はじめに|業界が違っても、経営者が直面する問題には共通点がある
東京商工リサーチ(TSR)が2026年10月に公表した調査で、美容業、管工事業、医療機関の倒産動向と、中小交通インフラの業績が明らかになりました。
美容業の2026年度上半期の倒産は54件。管工事業は94件に増加し、医療機関は2026年1〜9月に59件と、同期間の過去最多を更新しました。
一方、中小交通インフラ718社の2025年度業績は、売上高・純利益ともに4年連続で増加しています。しかし、赤字企業は全体の24.6%を占めています。
この4業種のデータから分かるのは、業界全体の動向だけでは、個々の企業の経営状態を判断できないということです。
では、経営が厳しくなる企業には、どのような共通点があるのでしょうか。
本記事では、4業種の最新データを整理し、中小企業経営者が学ぶべき教訓と、今から取り組むべき対策を解説します。
この記事の結論
今回の4業種の調査から、特に重要なポイントは次の5つです。
- 売上があっても利益が残るとは限らない。 売上高だけでなく、粗利益、営業利益、キャッシュフローを確認する必要があります。
- コスト上昇を価格に反映できない企業は苦しくなる。 価格交渉力と、顧客に選ばれる付加価値が重要です。
- 人手不足は採用だけでは解決できない。 業務の標準化、生産性向上、管理職育成も必要です。
- 後継者問題は事業継続の問題である。 経営者個人に依存しない組織をつくる必要があります。
- 業界の将来性だけでなく、自社の競争力を点検する。 顧客に選ばれる理由と、利益を確保できる仕組みが重要です。
1.美容業|倒産54件、低価格競争と差別化が課題
美容業の2026年度上半期(2026年4〜9月)の倒産件数は54件でした。
前年同期の58件から6.8%減少しましたが、2年連続で50件台となり、2007年度以降の年度上半期では前年に次ぐ2番目の高水準です。
負債総額は20億5,100万円で、前年同期比2.4%増加しました。
美容室の倒産はなぜ高水準なのか
特に注目したいのは、販売不振による倒産が41件で、全体の75.9%を占めたことです。
美容室は比較的少ない資金で開業できる一方、競合店舗が多く、顧客獲得競争が激しい業界です。
低価格を打ち出す店舗があるなかで、十分な差別化ができなければ、価格競争に巻き込まれる可能性があります。
さらに、人手不足倒産は前年同期の2件から5件へ増加し、年度上半期として過去最多となりました。
顧客を獲得できても、サービスを提供する美容師を確保できなければ、売上を維持することは難しくなります。
中小企業が学ぶべきこと
美容業の事例から学べるのは、顧客を集める力だけでなく、利益を確保しながら顧客に選ばれ続ける力が必要だということです。
美容室であれば、技術力、接客、得意分野、店舗ブランドなどが差別化につながります。
これは美容業だけの話ではありません。
建設業なら専門技術や施工品質、コンサルティング業なら専門性や支援成果、飲食業なら独自の商品や体験価値など、顧客が自社を選ぶ理由を明確にする必要があります。
また、SNSのフォロワー数を増やすだけでは十分ではありません。認知を予約や購買につなげ、リピーターを増やし、利益を確保する仕組みが必要です。
経営者が確認すべきこと
- 顧客が自社を選ぶ理由を明確に説明できるか。
- 値引きに依存せず、適正な価格を設定できているか。
- 顧客1人当たりの粗利益を把握しているか。
- リピート率や顧客の離脱理由を分析しているか。
- 特定の従業員に依存しないサービス提供体制があるか。
出典:東京商工リサーチ「年度上半期の『美容室』倒産54件の高水準」(2026年10月25日)
2.中小交通インフラ|増収増益でも、4社に1社が赤字
東京商工リサーチが調査した中小交通インフラ718社の2025年度業績は、売上高・純利益ともに4年連続で増加しました。
主な数値は次のとおりです。
| 指標 | 2025年度 |
|---|---|
| 調査対象 | 718社 |
| 売上高合計 | 8,974億4,200万円 |
| 売上高の前年比 | 7.0%増 |
| 純利益合計 | 506億8,000万円 |
| 純利益の前年比 | 8.1%増 |
| 赤字企業 | 177社 |
| 赤字企業の割合 | 24.6% |
| 3期連続赤字企業 | 74社 |
| 3期連続赤字企業の割合 | 10.3% |
業界全体の業績が改善しても、個々の企業は安泰ではない
売上高と純利益の合計は増加しています。しかし、調査対象企業のうち177社は赤字でした。
つまり、業界全体の数字が改善していても、すべての企業が利益を確保できているわけではありません。
背景には、人口減少、運転士不足、設備の更新・メンテナンス費用などがあります。
交通事業では、利用者が減少しても、車両や設備の維持、人員確保などに一定の費用が必要です。災害による運行停止が長期化すれば、売上が減少するだけでなく、事業の継続にも影響します。
なお、今回の調査は、5期連続で業績が判明した718社を対象としたものです。交通業界全体のすべての事業者を網羅した調査ではありません。
中小企業が学ぶべきこと
交通インフラの調査から学べるのは、売上高の増減だけで経営状態を判断してはいけないということです。
売上が増えても、原価や固定費がそれ以上に増えれば、利益は減少します。
また、売上が安定していても、大規模な設備更新や人員確保が必要になれば、資金繰りが厳しくなることがあります。
経営者が確認すべきこと
- 売上高だけでなく、粗利益率や営業利益率を確認しているか。
- 売上が減少した場合、固定費をどこまで負担できるか。
- 設備更新や突発的な支出に備えた資金を確保しているか。
- 人手不足が続いても事業を維持できるか。
- 他社との連携や業務分担によって、費用を抑えられる領域はないか。
出典:東京商工リサーチ「『中小交通インフラ』4年連続で増収増益を維持」(2026年10月22日)
3.管工事業|倒産94件、物価高・人手不足・後継者難が重なる
管工事業の2026年度上半期(2026年4〜9月)の倒産件数は94件でした。
前年同期の85件から10.5%増加し、6年連続で前年度を上回りました。
負債総額は58億4,600万円で、前年同期比16.5%減少しています。
受注しても利益が残らない構造に注意
管工事業では、販売不振による倒産が65件で、全体の69.1%を占めました。
また、既往のシワ寄せによる倒産が22件、物価高倒産が5件発生しています。
人手不足倒産は11件で、そのうち後継者難が10件を占めました。
このデータからは、受注確保、コスト上昇、人材確保、事業承継という複数の問題が重なっていることが分かります。
例えば、材料費や人件費が上昇しても、元請企業などとの価格交渉が難しければ、受注金額に十分反映できません。
工事を受注しても利益が残らず、運転資金の余裕がなくなれば、資金繰りの悪化につながります。
さらに、職人不足によって対応できる工事量が制約されると、売上を維持することも難しくなります。
中小企業が学ぶべきこと
重要なのは、受注量だけでなく、案件ごとの採算を管理することです。
受注時の見積もりが適切でも、工期の延長や追加工事によって原価が増加すれば、利益は減少します。
また、社長が営業、見積もり、技術判断、顧客対応を一手に担っている企業では、社長が動けなくなったときに事業が停滞する可能性があります。
経営者が確認すべきこと
- 材料費・労務費の上昇を見積もりに反映しているか。
- 追加工事や仕様変更の費用を適切に請求しているか。
- 案件ごとの実際の粗利益を把握しているか。
- 主要顧客や元請企業への依存度が高すぎないか。
- 技術、顧客関係、経営判断を引き継ぐ計画があるか。
出典:東京商工リサーチ「2026年度上半期の『管工事業』倒産94件」(2026年10月21日)
4.医療機関|倒産59件、クリニックと歯科医院で苦境が鮮明に
2026年1〜9月の医療機関の倒産は59件となり、同期間の過去最多を更新しました。
前年同期の46件から28.2%増加しています。
業態別の内訳は次のとおりです。
| 業態 | 2026年1〜9月 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 病院 | 8件 | 9件 |
| クリニック | 29件 | 18件 |
| 歯科医院 | 22件 | 19件 |
| 合計 | 59件 | 46件 |
医療機関でも、事業継続には経営管理が必要
今回の調査では、クリニックの倒産が29件となり、前年同期の18件を上回りました。
歯科医院も22件で、前年同期の19件から増加しています。一方、病院は8件で前年同期の9件を下回りました。
後継者難による倒産は14件で、前年同期の5件から増加しました。人手不足倒産も7件発生しています。
医療機関は地域社会にとって不可欠な存在ですが、社会的な必要性が高いことだけで経営が安定するわけではありません。
光熱費や備品価格の上昇、人材確保、設備の老朽化、患者数の変化など、経営に影響する要因は複数あります。
また、院長や理事長などの特定の人物に、経営判断や運営上の重要な役割が集中している場合、後継者が確保できなければ、事業の継続が難しくなる可能性があります。
中小企業が学ぶべきこと
医療機関の事例から学べるのは、収益性の改善と事業承継の準備を別々に考えないことです。
事業を継続するには、資金を確保するだけでなく、経営判断や日常業務を担える人材を育てる必要があります。
これは医療機関だけでなく、オーナー経営者が中心となって事業を運営する中小企業にも共通する課題です。
経営者が確認すべきこと
- 事業別の収益性や固定費負担を把握しているか。
- 設備更新や人材確保に必要な資金を計画しているか。
- 経営者が不在でも管理職が判断できるか。
- 後継者候補の育成や事業承継の選択肢を検討しているか。
- 業務の標準化やIT活用によって、生産性を高められないか。
出典:東京商工リサーチ「1-9月『医療機関』倒産 過去最多の59件」(2026年10月18日)
5.4業種に共通する、経営上の5つの教訓
ここまでのデータを整理すると、業種は異なっても、中小企業経営に共通する課題が見えてきます。
教訓1|売上高ではなく、利益とキャッシュフローを見る
売上が増加していても、コストの増加によって利益が減少することがあります。
月次の売上高だけでなく、粗利益、営業利益、運転資金、資金繰りを継続的に確認しましょう。
教訓2|価格競争から抜け出し、選ばれる理由をつくる
値下げによって受注を増やしても、利益が残らなければ事業は継続できません。
自社の専門性、品質、顧客対応、スピード、独自のサービスなど、価格以外の価値を明確にする必要があります。
教訓3|人手不足を前提に、生産性を高める
採用活動だけでは、人手不足を解消できない場合があります。
業務手順を標準化し、IT・AIを活用し、特定の従業員に集中している仕事を減らすことが重要です。
教訓4|経営者個人への依存を減らす
後継者難は、単に後継者候補がいないという問題だけではありません。
経営判断、顧客関係、技術、業務手順などが特定の人物に集中していると、引き継ぎが難しくなります。
日常業務の標準化と管理職の育成を進め、経営者が担っている仕事を少しずつ移管しましょう。
教訓5|業界の将来性より、自社の競争力を点検する
業界全体が成長していても、個々の企業が利益を確保できるとは限りません。
反対に、厳しい環境にある業界でも、独自の価値を提供し、適切な価格を設定し、生産性を高めている企業には事業継続の可能性があります。
経営者は、自社が顧客に選ばれる理由と、その価値を利益につなげる仕組みを定期的に点検する必要があります。
6.経営者が今月中に取り組みたい5つのアクション
教訓を具体的な行動に変えるために、まずは次の5つに取り組んでみてください。
| アクション | 確認すること | 目的 |
|---|---|---|
| 1.利益構造の確認 | 商品・サービス・案件ごとの粗利益 | 利益が残る仕事を把握する |
| 2.価格の見直し | 原価上昇、値上げ余地、顧客への説明 | 利益率の改善 |
| 3.顧客構成の分析 | リピート率、主要顧客への依存度 | 売上の安定化 |
| 4.業務の棚卸し | 社長や特定社員に集中する仕事 | 生産性と事業継続性の向上 |
| 5.資金繰りの確認 | 入金予定、支払予定、設備投資 | 資金不足の早期発見 |
すべてを一度に変える必要はありません。
まずは、直近3〜6か月の数字を確認し、利益や資金繰りに大きく影響している問題を1つ特定することから始めましょう。
そのうえで、改善担当者、期限、確認指標を決めれば、具体的な経営改善につなげやすくなります。
7.まとめ|厳しい環境でも、経営を変える余地はある
今回の東京商工リサーチの調査では、美容業、管工事業、医療機関で倒産の高水準や増加が確認されました。
一方、中小交通インフラは業界全体で増収増益を達成しているものの、赤字企業が一定数存在しています。
4業種のデータは、それぞれ異なる経営課題を示しています。
しかし、中小企業経営者が学ぶべきことには共通点があります。
- 売上高だけでなく、利益とキャッシュフローを管理する。
- 価格競争に依存せず、顧客に選ばれる理由をつくる。
- 人手不足を前提に、生産性を高める。
- 経営者個人への依存を減らし、事業承継に備える。
- 自社の競争力と経営構造を定期的に見直す。
厳しい経営環境そのものを、1社の努力だけで変えることはできません。
しかし、価格設定、業務の進め方、人材育成、資金管理、事業承継など、自社で改善できる領域はあります。
重要なのは、問題が深刻化してから対処するのではなく、数字と現場の変化から早めに兆候をつかみ、行動することです。
自社の経営を振り返り、今月中に改善できることを1つ決めるところから始めてみてはいかがでしょうか。
出典
- 東京商工リサーチ「年度上半期の『美容室』倒産54件の高水準」(2026年10月25日)
- 東京商工リサーチ「『中小交通インフラ』4年連続で増収増益を維持」(2026年10月22日)
- 東京商工リサーチ「2026年度上半期の『管工事業』倒産94件」(2026年10月21日)
- 東京商工リサーチ「1-9月『医療機関』倒産 過去最多の59件」(2026年10月18日)
