倒産した3社に共通していたもの|土木・訪問介護・老舗小売の「公表理由」を読む

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導入

2026年9月、業種の異なる3社の破綻が相次いで明らかになりました。

大型商業施設の造成・外構工事を手掛けていた岡山の土木工事業者。設立からわずか1年4カ月の倉敷の訪問介護事業者。そして、長年地域で営業してきた時計・メガネの老舗小売店です。

業種も規模も設立年も違うこの3社ですが、公表された倒産理由を並べると、ある共通点が見えてきます。どの会社も、倒産理由として「売上が減った」ことを単独では挙げていないのです。

結論

先に要点を3つ挙げます。

  1. 3社とも「売れなかった」ではなく「売っても残らなかった」。資材・外注費の高騰、介護報酬の引き下げと人件費上昇、大手チェーンとの価格競争——いずれも粗利が潰れたという説明です。
  2. 共通するのは「値決めの主導権」の喪失。値決め権は、原価側・制度側・競合側の3方向から奪われます。3社はそれぞれ別の方向から奪われました。
  3. 自社がどの方向から圧力を受けているかで、打つべき手は変わる。まず確認すべきは粗利「率」ではなく粗利「額」です。

3社に何が起きたのか

事例①:土木工事業者(岡山県/設立2003年/負債約1億1,000万円)

道路改良や河川護岸といった土木工事に加え、ホームセンター・物流倉庫・スーパーマーケットなど大型施設の新築に伴う造成・外構工事を手掛けていた会社です。2026年9月11日に事業を停止し、自己破産申請の準備に入りました。

公表された理由は、資材価格や外注費など各種コストの高騰による採算悪化。そして注目すべきは次の点です。

資材費高騰のなか、得意先から「材料支給案件」の受注強化をはかったが、収益環境の改善には至らなかった

材料支給案件とは、材料を得意先が用意し、自社は施工のみを担う形態です。資材価格が上がり続ける局面では、材料の値上がりリスクを自社から外せる合理的な選択に見えます。

事例②:訪問介護事業者(岡山県倉敷市/設立2025年4月)

訪問介護、障害福祉、福祉タクシーを手掛けていた会社です。2025年4月の設立から約1年4カ月にあたる2026年8月31日に事業を停止し、自己破産申請の準備に入りました。

公表された理由は、同業者との競合、介護報酬の引き下げの影響、人件費や諸経費の上昇による収益性の低下です。

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、全体の改定率はプラス1.59%だったものの、訪問介護の基本報酬は引き下げられました。売値の基準が制度によって下げられた領域に、人件費上昇が重なった形です。

事例③:時計・メガネの老舗小売店(負債約1億4,000万円)

長年にわたって地域密着で営業し、大手生活雑貨店のFC店も展開していた小売店が、破産手続き開始決定を受けました。

公表された理由は、低価格帯の大手チェーンとの価格競争激化です。

※本件は報道見出しレベルの事実のみ確認できており、企業の詳細は特定できていないため、業種の類型として扱います。

共通点:3社が失った「値決めの主導権」

3社の公表理由を、売値と原価の関係で整理すると次のようになります。

事例何が起きたか粗利が潰れた方向
土木工事業者資材・外注費が上がったが単価に乗せられない原価側から
訪問介護事業者売値(介護報酬)が下がり、人件費が上がった制度側から
時計メガネ小売店売値を競合に合わせざるを得ない競合側から

つまり、値決めの主導権は3つの方向から奪われるということです。

  • ① 原価側から奪われる:仕入や外注が上がるのに、契約上・慣行上すぐには単価を上げられない
  • ② 制度側から奪われる:売値が公定価格で決まっており、自力では改定できない
  • ③ 競合側から奪われる:売値が事実上、他社の値付けによって決まってしまう

自社がどの方向から圧力を受けているかによって、有効な打ち手はまったく違います。①なら契約条項と交渉、②なら加算取得と自費サービス、③なら価格以外の差別化です。

背景:3社は例外ではない

建設業は「倒産」より「廃業」が主流になっている

帝国データバンクの「建設業の倒産・休廃業解散動向(2026年上半期)」によれば、2026年上半期の建設業は次の状況です。

項目2026年上半期前年同期増減
倒産1,043件986件+5.8%
休廃業・解散4,894件3,830件+27.8%
合計(撤退)5,937件上半期として過去最多

リーマン・ショック直後の2009年上半期(5,811件)を上回り、上半期として過去最多となりました。注目すべきは、倒産より休廃業・解散が約4.7倍多いという点です。建設業では「潰れる」より「自ら畳む」が主流になっています。

業種別では、木造建築工事947件(全体の約16%)のほか、左官工事104件(+67.7%)、金属製屋根工事50件(+66.7%)、タイル工事45件(+60.7%)と、専門工事の撤退が目立ちます。

老人福祉事業者の倒産は高止まり

帝国データバンクの「老人福祉事業者の倒産動向(2025年)」によれば、

  • 2025年の倒産:139件(2024年の140件が過去最多で、ほぼ同水準)
  • 業態別:通所介護49件が最多、訪問介護43件が続く
  • 人手不足倒産:21件(2024年の14件から+50%)

同社は、公定価格である介護報酬の制約により十分な賃金引き上げがかなわないことを課題として挙げています。人材を確保するには賃上げが必要だが、賃上げの原資を売値で回収できない——これが制度側から値決め権を奪われた事業の構造です。

小売業の物価高倒産も3割増

小売業の「物価高倒産」は、2026年上半期で118件(前年同期比+31.1%)でした。

なお全体を見ると、2026年8月の企業倒産は827件(前年同月比+10.1%)、仕入れ価格上昇や値上げ難による物価高倒産は9カ月連続で前年を上回っています。帝国データバンクは「企業には価格転嫁による収益力の維持・向上が求められている」としています。

注意点・落とし穴

リスクを減らす転換が、稼ぐ力を削っていないか

事例①で最も学ぶべきは、材料支給案件へのシフトという判断です。

資材価格が上がり続ける局面で、材料を得意先に用意してもらえば、値上がりリスクは外れます。判断として不合理ではありません。

ただし一般論として、材料支給案件は工事代金に材料費が含まれない分、1件あたりの売上も粗利額も小さくなりやすいという性質があります。リスクが減っても、人件費・重機・事務所といった固定費を賄うだけの粗利額が確保できなければ、資金繰りは改善しません。

リスクヘッジの手段が、同時に稼ぐ力そのものを削っていないか。これは粗利「率」ではなく粗利「額」でしか検証できません。

(※これは材料支給という取引形態の一般的性質に基づく分析であり、同社の個別事情を断定するものではありません)

公定価格の事業で創業する際の資金計画

事例②は設立から約1年4カ月での破綻でした。訪問介護は基本報酬が引き下げられた領域であり、新規参入の時点で「価格改定余地がほぼゼロ」という前提が置かれています。

創業期は利用者数の積み上げに時間がかかります。通常の事業なら計画未達を単価で一部取り返せますが、公定価格の事業ではそれができません。売上が計画に届かない期間を、資金で持ちこたえるしかない構造です。

多角化は本業の粗利低下を埋めきれないことがある

事例③はFC店の併営という多角化をしていましたが、本業である時計・メガネ販売の粗利悪化は補えませんでした。多角化の是非ではなく、本業の粗利が構造的に下がり続けている場合、別事業の利益で穴埋めを続けると両方が消耗するという点に注意が必要です。

倒産統計だけを見ると業界の縮小を見誤る

建設業では休廃業・解散が倒産の約4.7倍でした。取引先の与信管理では、倒産の兆候だけでなく「静かな撤退」の兆候——更新工事の辞退、人員の急減、代表者の高齢化と後継者不在——を見る必要があります。

経営者が取るべき対応

確認したい6項目

  1. 取引・サービス別の粗利「額」(率ではなく額。固定費を賄えているか)
  2. 取引条件を変更した案件の、変更前後の粗利額の比較
  3. 自社の売値を最終的に決めているのは誰か(自社/発注者/制度/競合)
  4. 主要取引先ごとの最終単価改定日
  5. 創業期・新規事業の運転資金が、単価改定なしで何カ月もつか
  6. 主要取引先に「静かな撤退」の兆候がないか

具体的なアクション

粗利額でランキングを作る。 取引先別・サービス別に粗利額を並べ、下位から「改定交渉するか、撤退するか」を期限を切って判断します。売上ランキングでは見えない実態がここに出ます。

条件変更は必ず粗利額で試算してから受ける。 リスクを下げる条件変更ほど、収益も下がっている可能性があります。両方をセットで検証してください。

見積書に単価改定条項を入れる。 資材が一定以上変動した場合に再協議できる文言があるかどうかで、工期中の値上がりを誰が負担するかが変わります。

値決め権のある収益の比率を数値目標にする。 保守・メンテナンス、自費サービス、指名案件など、自社が値決めできる収益が売上に占める割合を管理指標にします。

9月中に単価交渉を1件動かす。 9月は中小企業庁の「価格交渉促進月間」です。発注側も認識しているため、交渉を切り出す口実に使えます。

与信管理を「撤退兆候」で点検する。 倒産の前兆だけでなく、静かに事業を畳む兆候を見てください。

今後の見通し

帝国データバンクは、倒産は当面高水準で推移する見通しを示しています。

次に確認すべきタイミングは以下のとおりです。

  • 毎月上旬:帝国データバンクの月次倒産集計
  • 建設業・老人福祉事業などの業種別動向レポート:撤退件数の水準が変わるか
  • 自社の四半期ごとの粗利額推移:外部統計より、自社の数字のほうが早く変化を示します

まとめ

  • 2026年9月に表面化した3社の破綻は、業種も規模も設立年も異なるが、公表理由に「売上減」が単独で挙がっていない点が共通している
  • 3社が失ったのは値決めの主導権。原価側(土木)、制度側(訪問介護)、競合側(小売)と、奪われた方向はそれぞれ違う
  • 建設業の2026年上半期の撤退は5,937件で上半期として過去最多。倒産より休廃業・解散が約4.7倍
  • 老人福祉事業者の倒産は2025年139件で高止まり。人手不足倒産は前年比+50%
  • リスクを減らす取引条件への転換が、稼ぐ力そのものを削っていないかを粗利額で検証する
  • まず、取引先別・サービス別の粗利「額」を並べるところから始めてください

倒産事例の記事は、どうしても「その会社の経営判断の問題」として読まれがちです。しかし今回の3社が示しているのは、売値を自分で決められない状態が続くと、業種を問わず同じ結果になるという構造です。自社の売値を最終的に決めているのは誰か——そこから確認してください。

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