格を改定しても、原価上昇への対応が遅れたり、販売数量が減ったりすれば、十分な改善につながらないことがあります。
仮に原価700万円が770万円に増えた場合、同じ数量を販売して従来の粗利益額300万円を確保するには、売上高は1,070万円必要です。
一方、従来の粗利益率30%を維持するには、売上高は1,100万円必要になります。
粗利益の「額」を守るのか、「率」を守るのかで、必要な価格改定幅は変わります。値上げ後は販売数量も含めて検証しなければなりません。
特に注意したい企業の特徴
今回の動向から、次の条件が重なる企業は、自社の数字を優先して確認したいところです。
| 特徴 | 確認したいこと |
|---|---|
| コロナ期の借入返済が続いている | 返済を含めた資金収支が継続的に赤字になっていないか |
| 輸入品・輸入原材料への依存が大きい | 原価上昇がどの商品に、いつ反映されるか |
| 価格改定までの期間が長い | 固定価格契約・見積有効期間・改定条項 |
| 売上は回復したのに利益が薄い | 不採算商品・案件・取引先が残っていないか |
| 在庫や売掛金が増えている | 利益の増加以上に運転資金が必要になっていないか |
| 大口取引先への依存度が高い | 入金遅延や取引縮小が起きた場合の資金影響 |
| 人手不足への対応で人件費が増えている | 人件費の増加に見合う粗利益を確保できているか |
これらに該当することだけで、倒産危険度を断定することはできません。複数の条件が重なるときに、早めに実態を確認するための視点です。
経営者が今月取り組みたい5つのこと
1.13週間の資金繰りを、週単位で見えるようにする
預金残高、入金予定、仕入支払、人件費、税金・社会保険、借入元本・利息などを週ごとに並べます。
見込みの入金は確度を分け、入金が遅れた場合や原価がさらに上がった場合も試算します。目的は、資金不足になってから気づくことを防ぐことです。
13週間は実務上の管理方法の提案であり、TSR記事の推奨期間ではありません。
2.主力商品・主要取引先の採算を、最新原価で計算する
過去の仕入原価で採算を判断すると、次回の仕入れで利益が失われる可能性があります。
現在の実績採算に加え、次回仕入価格を反映した採算も確認しましょう。管理用の試算と会計上の原価計算は区別します。
3.価格・数量・納期・仕様を組み合わせて交渉する
価格だけで調整できない場合は、最低発注数量、配送頻度、小口対応料、仕様、支払条件なども見直しの候補になります。
一方的な変更ではなく、契約を確認し、相手と合意することが前提です。売上維持だけを目的に赤字取引を続けることも、急な取引終了で大きな売上を失うことも避け、改善効果を試算して判断します。
4.返済負担が厳しくなる前に、金融機関へ相談する
資金繰り表と、粗利益改善・在庫削減などの具体策をそろえて相談します。資金不足の時期と原因を説明できることが重要です。
返済条件の変更や追加融資には個別の判断があり、利用が保証されるわけではありません。金融面の対応と、本業の収益改善を併せて進める必要があります。
5.取引先と自社在庫に滞留している資金を確認する
売掛金の入金遅延、長期滞留在庫、過剰な発注、主要仕入先への集中を点検します。
ただし、在庫を減らしすぎて欠品を起こしたり、支払条件の変更で供給を不安定にしたりしないよう、事業継続への影響も確認しましょう。
厳しい環境の中にも、改善と事業機会はある
今回のニュースから、すべての企業が同じように悪化すると結論づけることはできません。
経営上の機会として考えられるのは、調達先の分散、代替材料の提案、在庫管理の改善、少ない人員で運営できる業務への見直しです。顧客のコスト削減や供給の安定に貢献できれば、新しい受注につながる可能性もあります。
ただし、国産化や省力化投資が必ず有利とは限りません。品質、納期、総コスト、投資回収期間、当面の資金支出を比較し、自社に合う改善を選ぶことが必要です。
今後は倒産件数と、自社の改善速度を併せて見る
TSRは、コロナ破たんについて当面は月間100件台、円安倒産については高水準が続く可能性を示しています。これらは見通しであり、確定した将来の件数ではありません。
経営者としては、今後の倒産件数に加え、原材料価格、人件費、為替、販売価格への反映状況、返済予定を確認したいところです。
そのうえで、自社の経営会議に次の3つを並べてください。
売上はいくらか。粗利益はいくら残ったか。返済を含む支払いの後に、現金はいくら残るか。
まずは次の13週間の資金繰りと、主力商品の最新原価を確認することから始めましょう。
