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なぜ「起業が増えているのに、倒産も増える」のか?
2026年、少し珍しいデータが公表されました。
「市区郡別の倒産件数ランキング」です。
2026年1~8月、全国の市区郡別で倒産件数が最も多かったのは、東京都の渋谷区で123件。
2位は港区・中央区の106件、4位は新宿区の92件、5位は千代田区の80件でした。
さらに渋谷区は2025年も年間161件で全国最多。
このままのペースなら、2年連続で全国最多となる可能性があります。
一方で、日本では起業そのものが減っているわけではありません。
帝国データバンクによると、2025年に新たに設立された法人は、
15万6,525社
で、2000年以降で最多を更新しました。前年比1.8%増で、3年連続の増加です。
つまり、
会社はどんどん生まれている。
しかし、その一方で会社も退出している。
この「入口」と「出口」を一緒に見る必要があります。
そして、ここからが今回の重要なポイントです。
結論:起業で重要なのは「会社を作ること」ではなく「事業を進化させ続けること」
今回の3つの調査から見えてくるのは、次の構造です。
1.起業の入口は広がっている
2025年の新設法人は15万6,525社で過去最多。
しかも起業家の裾野は広がっています。帝国データバンクによれば、60歳以上の代表者による新設法人の割合は20.5%と、初めて20%を超えました。
2.しかし、起業後には「売上の安定」という壁がある
日本政策金融公庫の2025年度調査では、起業家が事業上の問題として挙げた項目のトップが、
「売り上げを安定的に確保しづらい」42.5%
でした。
続いて、
「業務に対する対価が低い」31.3%
となっています。
3.渋谷区の倒産企業では、業歴10年以上が半数超
渋谷区の2026年1~8月の倒産123件を見ると、
- 業歴10年以上:65件
- 構成比:52.8%
- 業歴5年未満:20件
- 構成比:16.2%
でした。
これは非常に重要な数字です。
「倒産=創業直後の会社」というイメージだけでは、今回のデータを説明できません。
むしろ、ある程度事業を続けてきた企業が、環境変化の中で経営モデルを変えられるかという問題も見えてきます。
ただし、ここは注意が必要です。
この統計だけから、
「10年以上経過すると倒産しやすい」
「5年目が倒産の転換点」
と因果関係を断定することはできません。
しかし、業歴の長い企業にも経営モデルの再設計が必要だという問題提起にはなります。
渋谷区で何が起きているのか?
東京商工リサーチのデータを見ると、渋谷区の倒産には地域の産業構造も表れています。
2026年1~8月の123件を産業別に見ると、
| 産業 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| サービス業他 | 67件 | 54.4% |
| 情報通信業 | 31件 | 25.2% |
| 卸売業 | 12件 | 9.7% |
となっています。
さらに業種別では、
受託開発ソフトウェア業:15件
が最多。
経営コンサルタント業:10件
も上位に入っています。
つまり、渋谷区の倒産問題は単純な「店舗型ビジネスの不振」ではありません。
サービス、IT、コンサルティングなど、知識・人材・受託ビジネスを含む企業にも起きている。
ここは中小企業経営者にとって重要なポイントです。
一方、日本では「新しい会社」が過去最多
帝国データバンクの2025年新設法人調査では、新設法人は15万6,525社。
10年前の2015年と比べると1.25倍です。
市区郡別では、
1位:港区 7,472社
2位:渋谷区 5,795社
3位:中央区 4,968社
4位:千代田区 4,471社
と、東京への集中が非常に大きくなっています。
一方、TSRの今回の調査では、渋谷区の2025年新設法人は5,883社で前年比1.5%増。
港区は7,729社、前年比11.3%増でした。
ここから読み取れるのは、
「起業がなくなった」のではなく、起業の増加ペースにも地域差が生まれている
ということです。
そしてJFC調査を見ると「起業後の現実」が見えてくる
日本政策金融公庫の調査は、2025年11月時点で全国の18~69歳を対象に実施され、詳細調査は2,568人から回答を得ています。
この調査で興味深いのが、起業家の規模です。
現在の従業者数が、
「1人、本人のみ」
という割合は、
- 起業家:78.0%
- パートタイム起業家:76.5%
でした。
つまり、起業=最初から社員を抱える会社、とは限りません。
小さく始める。
自分の経験や資格を活かす。
副業・パートタイムから始める。
こうした起業が増えています。
これは起業のハードルを下げるという意味では大きな変化です。
しかし「小さく始める」と「安定して稼ぐ」は別問題
JFC調査では、起業家の現在の月商が50万円未満という割合は68.3%。
一方、パートタイム起業家では91.5%でした。
また、現在の採算状況は「黒字基調」が起業家72.6%、パートタイム起業家74.8%。
ここだけを見ると悪くないようにも見えます。
しかし、
「売上が増加傾向」
と回答した割合は、
- 起業家:35.1%
- パートタイム起業家:21.3%
です。
つまり、
黒字であることと、成長できていることは別問題。
ここが重要です。
起業5年までに確認したいこと
創業直後の企業が最初に考えるべきなのは、単純な売上規模ではありません。
①誰が買ってくれるのか
JFC調査では、起業家の受注経路として、
- 宣伝広告活動:25.1%
- 自身のSNS・ブログ:25.0%
- 友人・知人の紹介:24.7%
- 取引先の紹介:23.7%
などが挙げられています。
創業時には、
「商品を作る」より「顧客をどう獲得するか」
の設計が重要です。
②単価は適正か
「業務に対する対価が低い」は31.3%。
忙しいのに利益が残らない。
この状態が続けば、売上が増えても経営は安定しません。
③売上が安定しているか
最も多かった課題は「売り上げを安定的に確保しづらい」42.5%。
創業初期は、
売上額よりも「売上の再現性」
を見る必要があります。
5~10年で注意したいのは「社長が頑張る経営」の限界
会社が成長すると、別の問題が出てきます。
創業時には、
「社長が営業する」
「社長が判断する」
「社長が顧客対応する」
でも成立します。
しかし、5年、10年と経過して事業規模が大きくなると、
社長個人の能力に依存した経営モデル
では限界が来ます。
さらに、商品・サービスの陳腐化、競合の増加、人件費上昇、AIなどによる価格変化など、外部環境も変わります。
渋谷区では情報通信業や受託開発ソフトウェア業の倒産も目立っています。
これは、
「昔売れていたものを、今も同じ方法で売る」
だけでは危険だということを考える材料になります。
10年以上経った会社こそ「経営モデルの健康診断」を
業歴10年以上の企業では、
「創業以来ずっと黒字だから大丈夫」
とは限りません。
むしろ確認すべきなのは、
売上
- 主要顧客への依存度は高くないか
- 売上は増えているか
- 新規顧客は増えているか
利益
- 粗利益率は維持できているか
- 値上げできているか
- 売上増加が利益増加につながっているか
顧客
- 10年前と同じ顧客層ではないか
- 顧客ニーズは変化していないか
組織
- 社長がいなくても回るか
- 管理職が判断できるか
- 若手が育っているか
事業
- 主力商品は今後も必要とされるか
- 新しい収益源を持っているか
- AI・DXなどによる競争環境の変化に対応できているか
です。
「会社を作る」から「会社を進化させる」へ
今回の3つの調査には、直接的な因果関係はありません。
しかし、並べて見ると非常に興味深い構造が浮かびます。
新設法人
15万6,525社
↓
過去最多
起業後
「売上を安定させにくい」42.5%
「対価が低い」31.3%
↓
事業モデルの安定化が課題
業歴の長い企業
渋谷区の倒産企業では
10年以上が52.8%
↓
長く続ける企業にも環境変化への対応が必要
この3段階です。
だからこそ、起業する人に伝えたいのは、
「起業できるか」だけではなく、
「5年後、10年後に何を変えるか」まで考えて起業する。
ということです。
起業前・5年・10年で見るべき数字
最後に、経営者が定期的に確認したい数字を整理します。
| フェーズ | 最重要テーマ | 確認する数字 |
|---|---|---|
| 起業前 | 需要 | 顧客数・客単価・市場規模 |
| 1~3年 | 顧客獲得 | 新規顧客数・リピート率 |
| 3~5年 | 安定化 | 月商・粗利率・固定費・営業CF |
| 5~10年 | 事業モデル | 商品別利益・顧客集中度・単価 |
| 10年以上 | 再成長 | 新規事業売上・人材生産性・投資額 |
ここで重要なのは、
売上だけを見る経営から、利益・キャッシュ・顧客・組織を見る経営へ移行すること
です。
まとめ
今回のデータから、少なくとも次のことが確認できます。
①会社は過去最多ペースで生まれている
2025年の新設法人は15万6,525社で、2000年以降最多。
②一方で、渋谷区では倒産が全国最多
2026年1~8月は123件で全国市区郡別最多。2025年も161件で最多でした。
③起業後の最大の課題は「売上の安定」
JFC調査では42.5%が「売り上げを安定的に確保しづらい」と回答しています。
④長く続いている企業にも変化への対応が必要
渋谷区の倒産企業では業歴10年以上が52.8%。
ただし、この数字だけから「10年企業は倒産しやすい」と因果関係を断定することはできません。
だからこそ、
起業前から「5年後、10年後にどう進化するか」を考える。
そして既存企業は、
「今まで儲かってきたか」ではなく「これからも儲かる構造になっているか」
を確認する。
これが今回のデータから考えたい、最も重要な経営テーマです。
出典
- 東京商工リサーチ「『渋谷区』が倒産最多、2年連続も視野」2026年9月27日
- 帝国データバンク「2025年『新設法人』動向調査」2026年5月18日
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度起業と起業意識に関する調査」2026年2月10日