売上はある。仕事もある。それなのに、手元にお金が残らない。
中小企業の経営では、こうした問題が深刻な経営危機につながることがあります。
物価や人件費の上昇、借入金の返済、税金の支払い。さまざまな負担が重なるなかで、売上を確保するだけでは会社を守れない時代になっています。
一方で、売上規模が大きくても、利益の確保に課題を抱える企業はあります。市場や業界が変化するなかで、これまでの経営方法を続けるだけでは、十分な利益を確保できなくなる可能性もあります。
今回は、10月12日〜18日の公開動画4本をもとに、資金繰り、利益改善、事業の見直し、補助金活用という4つのテーマから、中小企業が今取り組みたい経営課題を考えます。
Contents
1. 税金を払えない会社で何が起きているのか
税金や社会保険料の滞納は、単に納税資金が不足しているという問題だけではありません。企業が利益を確保し、資金を循環させる仕組みに問題が生じている可能性があります。
東京商工リサーチの2026年10月8日公表資料によると、2026年度上半期(4〜9月)の税金滞納倒産は168件となり、前年同期の84件から倍増しました。
物価や人件費などのコスト上昇が企業収益を圧迫し、納税資金を確保できない企業の経営を厳しくしていると分析されています。
この状況から考えたいのは、資金繰りの問題を、支払いの直前になってから対処するのでは遅い場合があるということです。
利益が出ていても、資金が足りなくなることがある
会社の経営状態を把握するとき、売上高や営業利益は重要な指標です。しかし、それだけでは手元の資金が十分かどうかは分かりません。
たとえば、売上を計上していても、取引先からの入金が数か月先であれば、その間の人件費や仕入代金を支払う資金が必要です。設備投資や借入金の返済が重なれば、資金繰りはさらに厳しくなります。
また、利益が出ていても、売掛金や在庫が増えていると、現金が十分に残らないことがあります。
経営者が確認したいのは、次の3点です。
- 利益が実際の現金収入につながっているか
- 税金、社会保険料、借入返済などの支払い予定を把握できているか
- 今後数か月の資金不足を事前に予測できているか
特に重要なのが、資金繰り表の作成です。
今月の残高だけでなく、今後の入金予定と支出予定を時系列で整理することで、資金が不足しそうな時期を早めに把握できます。
資金不足が予想される場合は、取引条件の見直し、支出の優先順位づけ、金融機関への早期相談などを検討する必要があります。税金や社会保険料の支払いが難しい場合も、放置せず、早めに税務署や年金事務所などの窓口に相談することが重要です。
2. 売上が大きくても、利益改善が必要な理由
企業の決算を見るとき、売上高の大きさに注目することがあります。しかし、売上が大きいことと、経営が健全であることは同じではありません。
今回の動画では、イオンの決算を題材に、上期売上高5.9兆円という規模だけでは見えにくい経営上の論点を取り上げました。
大切なのは、売上高だけでなく、利益がどのように生み出されているかを見ることです。
経営者が確認したい利益改善の5つの視点
① 商品・サービスごとの粗利益
売上が増えていても、原価や仕入価格の上昇によって粗利益が減っていれば、会社に残る利益は少なくなります。商品別、サービス別、顧客別に採算を確認することが重要です。
② 人件費と生産性のバランス
人件費を単純に削減するのではなく、投入した人員や時間に対して、どれだけの付加価値を生み出せているかを確認します。業務の標準化や役割分担の見直しによって、同じ人数でも成果を高められる可能性があります。
③ 販売価格と提供価値
原材料費や人件費が上がっているにもかかわらず、価格を据え置いていれば、利益率が低下することがあります。顧客が評価する価値を明確にし、適切な価格設定を検討することが必要です。
④ 固定費と事業構造
売上が減少した場合でも、家賃、人件費、システム費用などの固定費はすぐには減らないことがあります。売上の変化に対して、どの程度の固定費を抱えているかを把握しておきましょう。
⑤ 投資の効果
設備やシステムを導入しても、期待した売上増加やコスト削減が実現しなければ、利益改善にはつながりません。投資前に目標を設定し、導入後に効果を検証する仕組みが必要です。
これらの視点は、大企業だけでなく中小企業にも当てはまります。
ただし、大企業の決算を中小企業にそのまま当てはめることはできません。重要なのは、企業規模を比較することではなく、自社の利益構造を分析するための考え方を学ぶことです。
3. 市場が変化するなかで、事業を見直す
今回の動画では、7業種で倒産・廃業が相次ぐ背景についても取り上げました。
業界ごとに事情は異なりますが、経営者が考えるべきなのは、業界全体の動向だけで自社の将来を判断しないことです。
市場が縮小していても、特定の顧客層に選ばれる企業はあります。反対に、市場が伸びていても、競争が激化したり、コストが上昇したりすることで、利益を確保できない企業もあります。
自社の事業を見直す5つの問い
① 顧客は何を理由に自社を選んでいるのか
価格、品質、納期、対応力、専門性など、顧客に選ばれている理由を明確にします。
② どの商品・サービスが利益を生んでいるのか
売上が大きい商品と、利益に貢献している商品が同じとは限りません。売上と採算を分けて確認することが重要です。
③ 顧客や取引先が特定の相手に偏っていないか
特定の顧客への依存度が高い場合、その取引が縮小したときの影響は大きくなります。顧客構成や販路の分散も検討したいポイントです。
④ これまでの成功方法が今も通用しているか
顧客のニーズ、競争環境、技術、コストが変化しているなら、過去の成功パターンを見直す必要があります。
⑤ 新しい取り組みを小さく試せているか
大規模な投資をする前に、新商品や新サービス、新しい販売方法を小規模に試し、顧客の反応や採算を確認する方法もあります。
経営環境が厳しいときほど、目の前の売上を確保することが優先されがちです。しかし、短期的な売上だけを追い続けると、事業構造の問題を先送りしてしまうことがあります。
足元の資金繰りを管理しながら、将来の収益源を育てる。その両方を考えることが大切です。
4. 補助金は、経営課題から選ぶ
設備投資や新規事業を検討する際、補助金は有効な選択肢になることがあります。
ただし、補助金は制度ごとに目的や対象となる経費、申請要件が異なります。補助上限額が大きいからといって、自社にとって最適な制度とは限りません。
今回の動画では、2026年版の中小企業向け補助金を、経営課題から選ぶという視点で整理しました。
補助金を検討する前に整理したいこと
人手不足や生産性の問題を解決したい場合
業務の自動化、省力化設備、ITシステムなどが選択肢になります。ただし、導入によってどの業務がどれだけ改善するのかを具体化することが必要です。
新しい顧客を獲得したい場合
販路開拓、広告宣伝、新商品・サービスの開発などを検討します。補助対象になるかだけでなく、投資が実際の受注や売上につながる計画になっているかが重要です。
新しい事業に挑戦したい場合
既存事業との違い、想定顧客、市場の需要、必要な人材、投資回収の見通しを整理します。補助金の採択だけを目標にするのではなく、事業として継続できるかを考える必要があります。
設備投資によって競争力を高めたい場合
導入する設備やシステムが、品質、生産能力、コスト、納期などの改善にどう結びつくかを明確にします。
補助金が採択されても、経営が成功するとは限らない
補助金を活用する場合でも、自己負担分や入金までの資金繰り、導入後の維持費用などを考慮しなければなりません。
また、補助金は後払いとなる制度も多いため、交付決定後から補助金が入金されるまでの資金を確保できるか、制度の条件を確認する必要があります。
補助金を使うこと自体を目的にするのではなく、経営課題を解決するために必要な投資を考え、その投資に適した制度を選ぶ。この順序を守ることが重要です。
公募時期、補助上限額、補助率、対象経費などは制度や公募回によって変わります。申請前には、必ず最新の公式公募要領を確認してください。
5. 経営者が今月確認したい5つのこと
ここまでの内容を踏まえ、経営者が今月確認したいことを5つに整理します。
1. 今後3〜6か月の資金繰りを把握できているか
入金予定、仕入代金、人件費、税金、社会保険料、借入返済を整理し、資金不足が生じる時期を予測します。
2. 売上だけでなく、粗利益と営業利益を確認しているか
利益が減っている場合は、価格、原価、人件費、固定費など、どこに原因があるのかを特定します。
3. 採算の悪い商品・サービスを把握しているか
売上の大きさだけで判断せず、利益への貢献度や将来性も含めて、改善すべき事業を検討します。
4. 自社の強みと市場の変化を照らし合わせているか
顧客のニーズや競争環境が変化しているなら、自社の商品・サービスや提供方法を見直します。
5. 投資の目的と成果を明確にしているか
補助金の有無にかかわらず、投資によって何を改善し、どのような成果を目指すのかを明確にします。
まとめ:売上を追うだけでなく、利益と資金が残る経営へ
税金滞納倒産、企業決算、業界ごとの倒産・廃業、補助金活用。今回の4本の動画は、異なるテーマを扱っていますが、共通するのは経営資源をどう管理し、将来に向けてどう使うかという問題です。
売上を増やすことは重要です。しかし、売上が増えても利益が残らなければ、賃上げも設備投資も難しくなります。利益が出ていても資金繰りを管理できていなければ、支払いに行き詰まる可能性があります。
そして、資金を守るだけでは、将来の成長につながらないこともあります。
大切なのは、資金繰りを管理し、利益構造を改善し、自社の強みを見直したうえで、必要な投資に取り組むことです。
経営環境が厳しいときこそ、数字を確認し、課題を特定し、優先順位をつけて行動する。こうした地道な取り組みが、会社の持続的な経営につながります。
まずは、今月の資金繰り表と、商品・サービスごとの利益を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
今週の公開動画
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