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はじめに|自社株の評価方法が変わる可能性を知っていますか?
中小企業の経営者にとって、自社の株式は単なる資産ではありません。会社の支配権そのものであり、後継者に事業を引き継ぐ際にも重要な役割を果たします。
その非上場株式の相続・贈与時の評価方法について、国税庁が見直しを検討しています。
東京商工リサーチが2026年10月16日に公表した調査では、見直し議論を「知っている」と回答した企業は36.6%。一方、議論を知っている企業のうち、評価額が上昇しそうだと回答した企業は56.2%でした。
この結果から分かるのは、制度変更への関心が高まる一方で、まだ十分に情報が行き渡っていないということです。
では、今回の見直しは何を目的とし、中小企業経営者は何に注意すべきなのでしょうか。
結論|今すぐ必要なのは、株価の予測より自社の現状把握
今回の見直しについて、まず押さえておきたいポイントは次の5つです。
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非上場株式の相続・贈与時の評価方法について、国税庁が見直しを検討している。
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評価方法の変更によって、自社株の評価額が変わる可能性がある。
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評価額が上がる場合、株式を相続・贈与する際の税負担や納税資金の準備に影響する可能性がある。
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中小企業庁は、事業承継や企業の成長投資への影響を十分に検証する必要があるとの意見を提出している。
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経営者は、最終的な制度内容を確認しながら、自社株評価、株主構成、後継者、資金繰りを整理しておくことが重要である。
現時点では、見直しの具体的な内容がすべて確定したわけではありません。したがって、評価額の上昇を前提に慌てて対策を実行するのではなく、まず自社への影響を把握することが大切です。
1. そもそも「取引相場のない株式」とは?
取引相場のない株式とは、一般的には証券取引所で取引されておらず、市場価格が明確でない株式を指します。中小企業のオーナーが保有する自社株式も、その代表例です。
上場株式であれば、市場で形成された株価を参考にできます。しかし、非上場企業には同じような市場価格がありません。
そこで、相続税や贈与税の計算では、会社の規模、株主の立場、資産、利益などを踏まえて株式を評価します。
現行制度では会社の規模などによって評価方法が異なる
現在の原則的評価方式は、大きく次のように整理できます。
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類似業種比準方式: 類似する上場企業の株価を参考に、配当・利益・純資産などを比較する。
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純資産価額方式: 会社の資産や負債などを評価し、純資産を基礎に算定する。
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併用方式: 類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせる。
原則として、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は併用方式を用います。実際には株主区分や特定の評価会社に関するルールなどもあります。
つまり、同じ会社の株式であっても、どの評価方式が適用されるかによって評価額が変わり得る仕組みです。
2. 国税庁は何を見直そうとしているのか?
今回の議論では、会社規模に応じて異なる現行の評価体系を見直し、収益力を反映する「残余利益方式」を導入する案が検討されています。
残余利益方式は、簡単にいうと、会社の簿価純資産を基礎とし、資本コストを上回る利益を加味して企業価値を評価する考え方です。
この方式では、会社がどれだけ資産を持っているかだけでなく、その資本を使ってどれだけ利益を生み出しているかも評価に関係します。
ただし、収益力を反映するからといって、すべての会社の評価額が上昇するとは限りません。
実際の影響は、純資産の額、利益の水準、計算に用いる資本還元率などの条件によって異なります。現段階では、最終的な算定方法や個別企業の評価額への影響を断定することはできません。
3. なぜ見直しが議論されているのか?
背景の一つは、現行制度における評価方法の公平性です。
会社規模によって評価方式が異なるため、企業の実態や収益力との関係で、評価額に差が生じる可能性があります。評価方法をどのように設計すれば、税負担の公平性と実態に即した評価を両立できるかが論点となっています。
一方、企業側にとっては、評価方法の変更が事業承継や成長投資に与える影響も重要です。
たとえば、利益を生み出している会社であっても、その利益がすべて自由に使える現金として残っているとは限りません。設備投資、借入金の返済、運転資金、人材採用などに資金が必要な場合があります。
そのため、評価額が上昇する可能性を考える際には、企業価値だけでなく、納税に必要な資金をどのように確保するかという視点も欠かせません。
4. 東京商工リサーチの調査から見える現状
2026年10月1日から8日にかけて実施された東京商工リサーチの調査では、5,257社から有効回答を得ています。
認知度は36.6%にとどまる
全体の36.6%が見直し議論を知っていると回答した一方、63.3%は知らないと回答しました。
企業規模別では、大企業の認知度が46.0%だったのに対し、中小企業は35.8%でした。
事業承継を考える必要がある企業にとって、この情報格差は無視できません。自社株の評価方法は、経営者が交代する際の株式移転や税負担に関係するためです。
認知企業の56.2%が評価額の上昇を予想
見直しを知っている企業のうち、影響について回答した1,604社では、56.2%が「上昇しそうだ」、39.9%が「影響はなさそうだ」、3.8%が「下落しそうだ」と回答しました。
中小企業では上昇予想が57.1%となり、大企業の47.0%を上回っています。
ただし、これらは企業の予想であり、実際の評価額の変化を測定した結果ではありません。制度が確定した後には、自社の財務情報を用いて個別に影響を確認する必要があります。
業種によっても認知度に差がある
調査では、学習塾や英会話教室などを含む「その他の教育・学習支援業」で、認知していない企業が83.3%でした。
また、自動車整備業や福祉・介護事業者などについても、認知度が低い傾向があると東京商工リサーチは指摘しています。
これらの業種では、人手不足への対応や設備投資、サービス提供体制の強化などが経営課題となる場合があります。自社株評価の見直しを検討する際にも、税負担だけでなく、事業継続に必要な投資資金をどう確保するかという観点が重要です。
5. 中小企業庁は何を懸念しているのか?
中小企業庁は2026年9月16日、有識者会議に意見を提出しました。
東京商工リサーチの報道によれば、業種や経営状況に応じた個別のケース、企業類型、マクロ全体での分析・試算を示し、丁寧に検証・議論すべきだという趣旨です。
この問題を考えるうえで重要なのは、株式評価の公平性と、中小企業の事業承継・成長投資への影響を両方検討することです。
仮に株式評価額が上昇すれば、相続税や贈与税の負担が増えるケースが考えられます。その場合、後継者が納税資金を確保するために、株式の移転方法や資金調達方法を検討しなければならない可能性があります。
一方で、評価額の変化だけを理由に、すべての企業で経営に悪影響が生じると結論づけることもできません。企業の資産構成、収益力、株主構成、事業承継の時期などによって影響は異なるためです。
6. 中小企業経営者が注意すべき5つのポイント
① 自社株の評価額を把握する
まず、現在の自社株がどのような方法で評価されているかを確認します。
税理士などに相談し、直近の決算書や株主構成を踏まえて、現行制度での評価額を把握しておくことが出発点です。
② 後継者と事業承継の時期を整理する
後継者が決まっているか、何年後に経営を引き継ぐ予定なのかによって、検討すべき内容は変わります。
事業承継の時期が近い企業では、株式移転の方法、納税資金、経営権の確保などを早めに整理しておくことが重要です。
③ 納税資金と運転資金を分けて考える
株式評価額が上昇した場合、税負担が増える可能性があります。しかし、会社の利益や純資産がそのまま現金として存在するとは限りません。
後継者個人の納税資金と、会社が事業を続けるための運転資金・投資資金を分けて考え、資金繰りへの影響を確認しましょう。
④ 成長投資を短絡的に抑制しない
設備投資、人材採用、研究開発などは、将来の利益や企業価値に影響する可能性があります。
株式評価への影響を懸念して、必要な投資を一律に抑えるのではなく、投資の採算性、資金繰り、事業承継計画を合わせて検討することが大切です。
⑤ 制度が確定する前に、税務上の対策を急いで実行しない
制度の見直し案が公表されていても、最終的な内容や適用時期が確定しているとは限りません。
未確定の情報だけを根拠に、株式の移転や資産構成の変更などを急ぐのは避けるべきです。制度の最新情報を確認し、税理士などの専門家と個別の状況を踏まえて判断しましょう。
7. 経営者が今から取り組むべきこと
具体的には、次の順番で進めると整理しやすくなります。
STEP 1|現状を把握する
直近の決算書、株主名簿、株式数、現在の自社株評価を整理する。
STEP 2|承継計画を確認する
後継者、株式の移転時期、経営権の引継ぎ方を明確にする。
STEP 3|影響を試算する
現行制度での評価額と、公開される見直し案の条件を使った試算を区別する。
STEP 4|資金計画を立てる
納税資金、借入金返済、運転資金、成長投資の優先順位を整理する。
STEP 5|最新情報を継続確認する
国税庁の有識者会議資料や、制度の最終決定・適用時期に関する公表情報を確認する。
8. 今後の見通し|注目すべきなのは評価方式と適用時期
今後注目したいのは、評価方法の具体的な計算ルール、評価額の試算結果、制度の適用時期、事業承継への影響を踏まえた議論の行方です。
特に、資本還元率などの計算条件がどのように設定されるかによって、企業ごとの評価結果は変わる可能性があります。
制度の変更内容が明確になった段階で、自社の財務データを用いて試算し、必要な対応を検討することが重要です。
まとめ|自社株対策は事業承継と経営戦略を一体で考える
今回の非上場株式の評価見直しは、税務だけの問題ではありません。
自社株の評価、後継者への株式移転、納税資金の確保、成長投資の継続など、経営のさまざまな要素と関係しています。
東京商工リサーチの調査では、見直し議論の認知度は36.6%にとどまり、認知企業の56.2%が評価額の上昇を予想しました。しかし、実際の影響は企業ごとに異なり、見直しの最終的な内容も確認する必要があります。
経営者が今取り組むべきなのは、将来の株価を憶測することではなく、自社株の評価と株主構成、事業承継の計画、資金繰りを把握しておくことです。
制度変更をきっかけに、事業承継と将来の経営戦略を見直してみてはいかがでしょうか。
出典・参考資料
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国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」関連資料 有識者会議の資料一覧
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国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」 現行制度の概要
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中小企業庁「取引相場のない株式の評価」見直しに係る意見(2026年9月16日) 意見書PDF
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