先日、プログラミング言語のPHPに重大な脆弱性が確認され、国や自治体、大手企業などでも、ホームページや一部サービスを一時停止して対策する動きがありました。
私自身、多少PHPの知識があったことに加え、以前はホームページを自作していたこともあり、今回の件では初動対応することができました。
改めて感じたのは、AIの進化によってできることが増える一方で、セキュリティの重要性もますます高まっているということです。
AIを活用すれば、これまで多くの時間をかけていた情報収集や資料作成、業務処理などを効率化できます。しかし、システムの安全性を確保することや、問題が発生した際に状況を判断し、適切に対応することまで、すべてをAIに任せられるわけではありません。
人手不足が続く中、AIの活用は中小企業にとって欠かせないものになりつつあります。一方で、人が担うべき役割も残っています。
また、人材の確保には賃上げへの対応が必要となる一方、企業の資金調達や不動産融資、事業承継を取り巻く環境にも変化の兆しが見られます。
今回は、10月19日〜25日に公開する「事業創造ラボ」の動画6本をもとに、これからの中小企業経営で考えておきたいテーマを整理します。
1. AI時代だからこそ、セキュリティへの備えが重要になる
今回のPHPの脆弱性をめぐっては、2026年10月21日に関連情報が公表され、ウェブサイトやサービスの安全性を確保するため、一時的な停止や修正プログラムの適用などの対応が行われました。
情報処理推進機構(IPA)も、関連する脆弱性情報と対策について注意喚起しています。
今回のような事態では、システムの安全性を確保するために、サービスを一時停止する判断が必要になることもあります。これは大企業だけの問題ではありません。自社のホームページや業務システムを運用する中小企業にも関係する話です。
ホームページは公開しているだけでは不十分
中小企業では、ホームページを制作した後、日常の更新や運用を優先し、システムの更新やセキュリティ対策が後回しになることがあります。
しかし、ホームページは会社の情報を発信するだけでなく、問い合わせや資料請求、採用応募、顧客との接点などを担う重要な経営資産です。
もし利用できなくなれば、機会損失が発生する可能性があります。顧客情報などを扱うシステムであれば、情報管理上の問題にもつながりかねません。
経営者として、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。
- ホームページや業務システムで利用している技術・ソフトウェアが把握できているか
- セキュリティ更新を誰が担当し、どのように実施しているか
- システムに問題が発生した場合、誰に連絡し、どう対応するか決まっているか
- データのバックアップや復旧手順が整備されているか
- 外部の制作会社や保守会社に任せている場合も、対応状況を確認できるか
すべての技術を経営者自身が理解する必要はありません。ただし、何を誰に任せているのか、問題が起きたときにどう対応するのかは把握しておく必要があります。
AIを導入することと、リスクを管理することはセット
AIによって業務効率を高められる範囲は広がっています。
一方で、AIサービスへの情報入力、社内データの取り扱い、システム連携、アクセス権限の管理など、新たに考慮すべき点もあります。
AIを導入すれば自動的に安全になるわけではありません。便利だからといって、機密情報や顧客情報を取り扱うルールを決めずに利用すると、思わぬリスクにつながる可能性があります。
重要なのは、AIを使うかどうかだけでなく、どの業務に、どの情報を使い、誰が結果を確認するのかを明確にすることです。
AIの活用とリスク管理を一体で考えることが、これからの経営には欠かせません。
2. 人手不足の時代、賃上げと生産性向上をどう両立するか
人手不足が続く中、企業にとって人材の確保と定着は重要な経営課題です。
採用競争に対応するためには、給与や待遇を見直すことも必要になります。しかし、賃上げを継続するには、その原資となる利益を確保しなければなりません。
ここで考えたいのが、賃上げと生産性向上を別々の課題として扱わないことです。
賃上げによって人材の採用・定着を図る。同時に、業務の効率化や付加価値の向上によって、賃上げを継続できる収益構造をつくる。この両方が必要になります。
賃上げ支援策を確認する前に考えたいこと
今回の動画では、中小企業が確認したい賃上げ関連の助成金・支援制度を取り上げています。
こうした制度を活用する際には、支援額だけで判断するのではなく、自社が実現したいことを先に整理することが重要です。
例えば、次のような視点があります。
採用力を高めたい場合
給与水準だけでなく、仕事内容、働き方、育成体制、評価制度などを見直します。採用した人材が能力を発揮し、長く働ける環境を整えることも重要です。
社員の能力を高めたい場合
研修や資格取得支援、業務の標準化などを通じて、社員一人ひとりが生み出す付加価値を高めることを検討します。
業務の効率化を進めたい場合
AIやITツールを活用し、情報収集、資料作成、定型業務、社内情報の共有などにかかる時間を削減できないかを考えます。
賃上げを継続したい場合
人件費の増加を吸収できるよう、価格設定、原価、業務効率、商品・サービスごとの利益を確認します。
助成金は、賃上げを実現するための手段
助成金や支援制度は、要件に合致すれば企業の取り組みを後押しするものです。ただし、制度によって対象となる取り組みや要件、申請期間などは異なります。
また、助成金を活用できたとしても、それだけで企業の収益構造が改善するわけではありません。
大切なのは、採用・定着・育成・生産性向上を一体で考え、賃上げを継続できる経営基盤を整えることです。
制度の活用を検討する際は、最新の公式情報で対象要件や申請条件を確認しましょう。
3. 中小企業の融資環境はどう変わるのか
今回の動画では、地方銀行の不動産融資の動向や金融庁の問題意識を踏まえ、中小企業の融資環境が今後どう変化するのかを取り上げています。
企業にとって、融資は運転資金の確保や設備投資、新規事業の立ち上げなどを支える重要な手段です。
一方で、金融機関の融資姿勢は、経済環境や金利、融資対象となる事業のリスクなどによって変化します。
特に、不動産を活用した事業や不動産関連の投資を検討している場合は、物件の収益性だけでなく、資金調達条件や返済計画も含めて考える必要があります。
融資を受けられるかどうかだけで判断しない
設備投資や新規事業を検討するとき、金融機関から融資を受けられるかどうかは重要な論点です。
ただし、融資を受けられることと、その投資が経営上適切であることは別の問題です。
例えば、次の点を確認しておきたいところです。
- 投資によってどの程度の売上・利益を見込めるか
- 売上が計画を下回った場合も返済を継続できるか
- 金利や返済条件が変わった場合、資金繰りにどのような影響があるか
- 運転資金を含め、必要な資金を確保できているか
- 既存事業と新規投資の資金負担が過度に重なっていないか
特に重要なのは、計画どおりに進んだ場合だけでなく、想定よりも業績が悪化した場合のシミュレーションを行うことです。
金融機関との関係は、資金が必要になる前から築く
資金繰りが厳しくなってから金融機関に相談するのでは、選択肢が限られる場合があります。
日頃から試算表や資金繰り表を整備し、経営状況や今後の投資計画を説明できるようにしておくことが大切です。
また、融資を受ける際には、借入金の使途と返済原資を明確にする必要があります。
今後の金融環境の変化を考えるうえでも、資金調達を単発の手続きとして捉えるのではなく、事業計画や資金繰り管理と一体で考えることが重要です。
なお、金融機関の融資姿勢が一律に厳しくなると断定することはできません。企業の財務状況、事業内容、担保、返済能力などによって判断は異なります。最新の金融行政の動向や取引金融機関の説明を確認しながら、自社に必要な備えを進めましょう。
4. 住宅ローンや不動産融資は、契約条件の確認が欠かせない
今回の動画では、フラット35の不正利用が発覚した事例も取り上げています。
住宅ローンは、一般に本人や家族が居住する住宅の取得など、制度が定める目的に沿って利用するものです。
一方で、住宅ローンを利用して取得した物件を、実際には民泊や店舗など別の用途に転用する場合には、契約や制度の条件に抵触する可能性があります。
不動産を活用した事業を検討する際には、資金調達の条件を十分に理解しておく必要があります。
不動産投資では、物件の収益性と資金調達条件を分けて考える
不動産を活用する事業では、物件の立地や賃料収入、運営費用などに注目しがちです。
しかし、事業として適切に運営できるかどうかを判断するためには、資金調達の条件も確認しなければなりません。
例えば、次のような点です。
- 利用する融資制度の対象となる物件や利用目的
- 賃貸、民泊、店舗などの用途に関する制限
- 用途変更や運営方法の変更に必要な手続き
- 金融機関への事前確認が必要な事項
- 契約違反があった場合の取り扱い
物件の収益性が高く見えても、資金調達の条件に合わなければ、当初の事業計画どおりに運営できない可能性があります。
不動産を取得する前に、融資契約、物件の用途、必要な許認可などを確認しておくことが重要です。
5. 倒産件数の増加から、自社の経営を見直す
今回の動画では、2026年度上半期の倒産データを取り上げ、中小企業を取り巻く経営環境を整理しています。
倒産件数の増加は、経営者にとって気になるニュースです。ただし、倒産件数だけを見ても、自社の経営がどの程度危険なのかを判断することはできません。
大切なのは、倒産動向を参考にしながら、自社の資金繰りや利益構造に問題がないかを確認することです。
売上があることと、資金が残ることは違う
会社の経営状態を確認するとき、売上高は重要な指標です。しかし、売上があっても、仕入代金や人件費、借入返済、税金などの支払いが重なれば、資金が不足することがあります。
また、売上を確保するために値引きを続けた結果、利益が十分に残らなくなる場合もあります。
経営者が定期的に確認したいのは、次のような項目です。
資金繰り
今後数か月の入金・支出を把握し、資金が不足する時期を予測できているか。
利益構造
商品・サービスごとの粗利益や営業利益を把握し、どこで利益が生まれているかを説明できるか。
固定費
売上が減少した場合でも、固定費や借入返済を継続できる余力があるか。
顧客構成
特定の顧客や取引先に依存しすぎていないか。
事業の将来性
現在の主力事業が、今後も顧客から選ばれ続ける理由を持っているか。
こうした項目を定期的に確認することで、問題が大きくなる前に対策を検討しやすくなります。
倒産のニュースを知るだけでなく、自社の経営を点検する機会にすることが重要です。
6. 非上場株式の評価見直しと事業承継
今回の動画では、非上場株式の評価見直しについても取り上げています。
中小企業の事業承継では、後継者を誰にするかという問題だけでなく、株式をどのように引き継ぐかも重要な論点になります。
特に、経営者やその親族が株式を保有する会社では、株式の評価や移転方法が、事業承継の計画に影響することがあります。
事業承継は、直前になってから考えるものではない
事業承継を進める際には、後継者の育成、経営権の移転、株式の承継、税務上の検討など、複数の課題を整理する必要があります。
株式の評価方法や関連制度に変更があれば、承継の計画に影響する可能性もあります。
ただし、評価方法の見直しが具体的にどのような影響を及ぼすかは、適用される制度や会社の状況によって異なります。制度変更の内容や適用時期を確認せずに、株式評価が必ず上がる、あるいは下がると判断することはできません。
経営者として、まず確認しておきたいのは次の点です。
- 自社株式の評価額を把握しているか
- 誰が株式を保有し、誰に引き継ぐ予定なのか整理できているか
- 後継者が経営を担うための準備が進んでいるか
- 株式の移転に伴う税務上の論点を確認しているか
- 制度変更があった場合、事業承継計画への影響を検討できるか
事業承継は、株式の移転だけで完結するものではありません。
経営者が担っている仕事や判断を次の世代に引き継ぎ、会社が継続的に経営できる状態をつくることが重要です。
そのためにも、税務や法務の専門家と連携しながら、早い段階から準備を進めておきたいところです。
7. AI・人材・資金を一体で考える経営へ
ここまで、セキュリティ、賃上げ、融資、倒産動向、事業承継について整理してきました。
それぞれ異なるテーマですが、共通しているのは、限られた経営資源をどう活用し、リスクに備えながら事業を継続していくかという問題です。
AIを活用すれば、業務の効率化や情報収集、資料作成などを進められます。しかし、AIを導入するだけで、会社の経営課題がすべて解決するわけではありません。
人材を確保し、育成すること。セキュリティや情報管理のルールを整えること。利益と資金を確保すること。将来の経営を担う人材や株式の承継について準備すること。
こうした取り組みを並行して進める必要があります。
今月、経営者が確認したい5つのこと
最後に、今回のテーマを踏まえ、経営者が確認したいことを5つに整理します。
① AIやITの利用ルールが整っているか
どの業務で何を利用し、どの情報を取り扱い、誰が結果を確認するのかを明確にします。
② セキュリティ対策の担当者と対応手順が決まっているか
システムの更新、バックアップ、障害時の対応など、最低限の管理体制を確認します。
③ 賃上げを継続できる利益構造になっているか
人件費だけでなく、価格、原価、生産性、業務の効率化を一体で見直します。
④ 今後の資金繰りと借入返済を把握できているか
売上予測だけでなく、税金や社会保険料、借入返済を含めた資金計画を作成します。
⑤ 事業承継の準備が進んでいるか
後継者、経営権、株式の承継について、必要な情報を整理し、早めに専門家へ相談します。
すべてを一度に進める必要はありません。自社にとって影響が大きい課題から順番に確認し、具体的な行動につなげることが大切です。
まとめ:AIで効率化し、人が判断し、経営の土台を整える
AIの進化によって、中小企業でも活用できる技術やサービスが増えています。
一方で、セキュリティへの備え、人材の確保、資金繰り、融資条件の確認、事業承継など、経営者が向き合うべき課題は残っています。
これからは、AIを使って業務を効率化するだけでなく、人が担うべき判断や管理を明確にし、会社全体の仕組みを整えることが重要になるでしょう。
賃上げを継続できる利益構造をつくる。資金が必要になる前に金融機関と相談する。制度の変更を確認し、事業承継を早めに準備する。そして、ITやAIを安全に活用するためのルールを整える。
こうした地道な取り組みが、変化の大きい時代に会社を持続させるための土台になります。
まずは、自社のAI・ITの利用状況と、今後数か月の資金繰りを確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
今週の公開動画
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