好調業種でも中小企業が苦戦する理由|情報サービス業と医薬品卸に見る「利益を生む会社」の条件

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「この業界は成長している」「この分野は今後も需要が伸びる」。

経営者であれば、業界全体の動向や将来性が気になるものです。成長市場に身を置くことは、事業を拡大するうえで有利に働く可能性があります。

しかし、ここで注意したいことがあります。

業界全体が好調でも、すべての企業が好調とは限りません。逆に、業界全体が厳しい状況でも、成長を続ける企業は存在します。

2026年10月27日、東京商工リサーチは、情報サービス業の2025年度業績が過去5年間で最高となり、当期利益が2021年度比で81.8%増加したと発表しました。一方、従業員300人以上の企業が利益全体の86.3%を占めています。

翌28日に公表された医薬品・医療用品卸売業の調査でも、売上高は16兆8,488億円に達した一方、利益の伸びは前年度比0.5%にとどまりました。売上高1,000億円以上の大手29社が、利益全体の89.3%を占めています。

2つの調査が示しているのは、業界全体の成長だけでは説明できない、企業間の収益格差です。

本記事では、両業界のデータを比較しながら、業界の追い風を自社の利益につなげるために、中小企業経営者が考えるべきことを解説します。

この記事の結論

重要なポイントは、次の5つです。

  • 成長市場でも、需要を獲得できる企業とできない企業がある。
  • 売上高の増加が、そのまま利益の増加につながるわけではない。
  • 大手企業への利益集中が進む市場では、規模以外の競争力が重要になる。
  • 業界全体が厳しくても、専門性や顧客への提供価値によって成長できる企業はある。
  • 経営者は業界の成長率だけでなく、自社の利益率、顧客構成、価格決定力、資金繰りを確認する必要がある。

1. 情報サービス業は好調だが、利益の86.3%は大手企業に集中

情報サービス業は、DX需要や生成AIの普及を背景に業績を伸ばしています。

東京商工リサーチが、5期連続で業績を比較できた4,417社を分析したところ、2025年度の売上高は32兆6,569億円、当期利益は3兆2,755億円でした。

指標2025年度実績前年度比
売上高32兆6,569億円7.7%増
当期利益3兆2,755億円28.9%増

2021年度と比較すると、売上高は32.4%増、当期利益は81.8%増となっています。

利益の伸びが売上高の伸びを大きく上回っている点が特徴です。

なぜ情報サービス業は伸びているのか

背景には、企業のDX投資や生成AIの普及があります。

ソフトウェア開発、テスト、ドキュメント作成などの業務でAI活用が進み、AIエージェントによる複数作業の連続処理も期待されています。

企業にとってAIは、業務の効率化だけでなく、新たなサービスを開発するための基盤にもなりつつあります。

ただし、こうした需要拡大の恩恵を、すべての企業が均等に受けているわけではありません。

大手企業と小規模企業の利益格差

東京商工リサーチの調査では、従業員300人以上の企業が、情報サービス業全体の当期利益の86.3%を占めています。

一方、従業員49人以下の企業は、企業数では調査対象4,417社のうち2,448社と過半数を占めるものの、当期利益に占める割合は1.0%でした。

さらに、2025年度の赤字企業率は、従業員300人以上が4.2%だったのに対し、49人以下は21.7%でした。

小規模企業の赤字企業率は、大手企業の5倍以上です。

この数字は、情報サービス業全体が成長していても、個々の企業の経営が安泰とは限らないことを示しています。

出典:東京商工リサーチ「『情報サービス業』が好調 利益は5年間で1.8倍」(2026年10月27日)

2. なぜ成長市場でも小規模企業が苦戦するのか

情報サービス業の調査では、企業規模による技術力、投資力、人材確保力、受注案件の違いが指摘されています。

大手企業は待遇改善によって高度なIT人材を確保し、大型案件や専門性の高い案件を受注しています。

一方、小規模企業はAI関連への投資や人材採用、賃上げへの対応が難しく、下請け案件への依存によって十分な利益を確保できないケースがあります。

ここで重要なのは、AIの普及によって業界全体の需要が伸びることと、個々の企業が競争力を維持できることは別だという点です。

例えば、顧客がAIを活用して簡単な制作業務を内製化できるようになれば、従来は外注されていた仕事の一部が減少する可能性があります。

一方、顧客の業務を深く理解し、AI導入やシステム設計、セキュリティ対応まで支援できる企業には、新しい需要が生まれる可能性があります。

つまり、同じ情報サービス業でも、提供する価値によって事業環境が異なるのです。

3. 医薬品卸は売上高が増えても、利益の伸びは0.5%

次に、医薬品・医療用品卸売業を見てみましょう。

東京商工リサーチが、5期連続で業績を確認できた484社を分析したところ、2025年度の売上高合計は16兆8,488億円となりました。

一方、利益合計は約5,148億円で、前年度比0.5%増にとどまっています。

指標2025年度実績前年度比
売上高16兆8,488億円4.5%増
利益約5,148億円0.5%増
黒字企業数411社前年度416社

売上高は増加していますが、利益の伸びは限定的です。

この違いは、経営者にとって重要な示唆を与えます。

売上高が伸びているからといって、経営状態が必ずしも改善しているとは限りません。

大手29社が利益の89.3%を占める

医薬品卸売業では、売上高1,000億円以上の大手企業が29社あり、調査対象484社の5.9%を占めています。

しかし、この29社で売上高の83.5%、利益の89.3%を占めています。

また、売上高1,000億円以上の企業では赤字企業がありませんでした。

一方、調査対象全体の黒字企業比率は84.9%で、前年度の85.9%から低下しています。

業界全体では売上高が増えているものの、企業によって収益力に違いが生まれていることが分かります。

売上高が増えても利益が伸びない背景

医薬品卸売業では、次のような要因が利益を圧迫しています。

  • 薬価引き下げ
  • 人件費の上昇
  • 地代・家賃などのコスト上昇
  • 品質管理や安定供給を維持するための体制整備
  • 大手企業による合併・統合と効率化

売上高を伸ばすだけでは、これらの負担を吸収できない場合があります。

経営者が確認すべきなのは、売上高の増減だけではなく、売上総利益や営業利益がどのように変化しているかです。

なお、今回の調査における「利益」は営業利益と同じ指標ではありません。企業の本業の収益性を分析する場合には、営業利益などの指標も併せて確認する必要があります。

出典:東京商工リサーチ「『医薬品・医療用品卸』17兆円産業に迫る」(2026年10月28日)

4. 2つの業界に共通するのは、売上高よりも利益を生む構造が重要だということ

情報サービス業と医薬品卸売業は、事業内容が大きく異なります。

しかし、両業界のデータからは、共通する経営課題が見えてきます。

それは、市場が拡大していても、利益を生み出せる企業と、そうでない企業に分かれることです。

情報サービス業では、AI・DX需要を背景に売上高と利益が伸びています。

一方、医薬品卸売業では、売上高が増加する一方で利益の伸びが鈍化しています。

どちらの業界でも、大手企業への利益集中が顕著です。

このことから、経営者は市場の成長率だけでなく、利益がどのような構造で生まれているかを理解する必要があります。

例えば、次のような問いが重要になります。

  • 売上高が増えると、利益も増える事業構造になっているか。
  • 人件費や仕入れ価格が上昇したとき、販売価格に反映できるか。
  • 大手企業にはない、自社独自の強みがあるか。
  • 価格以外の理由で顧客から選ばれているか。
  • 受注量が増えても、利益率が下がらない仕組みになっているか。

これらを確認することで、単なる売上拡大ではなく、利益を伴う成長を目指せます。

5. 業界全体が好調でも、自社が成長できるとは限らない

ここで、もう一つ重要な視点があります。

今回の2つの調査は、業界全体の業績や企業規模別の傾向を示していますが、個々の企業の業績をすべて説明するものではありません。

大手企業が市場の大きな割合を占めていても、中小企業が成長できないと決まったわけではありません。

反対に、大手企業であっても、競争力を失えば業績が悪化する可能性があります。

重要なのは、業界全体の数字をそのまま自社に当てはめないことです。

成長市場にいても苦戦する企業の特徴

次のような状態になっていないか、確認してみましょう。

  • 需要が増えているのに、新規顧客を獲得できていない。
  • 売上高は増えているが、利益率が低下している。
  • 受注量が増えるほど、人件費や外注費が増えて利益が残らない。
  • 競合他社との違いが分かりにくく、価格で比較されている。
  • 特定の取引先や販売経路に依存している。

これらに当てはまる場合、業界の将来性だけでは経営課題を解決できません。

自社の顧客構成、商品・サービスの収益性、価格決定力、営業方法などを見直す必要があります。

6. 業界全体が厳しくても、成長できる企業はある

反対に、業界全体の需要が伸び悩んでいても、成長できる企業はあります。

例えば、次のような特徴を持つ企業です。

① 特定分野への専門特化

幅広い顧客に一般的なサービスを提供するのではなく、特定の顧客層や課題に特化することで、専門性を高められます。

② 顧客にとって代替しにくい価値を提供する

価格だけでは比較できない知識、技術、対応力、信頼関係などを築くことで、価格競争から距離を取れる可能性があります。

③ 顧客の成果に踏み込む

商品やサービスを提供して終わるのではなく、顧客の売上拡大、コスト削減、業務改善などにつながる支援を提供する方法です。

④ 利益が残る事業構造をつくる

低利益の仕事を大量に受注するのではなく、適切な価格設定、業務効率化、継続的なサービス提供などによって利益を確保します。

⑤ 変化に合わせて事業を見直す

既存の商品やサービスに固執せず、顧客ニーズや技術の変化に合わせて提供価値を改善します。

ただし、これらは成長を保証する条件ではありません。実際の効果は、顧客ニーズ、競争環境、実行力、財務状況などによって異なります。

7. 中小企業経営者が今すぐ確認したい5つの数字

業界の動向を自社の経営に生かすには、具体的な数字を確認することが重要です。

① 売上高の伸び率

前年同期比で売上高がどの程度増減しているかを確認します。

ただし、売上高の増加が値上げによるものなのか、販売数量の増加によるものなのかも区別しましょう。

② 売上総利益と粗利益率

売上高から売上原価を差し引いた利益を確認します。

売上高が伸びていても、仕入れや外注費の上昇によって粗利益率が低下していれば、経営の余裕が小さくなる可能性があります。

③ 営業利益と営業利益率

本業によってどれだけ利益を生み出せているかを確認します。

売上高だけでなく、営業利益がどのように推移しているかを毎月把握しましょう。

④ 顧客別・商品別の採算

会社全体では黒字でも、顧客や商品によって利益率は異なります。

どの顧客・商品が利益を生み、どの取引が経営資源を消費しているかを把握することが重要です。

⑤ 営業キャッシュフローと資金繰り

会計上の利益と、実際に使える現金は同じではありません。

売上高が増えても、売掛金や在庫が増加すれば、資金繰りが厳しくなる場合があります。

利益だけでなく、現金の動きも確認しましょう。

8. 業界の動向を自社の成長につなげる3つのステップ

STEP1|自社が属する市場の変化を把握する

顧客の需要、競合他社の動向、価格、技術、人材などについて、何が変わっているのかを整理します。

業界全体の売上高だけでなく、利益の動きや企業規模別の格差も確認しましょう。

STEP2|自社の強みと収益構造を分析する

自社の強みが、顧客にとってどのような価値になっているかを考えます。

その価値に対して適切な価格を設定できているか、受注が増えるほど利益が増える構造になっているかも確認します。

STEP3|利益を改善する具体策を決める

分析した結果を踏まえ、優先順位を付けて実行します。

例えば、次のような施策が考えられます。

  • 利益率の低い商品・サービスの価格や提供条件を見直す。
  • 特定の顧客層に向けた専門サービスを開発する。
  • AIやデジタル技術を活用して業務効率を改善する。
  • 既存顧客への追加提案や継続契約を増やす。
  • 顧客別の採算を確認し、営業資源の配分を見直す。

すべてを一度に実行する必要はありません。まずは利益への影響が大きく、実行可能性の高い施策から着手しましょう。

9. まとめ|業界の追い風を、自社の利益につなげられるか

今回の情報サービス業と医薬品・医療用品卸売業の調査からは、次のことが分かります。

情報サービス業では、DX・AI需要を背景に当期利益が5年間で81.8%増加しました。しかし、利益の86.3%は従業員300人以上の企業に集中しています。

医薬品・医療用品卸売業では、売上高が16兆8,488億円に達した一方、利益の伸びは前年度比0.5%にとどまりました。売上高1,000億円以上の大手29社が利益の89.3%を占めています。

これらの数字が示しているのは、業界全体の動向だけでは、個々の企業の成長や収益性を判断できないということです。

業界が好調でも、競争力や収益構造によって業績は分かれます。

反対に、業界全体が厳しくても、専門性や顧客への提供価値を高めることで成長できる企業はあります。

経営者に求められるのは、単に成長市場を探すことではありません。

市場の変化を理解し、自社が選ばれる理由をつくり、売上高だけでなく利益が残る事業構造を築くことです。

最後に、自社の経営について、次の3つを考えてみてください。

  1. 自社の業界は成長しているか。それとも縮小しているか。
  2. 自社は、業界の平均以上に利益を生み出せているか。
  3. その理由を、顧客・商品・価格・競争力の観点から説明できるか。

この3つに答えられることが、次の経営戦略を考える出発点になります。

出典

  • 東京商工リサーチ「『情報サービス業』が好調 利益は5年間で1.8倍 DX・AI需要で業績が過去最高、大手寡占が進む」(2026年10月27日)
  • 東京商工リサーチ「『医薬品・医療用品卸』17兆円産業に迫る 売上1千億円以上29社でシェア8割超、二極化が加速」(2026年10月28日)
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