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はじめに|倒産データが示すのは、業界の不振だけではない
経営コンサルタント、居酒屋、飲食業、農業、デイサービス、アパレル、歯科医院。
2026年10月上旬、東京商工リサーチと帝国データバンクから、7つの業種に関する倒産・廃業動向が相次いで公表されました。
その中には、30年間で上半期最多となった業種や、1〜9月の倒産件数が過去最多を更新した業種もあります。
一方で、すべての業種が前年より増加しているわけではありません。経営コンサルタントの倒産は前年同期を下回り、アパレル関連も前年とほぼ同水準です。それでも、歴史的に高い水準が続いている点は見逃せません。
今回のデータから見えてくるのは、単なる景気の良し悪しではなく、市場の変化に対応し、利益と資金を残す経営ができるかどうかが、これまで以上に重要になっているという現実です。
この記事では、7つの調査結果を整理したうえで、中小企業経営者が自社の経営に生かすべき教訓と、今から取り組むべき具体策を解説します。
※各調査の対象期間、倒産の定義は異なります。本文では各調査の公表値をそのまま使用しています。
1. 7業種の倒産・廃業データを整理する
① 経営コンサルタント|80件、過去20年間で2番目の高水準
東京商工リサーチによると、2026年度上半期(4〜9月)の経営コンサルタント業の倒産は80件でした。前年同期の93件から13.9%減少したものの、2007年以降の上半期では2番目の高水準です。
負債総額は37億7,600万円。販売不振が48件で全体の60.0%を占めました。
同社は、生成AIの普及によって単純な資料作成や分析の代替が進むなか、深い専門性や顧客の成果につながる課題解決能力が重要になっていると指摘しています。
補助金の申請作業代行や、過去の人脈・経験則だけに依存するビジネスモデルについても、今後は差別化が問われるとしています。
経営者への教訓は明確です。専門家自身も、提供する価値を見直さなければならない時代に入っています。
出典:東京商工リサーチ「経営のプロがAI台頭で苦境?『経営コンサルタント』倒産 過去2番目の80件」(2026年10月7日)
② 居酒屋|1〜9月で167件、過去最多
2026年1〜9月の居酒屋の倒産は167件で、前年同期比32.5%増となりました。1989年以降、同期間で最多です。
倒産原因のうち販売不振が150件、構成比89.8%を占めています。また、従業員5人未満の事業者が151件で、全体の90.4%に達しました。
背景には、食材・酒類・人件費・家賃の上昇に加え、値上げによる顧客離れや他店との競争があります。
東京商工リサーチは、2027年4月からの飲食料品の消費税減税が実施された場合、店内飲食と食料品・テイクアウトの価格差が消費者の選択に影響する可能性も指摘しています。
ただし、これは公表資料が示す将来の影響見通しであり、実際の消費行動や各店舗への影響が確定したという意味ではありません。
出典:東京商工リサーチ「『居酒屋』倒産が過去最多、初の年間200件超も」(2026年10月6日)
③ 飲食業全体|上半期514件、30年間で最多
2026年度上半期の飲食業の倒産は514件で、前年同期比3.4%増。1997年以降の年度上半期では最多となりました。
業種別では、次の増加が目立ちます。
- ラーメン店:41件、前年同期比46.4%増
- 中華料理店:16件、同33.3%増
- 食堂・レストラン:110件、同27.9%増
また、物価高倒産は79件、人手不足倒産は41件でした。
資本金1,000万円未満の事業者は460件で、全体の89.4%を占めます。
飲食業では、食材費や光熱費、人件費が上昇する一方、値上げによる顧客離れへの懸念から、価格転嫁が難しいという構造的な問題があります。
売上高を維持できていても、原価率や人件費率が上昇すれば、利益は減少します。売上だけではなく、商品・店舗ごとの採算を把握する必要があります。
出典:東京商工リサーチ「『ラーメン店』の倒産 飲食業界ワーストの46.4%増」(2026年10月8日)
④ 農業|上半期57件、負債総額は35.6%増
2026年度上半期の農業の倒産は57件で、前年同期比7.5%増。1997年以降の30年間で最多となりました。
負債総額は177億8,400万円で、前年同期比35.6%増です。負債20億円以上の倒産が2件発生したことも、総額を押し上げました。
資本金1,000万円未満の事業者は46件で、全体の80.7%です。
円安、資材・飼料価格の上昇、人手不足、天候リスクなど、農業特有の不確実性が経営を圧迫しています。
農業は、自然条件や市場価格の変化によって収益が大きく変わり得る事業です。平年並みの収量や販売価格を前提にした計画だけでなく、収量減少やコスト上昇を想定した資金計画が必要です。
出典:東京商工リサーチ「2026年度上半期の『農業』倒産は57件、30年で最多」(2026年10月8日)
⑤ デイサービス|1〜9月で47件、過去最多
2026年1〜9月のデイサービス事業者の倒産は47件で、前年同期の35件から34.2%増加しました。介護保険制度が始まった2000年以降、同期間で最多です。
原因別では、売上不振が37件で78.7%を占めました。人手不足倒産は11件となり、前年同期の3件から増加しています。
内訳には、人件費高騰7件、後継者難2件、求人難1件、従業員退職1件が含まれます。
介護事業は、利用者を受け入れるだけでなく、必要な人員を確保し、安定したサービスを継続する必要があります。人員不足によって受け入れ可能な利用者数が制限されれば、売上にも影響します。
採用難と人件費上昇を別々の問題として扱うのではなく、職員配置、業務効率、稼働率、利用者獲得を一体で管理することが重要です。
出典:東京商工リサーチ「2026年1-9月『デイサービス』倒産47件」(2026年10月10日)
⑥ アパレル関連|1〜9月で210件、製造・卸が苦戦
帝国データバンクによると、2026年1〜9月のアパレル関連企業の倒産は210件でした。前年同期の212件とほぼ同水準で、2年連続で200件を超えています。
業態別では、製造が52件で前年同期比4.0%増、卸が78件で9.9%増となった一方、小売は80件で12.1%減でした。
円安による仕入価格や外注費の上昇、価格転嫁の難しさ、過去の借入金返済などが経営を圧迫しています。
注目すべきは、消費者に近い小売だけでなく、その手前に位置する製造・卸でも倒産が増えていることです。取引先からの受注があっても、コスト上昇を価格に反映できなければ、利益が残らない可能性があります。
また、同調査では、事業を別会社に譲渡したうえで金融債務等を圧縮する第二会社方式による事業再生の事例も紹介されています。
事業を継続する方法は、従来の会社の形をそのまま維持することだけではありません。早い段階で事業の収益力と再生可能性を見極めることも重要です。
出典:帝国データバンク「『アパレル関連企業』の倒産動向調査(2026年1-9月)」(2026年10月8日)
⑦ 歯科医院|倒産23件、休廃業等120件
帝国データバンクによると、2026年1〜9月の歯科医院の倒産は23件、休廃業・解散は120件でした。合計143件が市場から退出し、同期間では過去最多となっています。
競争激化、人件費・歯科材料費の上昇、デジタル投資などに加え、院長の高齢化や後継者不足も問題になっています。
特に注目すべきなのは、過去5年間に休廃業した歯科医院のうち、直近期の業績が判明した120件では、半数超が黒字だったという点です。廃業時の院長年齢も平均70歳を超えていました。
つまり、事業の収益性が維持されていても、後継者がいないために事業を終えるケースが存在します。
倒産を防ぐことだけが経営課題ではありません。経営者が引退した後も事業を継続できる仕組みを、早期につくることが求められます。
出典:帝国データバンク「『歯医者』の倒産・休廃業解散動向(2026年1-9月)」(2026年10月6日)
2. 7業種に共通する5つの経営教訓
ここまでの調査結果を横断すると、業界が異なっても共通する経営課題が見えてきます。
教訓① 売上高より、利益とキャッシュを確認する
売上が維持されていても、仕入価格、人件費、外注費、光熱費などが上昇すれば、利益は減少します。
売上高だけを経営指標にしていると、採算が悪化していることに気づくのが遅れます。
経営者が確認すべきなのは、次の数字です。
- 売上高と売上総利益
- 粗利益率・営業利益率
- 人件費率、原価率
- 借入金返済後のキャッシュフロー
- 月末の現預金残高
利益が出ていることと、現金が十分にあることは同じではありません。利益と資金繰りを分けて管理する必要があります。
教訓② 値上げできない経営から脱却する
居酒屋、飲食業、農業、アパレルなどでは、原価上昇を販売価格に反映できるかどうかが重要な課題になっています。
値上げをすれば顧客が離れる可能性があります。しかし、値上げをしなければ利益が減り続ける場合もあります。
重要なのは、一律に価格を引き上げることではありません。
- 商品・サービスごとの粗利益を把握する
- 顧客が評価している価値を明確にする
- 利益率の低い商品・取引を見直す
- 価格改定の根拠を顧客に説明する
- 価格だけではない選ばれる理由をつくる
安さだけで選ばれる状態から、提供価値で選ばれる状態へ転換する必要があります。
教訓③ 市場の変化を前提に、事業モデルを更新する
経営コンサルタント業ではAI、アパレルでは海外生産や為替、飲食業では消費行動、歯科医院では地域人口や競争環境など、変化の内容は業界によって異なります。
しかし、共通しているのは、過去にうまくいった方法が今後も通用するとは限らないことです。
経営者は、現在の売上を維持することだけでなく、3年後、5年後にも顧客から選ばれる理由があるかを検討する必要があります。
AI活用、新サービスの開発、顧客層の見直し、業務のデジタル化などは、そのための手段です。
ただし、流行している技術を導入すればよいわけではありません。導入によって顧客価値、利益率、生産性がどう変わるのかを明確にすることが重要です。
教訓④ 借入金と投資の回収可能性を検証する
アパレル関連企業の調査では、過去の有利子負債が事業継続の負担となっている状況が示されています。
設備投資や事業拡大は、将来の利益を生み出すための手段です。しかし、受注や売上が計画どおりに増えなければ、借入金の返済だけが残る可能性があります。
投資を判断する際は、次の点を確認しましょう。
- 投資によって増加する売上と粗利益
- 人件費や維持費などの追加コスト
- 投資資金の回収期間
- 借入金の返済額と返済後の現預金
- 売上が計画を下回った場合の対応
補助金や融資を受けられることと、投資が経営上合理的であることは別の問題です。投資の目的と回収可能性を先に検証する必要があります。
教訓⑤ 黒字のうちに、承継と撤退の選択肢を考える
歯科医院の調査は、黒字でも後継者がいないために廃業するケースがあることを示しています。
これは歯科医院だけの問題ではありません。経営者の高齢化が進む企業では、事業の収益力とは別に、後継者や経営体制が事業継続を左右します。
経営者が引退する直前になってから後継者を探すのではなく、余力があるうちに承継方法を検討することが重要です。
親族内承継、従業員承継、第三者へのM&Aなど、選択肢によって準備期間や必要な対応は異なります。
また、事業の継続が難しい場合でも、早期に相談することで、事業譲渡や再生などの選択肢を検討できる可能性があります。
3. 中小企業経営者が今すぐ確認すべき5つの数字
ここからは、業種を問わず取り組める実務的な対策です。
| 確認項目 | 経営者が見るべきポイント |
|---|---|
| 売上総利益率 | 原価・外注費の上昇を価格に反映できているか |
| 営業利益 | 人件費・家賃などを支払った後に利益が残るか |
| 月次資金繰り | 今後3〜6か月の資金不足を予測できているか |
| 借入金返済額 | 返済後も必要な運転資金を確保できるか |
| 顧客・取引先の集中度 | 特定の顧客や取引先に依存しすぎていないか |
数字を確認したら、悪化している項目について原因を特定します。
例えば、売上が増えているのに利益率が低下している場合、販売数量をさらに増やすことが正解とは限りません。採算の悪い商品・取引の見直しや価格改定が先になる場合もあります。
また、現預金が十分にあるように見えても、借入金返済や納税、賞与、設備更新などの支出を考慮すると、余裕が小さいケースもあります。
経営判断は、損益計算書だけでなく、資金繰りと合わせて行うことが重要です。
4. これからの経営は「価格競争」から「価値競争」へ
今回の7業種の調査を通じて見えてくるのは、従来の経営方法を維持するだけでは、収益を確保しにくくなる企業があるということです。
人件費や原材料費が上がるなか、価格を据え置けば利益が減ります。価格を上げれば顧客が離れる可能性があります。AIなどの技術変化によって、従来の商品・サービスの価値が相対的に低下することもあります。
こうした環境では、単なるコスト削減だけでは対応しきれません。
顧客が何に価値を感じているのかを把握し、その価値を高めながら、利益が残る価格・提供方法・業務体制を設計することが重要です。
具体的には、次の取り組みが考えられます。
- AI・デジタル化による生産性向上
- 高付加価値の商品・サービスの開発
- 価格設定と商品構成の見直し
- 顧客層・販売チャネルの再設計
- 業務の標準化と人材育成
- 経営者に依存しない組織・事業承継体制の構築
大切なのは、これらを個別の施策として実施するのではなく、自社の経営課題に応じて組み合わせることです。
5. まとめ|倒産データを自社の経営改善につなげる
今回の7業種の調査から、中小企業経営者が学ぶべき教訓は5つあります。
- 売上高だけでなく、利益とキャッシュを管理する。
- 原価上昇を放置せず、価格と提供価値を見直す。
- 市場の変化を前提に、事業モデルを更新する。
- 借入金と設備投資の回収可能性を検証する。
- 黒字のうちに、後継者・事業承継・撤退の選択肢を検討する。
倒産件数が多い業種に属しているからといって、必ずしも自社の経営が悪化するわけではありません。逆に、成長している業界に属していても、自社の利益や資金繰りが安定しているとは限りません。
重要なのは、業界全体の数字を知るだけでなく、その変化が自社にどのような影響を与えるかを考えることです。
経営環境の変化を止めることはできません。しかし、変化を早く把握し、利益構造や事業モデルを見直すことはできます。
まずは自社の売上総利益率、営業利益、資金繰り、借入金返済、顧客構成を確認することから始めてみてください。
出典・参考資料
- 東京商工リサーチ「経営のプロがAI台頭で苦境?『経営コンサルタント』倒産 過去2番目の80件」(2026年10月7日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203302_1527.html - 東京商工リサーチ「『居酒屋』倒産が過去最多、初の年間200件超も」(2026年10月6日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203298_1527.html - 東京商工リサーチ「『ラーメン店』の倒産 飲食業界ワーストの46.4%増」(2026年10月8日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203322_1527.html - 東京商工リサーチ「2026年度上半期の『農業』倒産は57件、30年で最多」(2026年10月8日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203321_1527.html - 東京商工リサーチ「2026年1-9月『デイサービス』倒産47件」(2026年10月10日)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203326_1527.html - 帝国データバンク「『アパレル関連企業』の倒産動向調査(2026年1-9月)」(2026年10月8日)
https://www.tdb.co.jp/report/industry/apparel-09/ - 帝国データバンク「『歯医者』の倒産・休廃業解散動向(2026年1-9月)」(2026年10月6日)
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20261006-dentalclinic26y1-9/
※本記事は上記調査資料に基づく分析です。将来の倒産件数や個別企業の経営状況を予測・保証するものではありません。