海外勤務中の日本の年金は、働き方で扱いが変わります。日本企業からの海外赴任なら厚生年金に加入し続け、協定国への5年以内の派遣なら原則として日本の制度だけに加入します。現地法人への転籍や海外移住で日本に住所がなくなると国民年金の強制加入の対象から外れますが、日本国籍があり20歳以上65歳未満なら任意加入できます。社会保障協定は24か国で発効しています(2026年10月時点)。
──海外赴任・海外移住・海外法人役員など、経営者が必ず理解すべき年金の仕組みを徹底解説
グローバル化が進む中で、
日本企業だけでなく中小企業でも、
- 海外子会社の設立
- 現地法人への役員派遣
- 欧米・アジアへの駐在
- 海外移住(リタイア・投資目的)
- デジタルノマドとしての海外居住
が増えています。
しかし、海外勤務で「日本の年金がどうなるか」を正しく理解している方は非常に少なく、
間違った認識のまま海外勤務を続けたことで、
- 帰国後に年金が極端に少ない
- 未納扱いとなり将来の年金が減額
- 社会保障協定を利用しなかったために損
- 二重加入(日本と海外の両方で保険料発生)
- 海外の勤務年数が日本の受給資格にカウントされない
といったトラブルが数多く発生しています。
本記事では、
2026年時点の最新制度に基づき、
「海外勤務と年金の関係」を経営者視点で分かりやすく整理します。
この記事の要点
- 日本企業からの海外赴任(出向)なら、日本の厚生年金・健康保険に加入し続けます。
- 社会保障協定は24か国で発効しており、協定国への5年以内の派遣なら原則として日本の制度だけに加入します。
- 英国・韓国・中国・イタリアとの協定は保険料の二重負担防止のみで、加入期間の通算はありません。
- 日本に住所がなくなると国民年金の強制加入の対象外になりますが、日本国籍があり20歳以上65歳未満なら任意加入できます。
- 任意加入しなかった海外居住期間は後から保険料を納められませんが、受給資格の10年には合算対象期間として数えられます。
■ 1. 海外勤務時の年金は“働き方の形態”によって大きく変わる
海外勤務時の年金の扱いは、海外赴任、現地法人への転籍、海外フリーランス、海外移住の4つのケースで大きく異なります。
まず最も大切な結論を示します。
海外勤務時の年金の扱いは、
✔ 日本企業からの海外赴任
✔ 現地法人への転籍
✔ 海外フリーランス・個人事業
✔ 海外移住(リタイア含む)
という 4つのケースでまったく異なる という点です。
ではそれぞれ見ていきます。
■ 2. ケース①:日本企業からの「海外赴任(出向)」の場合
日本企業に在籍したまま海外で働く場合は、日本の厚生年金・健康保険に加入し続け、協定国への5年以内の派遣なら現地の制度への加入は原則として免除されます。
これは最も一般的なパターンです。
日本企業に在籍したまま海外で働く「出向」や「駐在員」の場合、
✔ 日本の厚生年金にそのまま加入継続
✔ 日本の健康保険も継続
✔ 会社が保険料を負担し続ける
という扱いになります。
◎ 海外に住んでいても、日本の社会保険に加入したまま
→ 日本国内と同じ扱いになる
ただし 海外現地での社会保険も加入義務あり となる国があるため、
ここで登場するのが「社会保障協定」です。
※補足:社会保障協定のある国に派遣される場合、派遣期間が5年以内の見込みであれば、原則として日本の制度だけに加入し、相手国の制度への加入が免除されます。5年を超える見込みの場合は、原則として相手国の制度に加入します。
■ 3. 社会保障協定とは?(2026年時点:24か国で発効)
社会保障協定とは、保険料の二重負担を防ぎ、両国の加入期間を通算するための国同士の取り決めで、日本は24か国と発効させています。
日本は2026年時点で 24か国との社会保障協定が発効しています(オーストリアとの協定は2025年12月1日に発効)。
この協定により、
◆ 二重加入の防止
◆ 年金加入期間の通算
が可能になります。ただし、英国・韓国・中国・イタリアとの協定は「保険料の二重負担防止」のみで、加入期間の通算はありません。
● 二重加入防止
「日本企業から派遣された駐在員は日本側の年金だけ加入し、
海外の年金加入を免除する」
という取り扱いができる国が多い。
● 加入期間の通算
たとえば
- 日本で7年勤務
- ドイツで5年勤務
のようなケースでも、
合算して老齢年金の受給資格(10年)を満たすことができる。
(※給付は各国が自分の期間に応じて支給)
| 協定の内容 | 国 |
|---|---|
| 保険料の二重負担防止+加入期間の通算 | ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、オーストリア |
| 保険料の二重負担防止のみ | 英国、韓国、中国、イタリア |
■ 4. ケース②:現地法人へ転籍・海外企業への就職
日本企業との雇用関係が切れると厚生年金・健康保険から外れ、日本に住所がなければ国民年金の強制加入の対象にもなりませんが、任意加入はできます。
日本企業との雇用関係が切れ、
海外企業に直接雇用される場合は大きく異なります。
✔ 日本の厚生年金脱退
✔ 日本の健康保険も脱退
✔ 国民年金に加入するかは「居住地」による
ここで重要なのは、
◎ 日本国内に住所がない場合
→ 国民年金の強制加入の対象外になる(任意加入しなければ空白期間になる)
これは非常に多くの日本人が誤解しているポイントです。
海外住居を選んだ瞬間
→ 日本の公的年金の加入義務が消える
→ 任意加入しなかった期間は「未加入期間」として残る
この期間は 老齢基礎年金の支給額に大きく影響 します。
※補足:日本国籍の方が海外に住んでいた20歳以上60歳未満の期間で、任意加入しなかった期間は、年金額には反映されませんが、「合算対象期間(カラ期間)」として受給資格の10年には数えられます。
■ 5. ケース③:海外でフリーランス・自営業として働く場合
海外に住所を移して働く場合は国民年金の強制加入の対象外ですが、日本国籍があり20歳以上65歳未満なら任意加入して保険料を納められます。
- 海外移住者
- 海外デジタルノマド
- フリーランスITエンジニア
- 投資家・独立起業家
など、住所を海外に移して働くケースが増えています。
この場合、
◆ 日本国内に住所がない
→ 国民年金の強制加入の対象外
つまり、
海外期間=任意加入しなければ日本の年金に加入しない空白期間 になります。
しかし!
◎ 任意加入制度(国民年金)を利用すれば加入可能
・日本国籍を持っていれば海外居住でも任意加入ができる(20歳以上65歳未満)
・保険料は自分で負担
・満額年金を目指す人は絶対に利用すべき制度
→ 知らないと老後の年金額が大きく減ります。
※注意:任意加入は申し出た月からの加入で、さかのぼって加入することはできません。手続きは、日本に協力者がいる場合は最後の住所地の市区町村か年金事務所、いない場合は年金事務所で行います。
■ 6. ケース④:老後に海外移住した場合(リタイアメント)
日本の年金は海外に移住しても受け取れますが、非居住者になると税金の扱いが変わります。
定年後に海外移住(例:マレーシア・タイ・ハワイなど)の場合、
【重要】日本の年金は海外でも受け取れる
海外口座へ直接振り込み可能な国も多数あり、
税制上の扱いも国によって異なります。
また、日本の住民票を抜いた後も、
老齢年金の受給資格や金額は変わりません。
※補足:日本の非居住者になると、日本の公的年金から所得税が源泉徴収されます。移住先の国との租税条約によっては、届出により日本での課税が免除される場合があります。
■ 7. 社会保障協定国と“未協定国”での扱いの違い
協定国なら二重加入を避けやすく期間も通算できる場合がありますが、協定のない国では両国の保険料を負担する可能性があります。
◆ 社会保障協定国
- 二重加入の回避
- 加入期間の通算(英国・韓国・中国・イタリアを除く)
- 老齢年金の資格確保がしやすい
◆ 未協定国(例:ベトナム・タイ・シンガポールなど、協定が発効していない国)
- 自国側の社会保険加入が義務
- 日本の厚生年金も加入したまま
→ 保険料の二重払いが発生
(企業負担が重くなる)
経営者としては、海外赴任者を出す際に
「協定国かどうか」の確認が必須です。
■ 8. 海外勤務時の年金加入のまとめ(わかりやすい一覧)
働き方ごとの日本の年金と海外の社会保険の扱いは、次のとおりです。
| 働き方 | 日本の厚生年金 | 日本の国民年金 | 海外の社会保険 | 社会保障協定の影響 |
|---|---|---|---|---|
| 日本企業からの海外赴任 | 継続加入 | 不要 | 国による | 二重加入回避可 |
| 現地法人への転籍 | 脱退 | 国内住所がなければ強制加入の対象外(任意加入可能) | 加入義務 | 期間通算あり(一部の国を除く) |
| 海外フリーランス | 加入なし | 任意加入可能 | 国による | 加入期間通算のみ |
| 老後の海外移住 | 受給OK | 影響なし | 不要 | 影響なし |
■ 9. 帰国後の年金手続き
帰国したら住民票の転入と年金の加入手続きを行い、未加入期間がある場合は60歳以降の任意加入で年金額を増やせるかを確認します。
海外勤務から帰国したら、
✔ 住民票の転入手続き
✔ 国民年金または厚生年金の加入手続き
を行う必要があります。
特に注意すべきは以下の点。
◎ 国民年金の未加入期間がある場合
→ 老後の年金額が減額
→ 任意加入しなかった海外居住期間は、後から保険料を納める(追納する)ことはできない
→ 60歳以降65歳未満の任意加入で、年金額を増やせる場合がある
※補足:追納ができるのは、保険料の免除や納付猶予を受けた期間(10年以内)に限られます。
◎ 厚生年金基金や確定拠出年金の期間
→ 海外勤務期間がどう扱われるか確認が必要
■ 10. 経営者が知るべき海外勤務と年金の“実務ポイント”
海外赴任者を出す企業は協定の有無と派遣期間を確認し、経営者自身が海外に移る場合は国民年金の任意加入を検討することが大切です。
① 海外赴任者を出す企業は、社会保障協定の確認が必須
→ 二重負担は企業経営に大きな影響を与える。
② 経営者が海外移住する場合、国民年金の任意加入を検討すべき
→ 満額年金(令和8年度は月額70,608円)を維持するために重要。
③ 現地法人への転籍は、年金空白期間のリスクが大きい
→ 退職後の生活に直結する。
④ 海外の年金制度は国によって大きく異なる
→ 受給資格・税金・社会保険料などを事前に調査すべき。
⑤ 海外勤務の期間は「ねんきんネット」で必ず確認
→ 記録漏れが起きやすい期間のひとつ。
■ 11. まとめ:海外勤務は年金に大きな影響を与える
海外勤務と年金の扱いは働き方で変わるため、協定の有無と任意加入の要否を事前に確認することが大切です。
海外勤務と言っても、
働き方によって日本の年金制度の扱いは大きく変わります。
✔ 日本企業からの赴任 → 厚生年金継続
✔ 現地法人に転籍 → 年金空白期間が生じやすい
✔ 海外移住 → 国民年金は任意加入
✔ 協定国なら期間通算できる(英国・韓国・中国・イタリアを除く)
✔ 未協定国では二重加入のリスク
✔ 帰国後は加入手続きを忘れずに
海外勤務や海外移住の影響は、
老後の生活に直結します。
特に経営者は、自身だけでなく従業員への対応も必要なため、
制度理解は必須です。
※本記事は一般的な解説です。個別の加入手続きや受給の見込みは、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
海外勤務と日本の年金について、よく寄せられる質問に結論から回答します。
Q. 海外赴任中も日本の厚生年金に加入し続けますか?
日本企業に在籍したまま海外で働く場合は、加入し続けます。社会保障協定のある国への派遣が5年以内の見込みなら、原則として相手国の制度への加入が免除されます。
Q. 社会保障協定は何か国と発効していますか?
24か国です(2026年10月時点、日本年金機構)。このうち英国・韓国・中国・イタリアとの協定は保険料の二重負担防止のみで、加入期間の通算はありません。
Q. 海外に住んでいても国民年金に加入できますか?
はい。日本国籍があり20歳以上65歳未満であれば、任意加入できます。加入は申し出た月からで、さかのぼることはできません。
Q. 海外にいた期間の国民年金保険料を、帰国後にまとめて納められますか?
いいえ。任意加入しなかった期間は、後から納めることはできません。追納ができるのは、保険料の免除や納付猶予を受けた期間に限られます。
Q. 海外に住んでいた期間は、年金の受給資格に数えられますか?
日本国籍の方が20歳以上60歳未満で海外に住んでいた期間のうち、任意加入しなかった期間は、合算対象期間として受給資格の10年に数えられます。ただし、年金額には反映されません。
出典・参考
本記事の主な出典と、2026年10月31日の更新時に確認した資料は次のとおりです。
- 日本年金機構「社会保障協定」
https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shaho.html - 厚生労働省「合算対象期間」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/gassan_1.pdf - 大田区「海外在住者の国民年金任意加入」
https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/kokunen/nenkin/kanyusoushitsu/kokuminnenkinzaigaininni.html - 厚生労働省「令和8年度の年金額改定」(満額は月額70,608円)
