ナフサの次はアルミ不足――日本経済を襲う「第二の供給ショック」
2026年春以降、多くの経営者がナフサ不足に注目してきました。
しかし今、資源市場関係者や製造業の間で静かに警戒されているのが、
「アルミ不足」
です。
ナフサはプラスチックや化学製品の原料でした。
一方、アルミは、
- 自動車
- 建材
- サッシ
- ドア
- エアコン
- 缶飲料
- スマホ
- パソコン
- 半導体製造装置
- 医薬品包装
などに使われています。
つまり、
アルミ不足は日本の製造業そのものを揺るがす可能性がある
ということです。
この記事の要点
- 中東情勢の悪化とホルムズ海峡の問題で、日本が輸入するアルミ地金の約3割を占める中東(湾岸協力会議〈GCC〉諸国)からの供給が滞っています。
- 中東最大級のアルミ生産企業EGAの製錬所が攻撃で被害を受け、同社は完全復旧に最長1年かかる可能性を示しました。
- アルミ不足の影響は自動車、建設、半導体関連、包装・食品など幅広い業界に及び、在庫余力の乏しい中小企業ほど打撃が大きくなります。
- 中小企業は、アルミ使用量の把握、仕入先の分散、値上げ前提の利益計画、資金の確保、高付加価値化の5つに今すぐ取り組むことが重要です。
- 記事公開後、EGAの復旧は予定より早く進み、2026年の世界の供給不足の見通しも縮小しています(2026年10月時点の追記を参照)。
【追記】公開後の主な動き(2026年10月23日時点)
記事公開(2026年6月)後、中東の製錬所の復旧が想定より早く進み、2026年の世界のアルミ供給不足の見通しは縮小しました。ただし供給不足が解消したわけではありません。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年3月28日 | アラブ首長国連邦アブダビのEGAアル・タウィーラ製錬所がミサイル・ドローン攻撃で大きな被害を受ける(Argus) |
| 2026年4月3日 | EGAが、一次アルミ生産の完全復旧に最長12か月かかる可能性を表明(Argus) |
| 2026年4月 | 日本のアルミ圧延品出荷が前年同月比2.1%増。半導体製造装置向けが大幅に増加(日本経済新聞) |
| 2026年5月26日 | EGAが製錬所の電解槽の再稼働を開始(Reuters) |
| 2026年7月2日 | EGAの電解槽1,262基のうち89基が再稼働。復旧は想定より早く進んでいると報道(Reuters) |
| 2026年8月4日 | Wood Mackenzieが2026年の世界のアルミ供給不足見通しを約90万トンに縮小。紛争の最中には250万〜300万トンの不足が想定されていた(Wood Mackenzie) |
供給不足の見通しは縮小したものの、Wood Mackenzieは在庫の減少やコスト上昇圧力をリスクとして挙げています。アルミの調達価格や納期は、取引先の商社・メーカーに最新の状況を確認することをおすすめします。
なぜアルミ不足が起きているのか?
アルミ不足の最大の原因は、中東情勢の悪化とホルムズ海峡の問題です。日本はアルミ地金の多くを中東から輸入しており、ナフサと同じく中東依存の構造があります。
最大の原因は、
中東情勢の悪化とホルムズ海峡問題
です。
日本はアルミ地金の約30%を中東に依存しています。
※日本貿易振興機構(JETRO)によると、2025年の日本のアルミニウム塊の輸入のうち、湾岸協力会議(GCC)諸国が約3割を占めています(JETRO)。
さらに、
国内自動車メーカーは輸入アルミの約70%を中東から調達しています。
つまり、
ナフサと同じく、
「日本はアルミでも中東依存」
だったのです。
実はナフサより深刻な可能性もある
アルミ不足がナフサ不足より深刻になりうる理由は、攻撃で被害を受けた精錬設備の復旧に時間がかかり、海上輸送が戻っても供給がすぐには回復しないためです。
ナフサ不足は代替調達が比較的進んでいます。
しかしアルミは事情が異なります。
理由は、
精錬設備の復旧に時間がかかるから
です。
中東では、
- ドローン攻撃
- ミサイル攻撃
- ガス供給制限
によって主要製錬所が被害を受けています。
特に中東最大級の生産企業EGAでは、
完全復旧に最長1年かかる可能性が示されています。
※EGAは2026年4月3日、アル・タウィーラ製錬所の一次アルミ生産の完全復旧に最長12か月かかる可能性があると表明しました(Argus)。追記:その後、5月26日に電解槽の再稼働が始まり、7月には復旧が想定より早く進んでいると報じられています(Reuters)。
つまり、
ホルムズ海峡が再開しても、
アルミ供給はすぐには戻らない
のです。
世界的なアルミ不足が始まっている
2026年の中東のアルミ生産は大幅に減る見通しで、世界全体でも供給不足が指摘されています。需給の正常化には数年かかるとの見方もあります。
専門家によると、
2026年の中東アルミ生産量は
前年比44%減少する見通しです。
さらに、
世界全体でも
220万トンの供給不足
になる可能性が指摘されています。
※追記:Wood Mackenzieは2026年8月、2026年の世界のアルミ供給不足の見通しを約90万トンに縮小しました(Wood Mackenzie)。供給不足の規模は、見通しを出す機関や時期によって異なります。
需給バランスが正常化するのは、
早くても2027年後半から2028年との見方もあります。
つまり、
アルミ不足は一時的な混乱ではなく、
数年単位の供給問題
になる可能性があります。
アルミ価格はすでに上昇している
アルミ価格は中東での戦闘開始以降に上昇し、市場では現物の価格が先物より高い「バックワーデーション」が発生しています。市場が現物不足を意識している表れです。
実際に、
ロンドン金属取引所(LME)のアルミ価格は、
戦闘開始以降約13%上昇しました。
さらに市場では、
「バックワーデーション」
と呼ばれる異常事態も発生しています。
バックワーデーションとは、
将来のアルミより
今すぐ手に入るアルミの方が高い状態です。
つまり市場が、
「現物が足りない」
と判断している証拠です。
どの業界が危険なのか?
アルミ不足の影響が大きいのは、自動車、建設、半導体関連、包装・食品の4業界です。特に自動車部品メーカーは注意が必要です。
① 自動車業界
自動車業界は、エンジン部品やホイール、車体の軽量化部品、EV部品にアルミを大量に使うため、アルミ不足の影響が最も大きい業界です。
最も影響が大きい業界です。
アルミは、
- エンジン部品
- ホイール
- 車体軽量化部品
- EV部品
などに大量使用されています。
特に自動車部品メーカーは要注意です。
② 建設業界
建設業界では、アルミを使うサッシ、ドア、外装材などで値上げが始まっており、今後は住宅価格の上昇につながる可能性があります。
すでに
- サッシ
- ドア
- 外装材
などで値上げが始まっています。
今後、
住宅価格上昇にもつながる可能性があります。
③ 半導体関連
半導体関連では、半導体製造装置向けのアルミ需要が伸びています。AI需要の拡大で、今後もアルミ需要は増える見込みです。
4月のアルミ出荷増加を支えたのは、
半導体製造装置向け需要でした。
※日本のアルミ圧延品出荷は2026年4月に前年同月比2.1%増となり、半導体製造装置向けが大幅に伸びました(日本経済新聞)。
AI需要拡大により、
今後もアルミ需要は増加する見込みです。
④ 包装・食品業界
包装・食品業界では、缶飲料、レトルト包装、アルミホイルなどにアルミが使われており、アルミ不足が生活必需品に波及する可能性があります。
アルミは、
- 缶飲料
- レトルト包装
- アルミホイル
などに利用されています。
生活必需品にも波及する可能性があります。
中小企業が最も危険な理由
中小企業がアルミ不足で最も打撃を受けやすいのは、大企業のような長期契約・資金力・在庫力がなく、価格上昇や供給停止をしのぐ余力が小さいためです。
大企業は、
- 長期契約
- 資金力
- 在庫力
があります。
しかし中小企業は、
- 現金力が弱い
- 在庫を持てない
- 購買力が低い
という問題があります。
| 項目 | 大企業 | 中小企業 |
|---|---|---|
| 調達 | 長期契約 | 購買力が低い |
| 資金 | 資金力がある | 現金力が弱い |
| 在庫 | 在庫力がある | 在庫を持てない |
実際に日本アルミニウム協会も、
「最も懸念されるのは在庫余力の乏しい中小メーカー」
と指摘しています。
ナフサショックとの共通点
アルミ不足とナフサショックには、中東依存、ホルムズ海峡リスク、物流混乱、価格高騰、在庫不足、中小企業への集中打撃という共通点があります。
今回のアルミ不足は、
ナフサショックと極めて似ています。
共通点は、
- 中東依存
- ホルムズ海峡リスク
- 物流混乱
- 価格高騰
- 在庫不足
- 中小企業への集中打撃
です。
つまり、
「ナフサの次はアルミ」
という流れは十分にあり得ます。
中小企業経営者が今すぐやるべき5つの対策
中小企業がアルミ不足に備えて今すぐやるべき対策は、使用量の把握、仕入先の依存度確認、値上げ前提の利益計画、資金の確保、高付加価値化の5つです。
| 対策 | 具体的な行動 |
|---|---|
| ① アルミ使用量を把握する | 自社製品の直接使用量・間接使用量を確認する |
| ② 仕入先の依存度を確認する | 特定の商社・メーカーへの依存を減らし、調達先を分散する |
| ③ 値上げ前提で利益計画を作る | 原価上昇を前提に2026年後半の計画を立てる |
| ④ キャッシュを厚くする | 仕入価格の上昇に備えて運転資金を確保する |
| ⑤ 高付加価値化を進める | 価格競争から価値競争へ転換する |
① アルミ使用量を把握する
まず、自社製品にアルミがどれだけ使われているかを、部材として直接使う量と、購入部品に含まれる間接的な量に分けて把握します。
意外と多くの企業が、
自社製品にどれだけアルミを使っているか把握していません。
まずは、
- 直接使用量
- 間接使用量
を確認しましょう。
② 仕入先の依存度を確認する
アルミの仕入れが特定の商社やメーカーに集中していると、供給が止まったときの影響が大きくなるため、調達先を分散しておく必要があります。
特定商社や特定メーカー依存は危険です。
調達先の多様化が必要です。
③ 値上げ前提で利益計画を作る
アルミ価格の上昇が続く可能性があるため、これまでの原価を前提にせず、原価上昇を織り込んだ利益計画を作ることが必要です。
これまでの原価計算は通用しません。
2026年後半は、
原価上昇を前提にした経営が必要です。
④ キャッシュを厚くする
材料の不足や値上げが続く局面では、利益よりも資金繰りが重要です。仕入価格の上昇に備え、運転資金を早めに確保しておきます。
不足時代は、
利益より資金です。
仕入価格上昇に備え、
運転資金を確保しましょう。
⑤ 高付加価値化を進める
材料費の上昇を吸収するには、価格の安さで競う事業から、製品やサービスの価値で選ばれる事業への転換が欠かせません。
最終的に生き残るのは、
価格競争企業ではなく、
価値競争企業です。
本当の問題はアルミではない
アルミ不足が示す本当の問題は、ナフサ、アルミ、天然ガス、半導体など、多くの資源を海外に依存する日本の構造です。同様の供給ショックは今後も繰り返される可能性があります。
今回のアルミ不足で見えてきたのは、
「日本の資源依存構造」
です。
ナフサ。
アルミ。
天然ガス。
半導体。
どれも海外依存です。
つまり、
今後も同様の供給ショックは繰り返される可能性があります。
まとめ|2026年後半は「アルミショック」が現実になるかもしれない
アルミ不足は単なる価格高騰ではなく、日本の基幹産業全体に関わる問題です。最も影響を受ける中小企業は、不足してから動くのではなく、今から資材・資源リスクに備える必要があります。
ナフサ不足がまだ解決していない中、
今度はアルミ不足が表面化し始めました。
今回の問題は単なる価格高騰ではありません。
- 自動車
- 建設
- 製造業
- 半導体
- 包装業界
など日本の基幹産業全体に関わる問題です。
そして最も影響を受けるのは、
価格転嫁力が弱く、
在庫余力も少ない中小企業です。
ナフサショックで学ぶべきだったのは、
「不足してから動くのでは遅い」
ということです。
アルミ不足は、
2026年後半の経営環境を左右する重要テーマになる可能性があります。
今こそ、
資材・資源リスクを前提とした経営戦略への転換が求められています。
よくある質問(FAQ)
アルミ不足について、中小企業の経営者からよく寄せられる質問に結論から回答します。
Q. なぜアルミ不足が起きているのですか?
中東情勢の悪化とホルムズ海峡の問題で中東からのアルミ供給が滞り、中東最大級の生産企業EGAの製錬所も攻撃で被害を受けたためです。日本はアルミ地金の約3割を中東から輸入しています。
Q. アルミ不足の影響を受ける業界はどこですか?
自動車、建設、半導体関連、包装・食品の各業界です。特にアルミ部品を多く使う自動車部品メーカーと、在庫余力の乏しい中小メーカーへの影響が大きいとされています。
Q. アルミ不足はいつまで続くのですか?
需給の正常化は早くても2027年後半から2028年との見方があります。一方、2026年8月にはEGAの復旧が進んだことなどを受けて、2026年の世界の供給不足の見通しは縮小しています。
Q. 中小企業はアルミ不足にどう備えればよいですか?
アルミ使用量の把握、仕入先の分散、値上げを前提にした利益計画、運転資金の確保、高付加価値化の5つから始めることが有効です。
Q. バックワーデーションとは何ですか?
バックワーデーションとは、将来受け渡すアルミより、今すぐ手に入るアルミの価格の方が高い状態です。市場が現物不足を意識しているときに起こります。
出典・参考
- 日本貿易振興機構(JETRO)「中東の自動車動向(3)ホルムズ海峡封鎖、部品輸出と原料調達に影響」(アルミ塊の輸入に占めるGCC諸国の比率)
- Argus Media「Al Taweelah smelter repair to take up to a year: EGA」(2026年4月)
- Reuters「EGA ramps up recovery at aluminum complex damaged in Iranian strikes」(2026年7月2日、Kitco掲載)
- Wood Mackenzie「Metals sector weathers Middle East shock as aluminium deficit cut to 1 million tonnes…」(2026年8月4日)
- 日本経済新聞「アルミ圧延品出荷、4月2.1%増 半導体製造装置向けが大幅増」
- Bloomberg「中東混乱によるアルミ不足が日本直撃、基幹産業の自動車もピンチに」(2026年4月20日)
