カスハラ対策は約3割が未着手?2026年10月義務化後に中小企業が確認すべきこと

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2026年10月1日、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。

法施行から約1か月が経過した今、経営者が確認したいのが、企業の対策状況です。

帝国データバンクが2026年9月に実施した調査によると、カスハラ対策に何らかの取り組みを実施・予定している企業は68.9%でした。一方、特に取り組んでいない企業は29.7%に達しています。

さらに、直近1年以内にカスハラや不当な要求などを受けた企業は15.3%。小売業では31.1%に上る一方、製造業でも取引先や元請け企業からの不当な要求に悩むケースが報告されています。

今回の調査から分かるのは、カスハラ対策が単なる接客上の問題ではなく、従業員の保護、人材の確保・定着、組織運営に関わる経営課題だということです。

この記事では、帝国データバンクの最新調査を整理するとともに、法改正のポイントと、中小企業の経営者が今すぐ確認すべき対策を解説します。

この記事の結論

経営者が押さえるべきポイントは、次の5つです。

  • 2026年10月1日から、カスハラ防止のための措置が事業主の義務となった。
  • 帝国データバンクの施行前調査では、約3割の企業が特段の対策に取り組んでいなかった。
  • 被害があった企業は15.3%。小売業では31.1%に達する一方、BtoB企業でも取引先などからの問題がある。
  • 方針の策定だけでは不十分。相談体制、事実確認、悪質な事案への対処、再発防止まで整備することが重要。
  • 中小企業は、複雑な制度をつくるより、相談先・判断基準・対応手順を明確にすることから始めたい。

1.2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務に

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上必要な措置が事業主の義務となりました。

この義務は、特定の接客業だけを対象としたものではありません。

小売業や飲食業はもちろん、製造業、建設業、卸売業、医療・介護・福祉など、顧客や取引先、施設利用者などと関わる幅広い事業者が、自社の業務に応じた対策を講じる必要があります。

厚生労働省は、事業主が講じるべき措置について、方針の明確化、相談体制の整備、事後の適切な対応、悪質な事案への抑止措置、相談者のプライバシー保護などを示しています。

つまり、従業員に「困ったら自分で対応してください」と伝えるだけではなく、会社として対応できる仕組みを整えることが重要です。

2.帝国データバンクの最新調査で分かったカスハラの実態

帝国データバンクは、2026年9月14日から30日にかけて、全国22,095社を対象に調査を実施しました。有効回答企業は10,235社で、有効回答率は46.3%です。

調査結果から、企業の被害状況と対策状況を確認します。

直近1年間に被害を受けた企業は15.3%

直近1年以内に、自社または従業員がカスハラや不当な要求などを受けたことがある企業は15.3%でした。

回答割合
被害あり15.3%
被害なし67.2%
分からない17.5%

前回の2024年6月調査では、被害ありの企業は15.7%でした。今回の調査では0.4ポイント低下しているものの、大きな変化は見られません。

被害なしの割合は67.2%と前回より1.8ポイント上昇しています。

カスハラに対する社会的な認知やコンプライアンス意識の浸透が、問題行為の抑制につながっている可能性はあります。ただし、調査結果だけで、その効果が証明されたわけではありません。

また、17.5%の企業は被害の有無を「分からない」と回答しています。

現場で発生した言動について、正当なクレームなのか、カスハラなのかを判断できない企業も存在します。

経営者は、被害件数だけでなく、従業員が問題を認識し、相談・報告できる仕組みがあるかを確認する必要があります。

小売業の被害率は31.1%。業界によって差がある

業界別に見ると、小売業の被害率が31.1%と最も高くなっています。

業界被害ありの割合
小売31.1%
金融26.8%
不動産21.4%
サービス20.3%
卸売12.6%
製造7.6%

小売業では、約3社に1社が直近1年間に被害を経験した計算になります。

返品や価格に関する苦情、サービス内容への不満など、一般消費者と接する機会が多いことが背景にあると考えられます。

金融業や不動産業、サービス業でも被害率は2割を超えています。

一方、製造業や卸売業では全体を下回っていますが、被害が少ないことを理由に対策が不要になるわけではありません。

BtoB企業では、顧客ではなく元請け企業や取引先との関係が問題になる場合があります。

例えば、取引上の立場が弱いために不当な要求を断れない、担当者が威圧的な言動を受けても報告しにくいといったケースです。

通常の価格交渉や業務上の指摘と、不当な要求や許容範囲を超えた言動を区別し、取引関係も踏まえて組織として判断できる体制が必要です。

大企業と中小企業では対策状況にも差がある

企業規模別では、大企業の被害率が23.9%、中小企業が13.8%、小規模企業が12.3%でした。

また、何らかの対策を実施・予定している企業の割合は、大企業が82.6%、中小企業が66.5%です。

大企業と中小企業の差は16.1ポイントに達しています。

ただし、大企業の被害率が高い背景には、顧客との接点の多さや、相談窓口を通じて事案を把握しやすいことなども考えられます。被害率の差だけから、実際の発生リスクを断定することはできません。

一方、中小企業では、人員や費用の制約などから、相談体制や対応手順の整備が進みにくい可能性があります。

「社長に直接相談できるから、専用の相談窓口は必要ない」と考える企業もあります。

しかし、相談できることと、相談後に事実確認や再発防止まで実行できることは別です。

小規模企業でも、誰に相談し、誰が判断し、どの段階で対応を切り替えるのかを明確にしておくことが重要です。

3.約3割の企業がカスハラ対策に未着手

今回の調査で特に注目したいのが、対策の取り組み状況です。

カスハラや不当な要求に対して、何らかの取り組みを実施・予定している企業は68.9%でした。

一方、特に取り組んでいない企業は29.7%に達しています。

この調査は2026年9月30日までに実施されており、10月1日の法施行前の状況を示しています。

そのため、29.7%という数字は、施行後の未対応企業の割合ではありません。また、個々の企業の法令遵守状況を直接判定した数字でもありません。

それでも、法施行直前の時点で、約3割が特段の対策に取り組んでいなかったという結果は、経営者が自社の対応を点検するうえで重要な材料になります。

対策を進めていない理由としては、次のようなものが考えられます。

  • 具体的に何をすればよいのか分からない。
  • これまで大きな被害がなく、必要性を感じていない。
  • 従業員数が少なく、専用の相談窓口を設ける余裕がない。
  • 大企業のような対応体制を整えるのは難しいと考えている。

しかし、複雑な制度や大規模な専門部署を設けることだけが対策ではありません。

自社の業務に応じて、必要な措置を整理し、実際に運用できる仕組みを整えることが大切です。

4.方針の策定は進んでも、再発防止は十分ではない

今回の調査では、具体的な対応策についても調べています。

対応策取り組み割合
従業員への企業方針・対応ルールの周知37.8%
カスハラを容認しない企業方針の策定28.6%
相談・通報窓口の設置27.2%
相談者の秘密保持・不利益防止18.0%
事実関係の確認体制・手順の整備18.0%
再発防止策の実施8.1%
顧客・取引先への方針の周知6.8%
カスハラ対応部署・担当者の設置6.5%

※複数回答。取り組みには実施予定も含まれます。

企業方針の策定や従業員への周知に比べ、事実確認や再発防止などの取り組みは低い割合にとどまっています。

特に、再発防止策の実施は8.1%でした。

さらに、直近1年以内に被害を受けた企業に限定しても、再発防止策を実施している割合は18.3%です。

実際に被害が発生していても、原因の分析や対応方法の見直しまで十分に進んでいない可能性があります。

ここで重要なのは、対策を「規程を作ること」で終わらせないことです。

例えば、次のような流れを整える必要があります。

  1. 従業員が被害や問題行為を報告する。
  2. 責任者が事実関係を確認する。
  3. 被害を受けた従業員への必要な配慮を行う。
  4. 顧客・取引先への対応方針を判断する。
  5. 対応経過を記録し、必要に応じて手順や教育を見直す。

問題が発生した担当者の責任だけにせず、組織として原因を検証し、再発防止につなげることが大切です。

5.カスハラ対策の義務化で、経営者が確認すべきこと

2026年10月1日から、事業主にはカスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が求められています。

経営者は、次の5項目を確認してください。

① カスハラを容認しない方針を定め、従業員に周知しているか

会社として従業員を保護する方針を明確にし、カスハラの内容や基本的な対処方法を周知する必要があります。

規程を作成しただけでなく、従業員が実際に内容を理解しているかも確認しましょう。

② 相談窓口と対応責任者が明確になっているか

相談窓口を定め、従業員に周知するとともに、相談担当者が適切に対応できる体制を整えることが重要です。

小規模企業では、社長や管理職が相談窓口を兼ねる方法も考えられます。

ただし、社長や管理職自身が当事者となる場合など、通常の相談先では対応しにくいケースについても検討しておく必要があります。

③ 正当なクレームとカスハラを判断する基準があるか

クレームをすべて拒否するのではなく、要求の内容と手段・態様を総合的に判断する必要があります。

自社で起こりやすい事例を整理し、通常対応、責任者への引き継ぎ、組織的な対応への切り替えなど、判断の目安を定めましょう。

④ 悪質な事案への対応方針が決まっているか

暴言や脅迫、執拗な要求などが続いた場合に、誰が対応を引き継ぎ、どの段階で対応を終了するかを明確にしておくことが重要です。

状況によっては、外部の専門家や警察などへの相談も検討します。

⑤ 事案の記録と再発防止ができるか

問題が発生した際の記録方法、事実確認の手順、被害を受けた従業員への配慮、再発防止の進め方を整理しましょう。

対応した事案を振り返り、同じ問題が繰り返されないようにすることが重要です。

以上の項目は、厚生労働省が示す指針に沿って、自社の対応状況を点検するためのものです。実際の整備に当たっては、業務の実態に応じて必要な措置を確認してください。

6.中小企業がカスハラ対策を進めるための実践手順

大規模な制度を一度に整備することが難しい企業でも、対応の優先順位を決めて進めることは可能です。

ステップ1:自社で起こり得る問題を洗い出す

まず、顧客や取引先と接する場面を整理します。

例えば、店舗での接客、電話対応、訪問営業、納品・施工、契約交渉、利用者や家族からの相談などです。

過去の苦情やトラブルを振り返り、どのような場面で従業員が対応に困るのかを確認しましょう。

ステップ2:相談先と対応責任者を決める

誰に相談すればよいか、誰が事実確認を行うか、誰が顧客・取引先への対応を判断するかを明確にします。

相談を受けた担当者が一人で判断を抱え込まない仕組みをつくることが重要です。

ステップ3:対応基準と手順を整備する

自社で想定されるケースについて、通常の苦情対応、上司への引き継ぎ、悪質な事案への組織的な対応などを整理します。

現場で迷わず行動できるよう、具体的な事例と対応手順を用意しましょう。

ステップ4:従業員に周知し、対応方法を共有する

規程を配布するだけでなく、短時間の研修やケーススタディなどを通じて、実際の対応方法を共有します。

従業員が「どこから相談すればよいのか」「どの段階で責任者に引き継ぐのか」を理解できる状態を目指します。

ステップ5:発生した事案を振り返り、改善する

相談や報告があった場合には、記録を残し、対応方法を検証します。

必要に応じて、対応基準、相談体制、顧客への案内、教育内容などを見直しましょう。

7.カスハラ対策は人材の確保・定着にも関わる

人手不足が深刻化するなか、従業員が安心して働ける環境を整えることは、経営上の重要な課題です。

顧客からの過度な要求や威圧的な言動を従業員個人に任せ続けると、対応負担が特定の人に集中する可能性があります。

また、対応に困っていても相談できない状態が続けば、従業員の不安や不満が大きくなるおそれがあります。

もちろん、カスハラ対策を整備すれば必ず離職率が改善するというわけではありません。

しかし、会社として従業員を守る方針を示し、困ったときに相談できる仕組みを整えることは、安心して働ける環境づくりの一つになります。

経営者に求められるのは、顧客を大切にすることと、従業員を守ることを対立させない姿勢です。

正当な苦情には誠実に対応しながら、不当な要求や許容範囲を超える言動には組織として対応する。その方針を、経営者自身が明確に示すことが重要です。

8.まとめ:法施行後の今こそ、自社の対応を点検する

帝国データバンクの2026年9月調査では、直近1年以内にカスハラや不当な要求などを受けた企業は15.3%でした。

また、何らかの対策を実施・予定している企業は68.9%だった一方、特に取り組んでいない企業は29.7%に達しました。

ただし、この調査は法施行前に実施されたものであり、施行後の企業の対応状況を示すものではありません。

2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務となった今、経営者が確認したいのは、自社に必要な措置が整備され、実際に運用できる状態になっているかどうかです。

特に、次の3点を確認してください。

  • カスハラを容認しない方針と、従業員への周知ができているか。
  • 相談窓口、事実確認、悪質な事案への対応手順が明確になっているか。
  • 発生した事案を記録し、従業員への配慮と再発防止につなげられるか。

カスハラ対策は、単に法律への対応を済ませるためのものではありません。従業員を守り、顧客対応の品質を維持し、安心して働ける職場をつくるための経営課題です。

法施行を一つのきっかけとして、自社の方針と現場の対応を見直してみてはいかがでしょうか。


出典・参考資料

※本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としています。個別の事案における法的判断は、具体的な事情に応じて専門家にご相談ください。

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