「売上は伸びているのに利益が残らない」「市場全体は好調なのに、自社の経営だけが厳しい」。いま、こうした現象が業種の壁を越えて広がっています。
2026年11月1〜3日に東京商工リサーチ(TSR)と帝国データバンク(TDB)が公表した4つの調査を見ると、デザイン業では倒産が急増し、地ビール業界では総出荷量が伸びながら過半数のメーカーが前年割れ、民間病院では約6割が営業赤字、もやし製造業では低価格とコスト高の板挟みから撤退が続いています。
共通するのは、「市場に需要がある」「売上が増える」だけでは、事業の利益や資金繰りは守れないということです。4業種の事実を読み解きながら、中小企業の経営者が自社で点検すべきことを整理します。
【一覧】4業種で起きていること
| 業種 | 最新調査の重要数字 | 経営上の警告 |
|---|---|---|
| デザイン業 | 2026年度上半期の倒産41件、前年同期比86.3%増 | 顧客の内製化や住宅関連需要の変化で、従来の受注基盤が揺らぐ |
| 地ビールメーカー | 主要49社の総出荷量9,093kL、3.7%増。しかし27社(55.1%)は出荷量減少 | 業界全体の成長と個社の成長が一致しない |
| 民間病院 | 2025年度の営業赤字割合57.4%、債務超過割合13.6% | 診療件数回復だけではコスト増を吸収しきれない |
| もやし製造業 | 2022〜26年の倒産・休廃業・解散は計13件。2025年度は約3割が最終赤字 | 低価格構造が原材料高、人件費、エネルギー高に対応できない |
注:各調査は集計対象、調査期間、倒産や業績の定義が異なります。件数や割合を単純に横並び比較して業種別の倒産危険度を判定することはできません。
1.デザイン業:倒産41件、前年同期比86.3%増。AIだけが原因ではない
東京商工リサーチが2026年11月1日に公表した調査によると、2026年度上半期(4〜9月)のデザイン業の倒産は41件。前年同期の22件から86.3%増となり、1989年以降の上半期では初めて40件を超えました。対象は負債1,000万円以上の倒産です。
倒産企業のうち39件が従業員5人未満で、特に小規模事業者に集中しています。負債規模別では1,000万円以上5,000万円未満が34件と8割超でした。
背景を「生成AIがデザイナーを不要にした」と単純化するのは不正確です。TSRは、生成AI・ノーコードツールの普及による顧客の内製化や、紙媒体からデジタル媒体への転換に加え、住宅関連市場の変化も指摘しています。倒産企業の負債額上位7社のうち5社は、住宅内装や家具などのインテリアデザインを主に手掛ける企業でした。同じ2026年度上半期のハウスメーカー倒産は115件、前年同期比88.5%増です。
経営への示唆:「顧客が外注し続けること」を前提にした事業モデルは危険です。単純制作から、企画・ブランド設計・販促成果の検証など、顧客にとって置き換えにくい価値へと提供範囲を見直す必要があります。また、住宅関連など特定業界への依存率も点検すべきです。
出典:東京商工リサーチ「AIの脅威が迫る『デザイン業』、上半期の倒産が過去最多」(2026年11月1日)
2.地ビールメーカー:業界全体は3.7%増でも、55.1%のメーカーは出荷量減少
東京商工リサーチの第17回「地ビールメーカー動向」調査では、2026年1〜8月の出荷量が判明した49社の総出荷量は9,093kL、前年同期比3.7%増。2025年の0.5%増に続き、2年連続の増加です。2024年は8.6%減でした。
ところが、49社の内訳は増加20社(40.8%)、減少27社(55.1%)、横ばい2社(4.0%)。総出荷量は増えても、過半数の企業では出荷量が減少しています。
出荷量が増加した理由では、飲食店・レストラン向けの堅調さとスーパー・コンビニ・酒店向けの好調がそれぞれ11社で最多。減少した理由では、物価上昇による消費抑制13社、飲食店・レストラン向け不調12社が挙げられています。販売先の違いが、個社の業績を大きく左右していることがうかがえます。
他の設問は回答52社を基礎としています。すでに値上げした企業は17社(32.6%)、今後の値上げを予定する企業は12社(23.0%)で、合わせて55.7%。一方、値上げ予定なしは21社(40.3%)、値上げしたいができない企業は2社(3.8%)でした。今後の懸念としては、原材料・燃料・運送費の高騰が45社(86.5%)、設備・施設が33社(63.4%)、人件費や人手不足・高齢化が32社(61.5%)となっています。
出荷量ランキングでは、エチゴビールが2,824kLで首位、2位の木内酒造1823が1,313kL、3位の二軒茶屋餅角屋本店が1,109kLでした。原資料内に首位継続年数の表記の不一致があるため、本記事では連続年数を記載していません。
経営への示唆:市場の成長率だけでなく、自社がどの顧客層・販路で伸びているか、値上げ後にも限界利益が残るか、差別化が販路開拓につながっているかを確認することが重要です。なお、出荷量の増減はそのまま利益の増減を表すものではありません。
出典:東京商工リサーチ「第17回『地ビールメーカー動向』調査」(2026年11月2日)
3.民間病院:57.4%が営業赤字。回復の兆しがあっても債務超過は拡大
帝国データバンクが約800の民間病院経営法人を対象に2025年度の損益を分析したところ、営業赤字の割合は57.4%でした。過去20年で最悪だった2024年度の61.7%から4.3ポイント改善しましたが、なお約6割が赤字です。
一方、判明ベースの債務超過割合は13.6%で、2024年度の12.3%から1.3ポイント上昇し、3年連続で増加しました。営業利益率平均(上下各10%を除く刈り込み平均)もマイナス1.16%と、2023年度以降3年連続の赤字水準です。前年度はマイナス1.82%でした。
比較対象となる診療所(約700法人)の営業赤字割合は45.8%、平均営業利益率は0.93%でした。病院の厳しさが目立ちますが、診療所も収益性が低下しています。
地域別では、対象法人が10以上ある29都道府県のうち23都道府県で営業赤字が半数超。山口県75.8%(25/33法人)、秋田県72.7%(8/11法人)、愛知県71.4%(10/14法人)に加え、東京都57.5%(23/40法人)、大阪府50.9%(28/55法人)でも半数を超えています。
収益面では入院・外来の診療件数が回復した病院も多かったものの、医師・看護師の確保競争、医療資材や給食材料費の上昇、設備更新負担などが増収効果を打ち消しています。医療では価格を自由に改定しにくいことも大きな制約です。
2026年度の診療報酬本体の3%超のプラス改定は収益改善の材料ですが、人件費負担の上昇が上回る可能性もあります。制度改定だけで赤字が解消すると見るのは早計です。
経営への示唆:病床稼働率や診療件数だけではなく、診療部門別損益、職種別の人員配置、離職による機会損失、老朽設備の更新計画、運転資金を組み合わせて管理する必要があります。ICT・AIの導入も、単なる導入件数ではなく業務時間や経費削減の実効性で評価したいところです。
調査上の注意:病院および診療所の業績データには一部推定・予想値が含まれます。また、営業赤字と債務超過は異なる指標で、同じ企業群がすべて重複していることを意味しません。
出典:帝国データバンク「全国『病院経営』動向調査(2025年度)」(2026年11月2日)
4.もやし製造業:5年間で13件の倒産・廃業。「安くて当然」が限界に
帝国データバンクが2026年11月3日に公表した調査では、もやし製造業の2022〜2026年の倒産・休廃業・解散は計13件でした。
2026年は10月31日までに倒産や休廃業・解散が少なくとも3件判明し、10月に事業停止したサイキ食品(埼玉県)を含めると4件となります。ここでいう「倒産」は負債1,000万円以上の法的整理で、休廃業・解散はこれとは別の区分です。13件すべてが法的倒産という意味ではありません。
コスト上昇も深刻です。財務省貿易統計によると、主原料の緑豆の輸入単価は2026年1〜8月平均で前年同期比7.2%上昇しました。包装資材、電力、物流、人件費も上昇しています。
2025年度の業績が判明した全国約20社では、約3割が最終赤字。減益企業を含めると65%で業績が悪化しました。業績悪化企業の割合は2021年度の75.0%をピークに改善傾向でしたが、2025年度は4年ぶりに前年を上回っています。
もやしは家計の節約需要に支えられていますが、低価格を前提とするため、売れても上がった費用を販売価格に十分転嫁できないケースがあります。収益を確保する企業の中には、単価の高いスプラウト、カット野菜、ミックス野菜などを併営して、商品構成を工夫する例もあります。
経営への示唆:数量が維持されていても、単位当たりの利益が減れば経営は苦しくなります。商品別の原価・歩留まり・電力使用量を把握し、不採算取引の条件を見直す必要があります。買い手企業にとっても、地域密着型の製造業者が撤退すると、仕入先の分散や安定調達に問題が生じる可能性があります。
出典:帝国データバンク「『もやし製造』の倒産・休廃業解散動向(2026年)」(2026年11月3日)
4業種から浮かぶ「売れても儲からない」5つの共通要因
① 市場全体の数字を自社の成長と取り違える
地ビールの総出荷量は増えても、27社は前年割れです。業界平均ではなく、自社の顧客層・販路・商品別に売上と粗利益の変化を見ることが必要です。
② コスト上昇分を販売価格に反映できない
もやしは低価格イメージ、病院は診療報酬という制度的制約があります。自社でも価格改定の可否を契約別に分け、未転嫁コストを金額で把握する必要があります。
③ 技術変化で「外注される仕事」自体が変わる
デザイン業で顧客の内製化が進むように、既存の受託業務が将来も同じ単価・数量で残るとは限りません。顧客が何に対価を払うのかを再定義すべきです。
④ 人材・設備の制約が売上回復を利益に変えさせない
民間病院では診療件数の回復が利益改善に直結しない構造が明らかです。自社でも人件費、設備更新費、減価償却、修繕負担を売上計画と一体で検討する必要があります。
⑤ 収益悪化を放置すると資金繰りや供給体制に影響する
低収益が続くと設備投資や人材確保に回す余力が細ります。赤字か黒字かだけでなく、営業キャッシュフローと借入金返済、設備投資の時期まで見て判断することが重要です。
経営者が今すぐ実行したい5つのチェック
- 商品・部門別の粗利益を再計算する:売上上位と利益上位が一致しているか、直近12か月で確認する。
- 価格転嫁できていない取引を一覧化する:原材料、労務費、運送費など、未転嫁額を金額で算出する。
- 上位顧客・販路への依存度を確認する:主要顧客の内製化、需要減、取引条件変更に耐えられるか検証する。
- 人員と設備の制約を見える化する:欠員時の事業継続、設備更新、業務標準化、AI導入の費用対効果を点検する。
- 3〜6か月先の資金繰りを更新する:売掛金回収、仕入支払、借入返済、設備投資の予定を並べる。
今後の展望:成長より「利益を残せる成長」を追う
4つの調査に共通するのは、従来の営業努力だけで環境変化を吸収しにくくなっていることです。AIで発注形態が変わる業種、業界全体が伸びても個社間で明暗が分かれる業種、制度上の価格制約がある業種、低価格構造から抜け出せない業種では、打ち手は同じではありません。
ただし、確認する順序は共通しています。「誰に、何を、いくらで提供し、どの費用を負担し、最後にいくら現金が残るのか」です。自社の収益構造を数字で把握できれば、値付け、商品構成、販路、業務効率化、設備投資の優先順位を決めやすくなります。
まとめ:売上の先にある利益と資金繰りを点検しよう
デザイン業では倒産41件、地ビールでは総出荷量増にもかかわらず過半数が前年割れ、民間病院では営業赤字57.4%、もやし製造業では5年間の倒産・廃業13件。数字の種類は違っても、需要があることと、企業が持続的に利益を得られることは同じではありません。
まずは今月、自社の「粗利益が減っている商品・顧客」と「費用が上がっているのに価格を変えられていない取引」を洗い出してみてください。売上だけでなく、利益と資金を守る経営判断につながります。
参考資料・出典
- 東京商工リサーチ:デザイン業の倒産動向(2026年11月1日)
- 東京商工リサーチ:地ビールメーカー動向(2026年11月2日)
- 帝国データバンク:全国「病院経営」動向調査(2025年度、2026年11月2日発表)
- 帝国データバンク:「もやし製造」の倒産・休廃業解散動向(2026年11月3日)
編集注:本記事は2026年11月3日にユーザーから提供された4調査の原文を基礎に制作しています。経営への示唆・チェック項目は編集上の分析であり、調査会社による断定ではありません。各原資料の集計対象・定義に留意してください。
