立退料は、貸家などを売るために借家人に退去してもらう際に支払ったものであれば、個人の譲渡所得の計算上「譲渡費用」として差し引けます。購入時に支払った立退料は取得費、賃貸を続ける中で支払った立退料は不動産所得の必要経費になります。
事業承継や不動産の譲渡に伴って、立退料が発生することがあります。譲渡に伴って支払う立退料が税務上どのように扱われるのかを理解しておくことは、税務処理において非常に重要です。この記事では、立退料の税務処理方法について詳しく解説し、譲渡費用に含まれるかどうか、またその影響について触れていきます。
この記事の要点
- 立退料とは、物件の所有者(賃貸人)が、借りている人(賃借人)に退去してもらう見返りとして支払う金銭です。
- 個人が貸家などを売るために借家人に家屋を明け渡してもらう際の立退料は、国税庁が「譲渡費用」の例として示しています。
- 借主がいる土地・建物を購入するときの立退料は「取得費」、賃貸を続ける中で賃借人に支払う立退料は、売却のためのものを除き不動産所得の「必要経費」になります。
- 譲渡費用が増えると譲渡所得が減り、税負担が軽くなります。立退きの合意書や領収書など、売却のための支払いであることを説明できる書類を保存しておきましょう。
- 立退料を受け取る借家人の側は、性質に応じて譲渡所得・一時所得・事業所得に分かれます。法人が不動産を売る場合は法人税のルールで処理します。
立退料の基本的な定義
立退料とは、建物や土地の所有者(賃貸人)が、借りている人(賃借人)に退去してもらう見返りとして支払う金銭です。契約の解除や、売却・再開発のための明渡しの際に支払われます。
立退料とは、物件の所有者(賃貸人)が賃借人(入居者)に支払う金銭で、通常、以下のような目的で支払われます。
- 契約解除による立ち退き
テナントに退去を依頼する際の補償金として支払われる立退料。 - 不動産の譲渡・再開発のための立退き
資産を売却する際に、現行の契約を終了させるために立退きを求め、その対価として支払う立退料。
立退料は譲渡において、売却利益を最適化するための調整役としても機能しますが、支払った立退料が譲渡費用に含まれるかどうかは税務上の判断が必要です。
| 立退料を支払う目的 | 税務上の扱い(個人) | 根拠 |
|---|---|---|
| 貸家などを売るため、借家人に家屋を明け渡してもらう | 譲渡費用(譲渡所得の計算で差し引く) | 国税庁 No.3255、所得税基本通達33-7 |
| 借主がいる土地・建物を購入するときに、借主を立ち退かせる | 取得費(購入した資産の取得費に含める) | 国税庁 No.3252 |
| 賃貸を続ける中で、建物の賃借人を立ち退かせる(売却のためのものを除く) | 不動産所得の必要経費(支払った年) | 所得税基本通達37-23 |
立退料が譲渡費用になるケース
国税庁は、貸家を売るために借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料を、譲渡費用の例として示しています。ポイントは、売却のために支払ったものかどうかです。
税法上、立退料が譲渡費用に含まれるかどうかは、主に次の点から判断されます。
- 譲渡のために支払ったものであること
国税庁は「貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料」を譲渡費用の例に挙げています。たとえば、空き家の状態で売るために賃借人(借家人)に立ち退きを依頼した場合には、譲渡を進めるための費用になります。 - 売却のための支払いであることを書類で説明できること
契約書への明示が法律上の要件とされているわけではありませんが、税務調査などで説明できるよう、立退きの合意書や領収書、売買契約までの経緯がわかる資料を残しておくことが大切です。
売却のための支払いであれば、立退料は譲渡費用になります。一方、支出が譲渡と直接関係していない場合は譲渡費用にはならず、取得費や不動産所得の必要経費など、別の扱いになることがあります。
※補足:国税庁が挙げる主な譲渡費用は、仲介手数料、売主が負担した印紙税、貸家を売るための立退料、売るために建物を取り壊した費用、より有利な条件で売るために既存の契約を解除して支払った違約金などです。修繕費や固定資産税など、資産の維持・管理のための費用は譲渡費用になりません(国税庁 No.3255)。
税務上の処理:立退料が譲渡費用に含まれる場合のメリット
立退料を譲渡費用に含めると、その分だけ課税される譲渡所得が減り、所得税・住民税の負担が軽くなります。
立退料が譲渡費用として認められると、譲渡所得に対する税額を低減できる可能性があります。譲渡所得は次のように計算されます:
譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額
この計算式では、譲渡費用が増えるほど、譲渡所得は減少し、結果として課税額が減少します。そのため、譲渡費用として立退料が計上できれば、税負担を軽減できる効果があります。
※補足:土地・建物の譲渡所得は、ほかの所得と分けて税額を計算します。売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えると長期譲渡所得(所得税15%)、5年以下だと短期譲渡所得(所得税30%)です。このほか住民税と復興特別所得税がかかります(国税庁「令和7年分 土地や建物の譲渡所得のあらまし」)。
説明用の数値例:長期譲渡所得で、立退料300万円を譲渡費用に含めた場合、課税される譲渡所得が300万円減ります。所得税・復興特別所得税・住民税の合計税率20.315%で計算すると、税額は約61万円(300万円×20.315%=60万9,450円)少なくなります(特別控除などがない場合)。
立退料を譲渡費用として含める際の注意点
立退料を譲渡費用にするには、売却のための支払いであることを示す書類を保存し、扱いに迷う場合は税務署や税理士に確認することが大切です。
立退料を譲渡費用に含めるためには、以下の点に注意する必要があります。
- 関連書類の保管
立退料が譲渡費用であることを示すため、譲渡契約書や立退料の支払い明細書などの関連書類をきちんと保管することが重要です。 - 税務署への確認
税務上の扱いは、税務署の判断によるところも大きいため、譲渡に関わる立退料が発生した場合には、税務署への確認を行うと安心です。 - 会計士や税理士への相談
税法は複雑で、取引の経緯や契約内容によって扱いが変わる場合もあります。そのため、会計士や税理士と相談して適切な処理方法を確認することが推奨されます。
このほか、次の点にも注意が必要です。
- この記事で説明している「譲渡費用」は、個人が土地・建物を売ったときの譲渡所得(所得税)の考え方です。法人が不動産を売る場合は、法人税のルールで処理します。
- 売るつもりがなく、賃貸を続ける中で支払った立退料は、譲渡費用ではなく、支払った年の不動産所得の必要経費になります(所得税基本通達37-23)。
- 借主がいる土地・建物を購入する際に支払った立退料は、譲渡費用ではなく取得費として、将来その資産を売るときに差し引きます(国税庁 No.3252)。
立退料を受け取る借家人の側にも税金がかかります。受け取った立退料の性質によって、所得の区分が次のように分かれます。
| 受け取った立退料の性質 | 個人の所得区分 |
|---|---|
| 借家権の対価 | 譲渡所得 |
| 引っ越し費用など移転費用の補償 | 一時所得 |
| 営業の休止などによる収益の補償 | 事業所得 |
まとめ
立退料は、売るために支払ったものなら譲渡費用、買うときに支払ったものなら取得費、賃貸を続ける中で支払ったものなら必要経費と、支払った目的によって扱いが決まります。
立退料が譲渡費用に含まれるかどうかの判断は、譲渡に直接関係するかどうかが重要な基準です。譲渡の際の立退料支出が売却のために支払ったものであり、合意書や領収書などの書類で説明できる場合、譲渡費用として認められる可能性が高まります。事業承継や不動産の売却時に適切な税務処理を行うために、専門家の助言を得て、賢明な税務処理を行うようにしましょう。
※本記事は一般的な解説です。実際の申告や個別の取引の扱いは、税務署や税理士にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
立退料の税務処理について、よく寄せられる質問に結論から回答します。
Q. 立退料は譲渡費用になりますか?
貸家などを売るために借家人に家屋を明け渡してもらう際に支払った立退料は、個人の譲渡所得の計算上、譲渡費用になります。
Q. 不動産を買うときに支払った立退料はどう扱いますか?
借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料は取得費になります。
Q. 売却しない場合の立退料はどう扱いますか?
賃貸用建物の賃借人を立ち退かせるために支払った立退料は、売却のためのものを除き、支払った年の不動産所得の必要経費になります。
Q. 立退料を受け取った借家人に税金はかかりますか?
かかります。借家権の対価は譲渡所得、移転費用の補償は一時所得、営業の収益の補償は事業所得として扱われます。
Q. 立退料を譲渡費用にするために必要な書類は何ですか?
法律で決まった書式はありませんが、立退きの合意書、領収書、売買契約書など、売却のための支払いであることを説明できる資料を保存しておくことが大切です。
出典・参考
本記事の主な出典と、2026年10月29日の更新時に確認した資料は次のとおりです。数値例は説明用に設定したものです。
- 国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm - 国税庁「No.3252 取得費となるもの」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm - 国税庁「所得税基本通達37-23(不動産所得の基因となっていた建物の賃借人に支払った立退料)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/09.htm - 国税庁「令和7年分 土地や建物の譲渡所得のあらまし」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/pdf/O/O10.pdf - 法律事務所の解説(立退料を受け取った側の所得区分)
https://www.mc-law.jp/fudousan/26723
