Contents
- 1 結論|歴史が長くても、需要があっても、それだけでは会社は続かない
- 2 1.退職代行で起きている「新市場の淘汰」
- 3 2.100年以上続いた老舗企業でも倒産する
- 4 3.老舗倒産で見逃せない「ガバナンス」の問題
- 5 4.伝統産業「畳」に起きていること
- 6 5.畳業界で特に深刻なのが「退出」
- 7 6.畳業界は「老舗」そのもの
- 8 7.さらに原料「いぐさ」にも変化
- 9 8.鳶工事業も「仕事があるのに倒産する」
- 10 9.鳶工事業では「人手不足」が直接倒産につながっている
- 11 10.「人が足りない」だけではない
- 12 11.4つのニュースに共通する「5つの構造変化」
- 13 12.経営者が最も警戒すべきなのは「突然の倒産」ではない
- 14 13.経営者が今確認すべき5つの数字
- 15 14.「後継者問題」は社長の年齢だけではない
- 16 15.では、中小企業は何をすべきか
- 17 16.「守る」だけではなく「変える」
- 18 17.今回の4つのニュースが経営者に教えていること
- 19 18.今、経営者が考えるべき問い
- 20 まとめ
はじめに
「100年以上続いてきた会社なら、簡単には潰れない」
「需要のある仕事なら、会社は続けられる」
「技術力があれば、最後は何とかなる」
そう考えたくなるところですが、2026年に入って発表された企業データを見ると、こうした常識を見直す必要がありそうです。
帝国データバンクと東京商工リサーチから、非常に興味深い4つのデータが相次いで公表されました。
1つ目は、退職代行サービス。
2025年10月時点で確認された主要52事業者のうち、約1年間で14事業者がサービス停止の可能性。全体の26.9%に相当します。
2つ目は、業歴100年超の老舗企業。
2026年1~8月だけで112件が倒産し、年間では160件を上回るペースです。
3つ目は、畳製造業。
主要256社の2025年度売上高は前年度比1.3%減で、3年連続の減収となりました。
4つ目は、鳶工事業。
2026年1~8月の倒産は110件で、前年同期比26.4%増。16年ぶりに100件を超えています。
一見すると、まったく違う業界の話です。
しかし、経営という視点から見ると、共通するものがあります。
それは、
「市場・顧客・人材・コストが変わっているのに、従来のビジネスモデルでは利益を残しにくくなっている」
という問題です。
結論|歴史が長くても、需要があっても、それだけでは会社は続かない
今回の4つのデータから見えてくる重要なポイントは、次の5つです。
1.市場が伸びていても、事業者が生き残れるとは限らない
退職代行は一定の需要を獲得してきた一方、事業者の退出も目立っています。
2.100年続いた会社でも、環境変化には対応しなければならない
老舗企業の倒産は2026年1~8月だけで112件。
3.伝統や技術そのものが収益を保証するわけではない
畳製造業では、100年超企業が22.6%を占めますが、売上は3年連続で減少しています。
4.仕事がある業界でも、人材不足とコスト高で倒産する
鳶工事業は建設現場に不可欠な仕事ですが、2026年1~8月の倒産は110件に達しました。
5.最終的に問われるのは「売上」より「利益を残す仕組み」
市場変化への対応、価格設定、人材確保、事業承継、ガバナンス。
これらを経営課題として捉え直す必要があります。
1.退職代行で起きている「新市場の淘汰」
最初に意外なのが、退職代行サービスです。
帝国データバンクによると、2025年10月時点で実態が確認された主要退職代行サービス事業者は52社。
ところが、その後約1年間で、少なくとも14事業者についてサービス継続が通常の手段では確認できない状態になりました。
割合にすると、
14社/52社=26.9%
です。
さらに2026年3月には、退職代行サービス「スマートヤメマス」の破産も発生しています。
つまり、需要が生まれた新しい市場だからといって、参入すればそのまま成長できるわけではありません。
背景には、新規参入による競争激化があります。
2025年時点で約2.8万円だった料金は、直近では約2.7万円まで低下。
さらに、退職意思の通告だけであれば、大手法律事務所などの参入によって価格競争が起きています。
加えて、未払い残業代、有休消化、退職日などについて交渉する場合には、弁護士法との関係で「非弁行為」とみなされるリスクにも注意が必要です。
帝国データバンクは、退職代行サービスについて、今後はサービス内容や信頼性によって事業者間の二極化が進む可能性を指摘しています。
ここから得られる経営の教訓
新しい市場に参入するときに重要なのは、
「需要があるか」
だけではありません。
「自社が何で選ばれるのか」
まで考える必要があります。
2.100年以上続いた老舗企業でも倒産する
次に衝撃的なのが、老舗企業です。
帝国データバンクによると、創業・設立から100年以上の老舗企業の倒産は、2026年1~8月だけで112件。
このペースで推移すると年間160件を上回り、2024年の146件を超えて過去最多を更新する可能性があります。
業種別では、
- 製造業:34件
- 卸売業:24件
- 小売業:22件
が上位となっています。
そして重要なのが規模です。
112件のうち、
56件、50%が負債1億円未満
でした。
つまり、「巨大な老舗企業が次々倒れている」という話ではありません。
中小・小規模事業者が多いのです。
3.老舗倒産で見逃せない「ガバナンス」の問題
今回の老舗倒産では、単なる物価高や後継者不足だけでは説明できないケースもあります。
負債10億円以上の倒産は4件。
そのうち3件では、
- 簿外債務
- 売掛金の水増し
- 在庫の水増し
などのコンプライアンス違反が倒産の引き金となりました。
例えば、水道工事業の狩野組は1925年創業で、負債約36億円。
不動産投資に伴う簿外債務が判明し、債権者による売掛金差し押さえなどから資金繰りが悪化しました。
また、1901年創業の紙器メーカー、小野部製凾所では、10年以上にわたる売掛金・在庫の水増しが発覚しています。
これは経営者にとって重要なポイントです。
「長くやっているから大丈夫」ではなく、長く続いている会社ほど、会計・資金繰り・ガバナンスを定期的に点検する必要があります。
4.伝統産業「畳」に起きていること
そして、今回もっとも「日本企業の構造変化」を象徴しているのが畳製造業です。
東京商工リサーチが主要256社を調査したところ、2025年度の売上高合計は、
402億7,700万円
でした。
しかし、前年度比では、
1.3%減
です。
しかも売上高は2023年度から3年連続で減少しています。
2021年度と2025年度を比較すると、売上高は6.3%減少しています。
5.畳業界で特に深刻なのが「退出」
畳製造業では、2025年に、
- 休廃業・解散:28件
- 倒産:3件
が確認されています。
ここで重要なのは、倒産だけを見てはいけないということです。
会社は、
倒産する前に「廃業する」という選択肢を取る
ことがあります。
つまり、倒産件数だけを見て「まだ3件しかない」と判断すると、実態を見誤る可能性があります。
6.畳業界は「老舗」そのもの
畳製造業256社の業歴を見ると、
- 100年以上:58社
- 50年以上100年未満:153社
です。
つまり、
50年以上が82.4%
を占めます。
さらに100年超の企業だけでも22.6%。
まさに伝統産業です。
しかし、伝統がそのまま市場になるわけではありません。
生活様式が変化し、
- 畳を使う住宅が減る
- 畳職人が高齢化する
- 後継者が不足する
- 安価な海外製品が流入する
など、事業環境が変化しています。
7.さらに原料「いぐさ」にも変化
畳製造業を考えるとき、もう一つ重要なのが原料です。
農林水産省の「特定作物統計調査」によると、令和7年産「いぐさ」は、
作付面積:前年比24%減
収穫量:前年比27%減
となっています。
熊本県は国内生産される「いぐさ・畳表」の9割以上を占める一大産地です。
つまり、畳製造業は単に「畳を売る会社」の問題ではありません。
住宅市場、生活様式、職人、原材料、地域産業までつながっています。
8.鳶工事業も「仕事があるのに倒産する」
そして、まったく違う業界が鳶工事です。
鳶工事は足場、鉄骨、支柱工事など、建設現場には欠かせない仕事です。
ところが、2026年1~8月の倒産は、
110件
となりました。
前年同期比では、
26.4%増
です。
さらに、2010年同期以来16年ぶりに100件を超えました。
年間最多は2010年の148件ですが、現在のペースが続けば2026年は170件も視野に入るとTSRは分析しています。
9.鳶工事業では「人手不足」が直接倒産につながっている
110件の倒産原因を見ると、
- 売上不振:78件
- 赤字累積:24件
で、業績不振が92.7%を占めます。
さらに特別原因では、
物価高倒産:9件
前年同期の3件から増加。
そして、
人手不足倒産:19件
前年同期の10件からほぼ倍増しています。
人手不足倒産19件の内訳には、
- 従業員退職:7件
- 人件費高騰:4件
- 求人難:4件
- 後継者難:4件
などがあります。
10.「人が足りない」だけではない
鳶工事業の2025年度業績を見ると、少し不思議なことが分かります。
5期連続で比較できる15,941社では、
売上高合計は3兆2,165億円。
前期比4.5%増で、4期連続増収です。
純利益も1,045億円。
前期比24.4%増で、3期連続増益です。
それでも倒産は増えています。
なぜでしょうか。
ポイントは企業規模による格差です。
完工高1億円未満の業者では赤字企業が37.5%。
一方、10億~50億円のレンジでは7.0%。
同じ鳶工事業でも、規模によって収益力に大きな差が生まれています。
11.4つのニュースに共通する「5つの構造変化」
ここまで見ると、退職代行、老舗、畳、鳶はまったく違う業界に見えます。
しかし、経営構造として見ると共通点があります。
①市場が変わっている
生活様式、顧客ニーズ、競争環境が変わっています。
②価格競争が激しくなっている
退職代行では料金低下。
畳では海外製品との競争。
建設ではコスト上昇。
③人材が経営資源になっている
職人不足、後継者不足、従業員退職。
「採用できない」だけでなく、「事業を続けられない」問題になっています。
④小規模企業ほど影響を受けやすい
老舗倒産の半数は負債1億円未満。
鳶工事業でも資本金1,000万円未満が89.0%、従業員10人未満が91.8%です。
畳製造業でも売上5億円未満が94.9%。
小規模企業の経営環境が厳しくなっていることが分かります。
12.経営者が最も警戒すべきなのは「突然の倒産」ではない
倒産は、ある日突然起こるように見えます。
しかし、その前には、
- 売上減少
- 粗利益率低下
- 人材流出
- 採用難
- 値上げできない
- 後継者が決まらない
- 借入依存
- 資金繰り悪化
- 管理体制の形骸化
といった兆候が存在することがあります。
したがって経営者が見るべきなのは、
「倒産件数」そのものではなく、自社に同じ兆候が出ていないか
です。
13.経営者が今確認すべき5つの数字
今回のニュースを自社経営に置き換えるなら、まず次の5つを確認してください。
①売上高
前年同月比だけではなく、3年間のトレンドを見る。
②粗利益率
売上が増えていても、原価上昇によって利益率が落ちていないか。
③人件費率
採用難によって賃金が上昇しても、価格に反映できているか。
④主要顧客依存度
特定顧客や特定市場に依存していないか。
⑤経営者依存度
社長や特定の職人がいなくなった場合、事業が回るか。
14.「後継者問題」は社長の年齢だけではない
今回の畳製造業では、代表者年齢も特徴的です。
判明した180社では、
- 60歳代:67社
- 50歳代:51社
- 70歳代:35社
- 80歳以上:13社
でした。
一方、40歳以下は14社にとどまります。
これは「社長が高齢」という話だけではありません。
重要なのは、
技術・顧客・仕入先・経営判断を次世代へ移管できているか
です。
事業承継は株式を渡すことだけではありません。
「経営能力の承継」まで含めて考える必要があります。
15.では、中小企業は何をすべきか
今回の4つのデータから、私は5つの経営テーマを確認しておくべきだと考えます。
1.価格を見直す
原価、人件費、外注費、エネルギー費を反映した価格になっているか。
2.利益率を見る
売上ではなく、
「いくら売って、いくら残ったか」
を見る。
3.人材への依存度を下げる
属人化している業務を標準化・デジタル化する。
4.事業承継を早める
後継者を決めるだけでなく、実際に判断を任せる。
5.市場変化に合わせて事業モデルを変える
「昔からこうやっている」ではなく、
「今のお客様は何にお金を払うのか」
を考える。
16.「守る」だけではなく「変える」
老舗企業が持っている、
- 信用
- 顧客基盤
- 技術
- ノウハウ
- ブランド
- 地域との関係
は大きな資産です。
問題は、それを「守る」だけでは市場変化に対応できないことです。
例えば伝統技術を、
- 新しい顧客層
- 新しい商品
- 新しい販売方法
- 新しい価格帯
- 新しい用途
につなげることができれば、長年培ってきた技術が新しい価値になります。
17.今回の4つのニュースが経営者に教えていること
退職代行は、
「需要がある市場でも競争によって淘汰される」
ことを示しています。
老舗企業は、
「歴史が長いことだけでは環境変化を乗り越えられない」
ことを示しています。
畳製造業は、
「伝統や技術があっても市場そのものが縮小すれば、事業モデルの再構築が必要になる」
ことを示しています。
鳶工事業は、
「仕事がある業界でも、人材不足とコスト上昇によって利益を残せなければ倒産する」
ことを示しています。
18.今、経営者が考えるべき問い
最後に、ぜひ自社に置き換えて考えてみてください。
「今の売上は、5年後も存在するだろうか?」
「今の価格で、人件費や原材料費が上がっても利益を残せるだろうか?」
「今いる人材が辞めても事業は回るだろうか?」
「社長が1年間現場から離れても会社は動くだろうか?」
「今の顧客がいなくなったとき、新しい顧客を獲得できるだろうか?」
これらに明確に答えられないのであれば、倒産を心配する前に、今の経営モデルを見直すタイミングかもしれません。
まとめ
今回取り上げた退職代行、老舗企業、畳製造業、鳶工事業。
業界はまったく違います。
しかし共通しているのは、
「過去にうまくいった仕組みが、今後もそのまま通用するとは限らない」
ということです。
2026年1~8月の業歴100年超企業の倒産は112件。
鳶工事業は110件。
畳製造業は3年連続減収。
退職代行では主要52事業者のうち14事業者がサービス停止の可能性。
数字だけを見れば、それぞれ別々のニュースです。
しかし経営者が見るべきなのは数字の裏側です。
市場が変わる。
人が変わる。
コストが変わる。
顧客が変わる。
その変化に合わせて、
価格・商品・人材・組織・事業承継を変えられるか。
これからの中小企業経営では、そこが大きな分岐点になっていきます。
倒産件数を見るだけではなく、
「自社にも同じ兆候がないか」
を確認すること。
それが今回のデータから経営者が学ぶべき最大のポイントです。
出典
帝国データバンク「100年経営『老舗企業』の倒産動向調査(2026年1-8月)」
帝国データバンク「主要『退職代行サービス』動向調査」
東京商工リサーチ「『畳製造業』伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題」
東京商工リサーチ「『鳶工事業』が苦境、倒産が過去最多ペース」
農林水産省「特定作物統計調査」