「昨日までうまくいっていたビジネス」が、明日もうまくいくとは限りません。
2026年8月、東京商工リサーチから興味深い2つの調査結果が発表されました。
1つは、生成AIの影響も指摘される「デザイン業」の倒産急増。もう1つは、コロナ禍の巣ごもり特需が終わり、収益力の低下に直面する「ホームセンター」です。
一見すると全く関係のない2業界ですが、中小企業経営者にとって非常に重要な共通点があります。
それは「経営環境が変わったにもかかわらず、従来のビジネスモデルを続けることの危険性」です。
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デザイン業の倒産が前年同期比166.6%増
東京商工リサーチによると、2026年上半期の「デザイン業」の倒産は40件となり、前年同期比166.6%増加しました。
40件を超えたのは、2012年同期の45件以来14年ぶりです。
さらに注目したいのが倒産企業の規模です。
40件のうち従業員5人未満が36件、構成比90.0%を占めています。
つまり、生成AIなどによる環境変化の影響が、小規模なデザイン会社に強く表れている可能性があります。
なぜデザイン会社が苦しくなっているのか
東京商工リサーチは、倒産企業について大きく3つのパターンを指摘しています。
1つ目が、生成AIやデザインソフトの普及による顧客企業の内製化です。
これまで外部のデザイン会社に発注していた業務の一部を、企業自身が短時間・低コストで行えるようになりました。
2つ目が、紙媒体からデジタル媒体へのシフトです。
雑誌などの紙媒体を中心に仕事をしてきた企業にとって、広告市場のデジタル化は大きな構造変化です。
3つ目が、住宅業界の不振です。
インテリアデザインなど住宅関連の仕事を中心とする企業では、取引先となる住宅会社の不振が受注環境にも影響します。
AIによって本当に怖いのは「仕事がなくなること」だけではない
ここからは事業創造ラボとしての分析です。
生成AIについて「AIに仕事を奪われる」という議論があります。
しかし、中小企業にとってもっと現実的な問題は「仕事の価格が変わること」ではないでしょうか。
例えば、以前なら数時間かかっていた制作作業をAIによって短時間で行えるようになれば、顧客側からすると「以前と同じ金額を払う必要があるのか」という疑問が生まれます。
その結果、
制作時間の短縮
↓
顧客の内製化
↓
外注単価の低下
↓
価格競争
↓
利益率低下
という流れが起こる可能性があります。
これはデザイン業だけの問題ではありません。
Web制作、広告、動画制作、システム開発、資料作成、コンサルティングなど、AIによって生産性が大きく変化する業界では同じ問題が起こり得ます。
一方、ホームセンターでは「コロナ特需」が終了
もう1つの変化がホームセンターです。
東京商工リサーチによると、5期連続で業績比較が可能な全国の主要ホームセンター56社の2025年度売上高合計は3兆1,118億円で、前期比1.4%増加しました。
これだけを見ると悪くありません。
しかし最終利益は786億円で、前期比4.2%減。
4期連続の減益です。
さらに2021年度の1,237億円と比較すると、451億円、率にして36.4%も減少しています。
つまり「売上は増えているのに、利益は減っている」のです。
特需は終わっても、コストは元に戻らない
コロナ禍では外出機会が減り、自宅で過ごす時間が増えました。
DIYや園芸、家具、住環境の改善などに需要が向かい、ホームセンターには「巣ごもり特需」が発生しました。
しかしアフターコロナで消費者の行動は変化しました。
一方で、人件費、物流費、賃料、原材料費などのコストは上昇しています。
つまり、
「特需による追い風はなくなる」
にもかかわらず、
「高くなったコストは残る」
という難しい経営環境になっています。
経済産業省の商業動態統計を使った2025年の分析でも、小売業全体の販売額が前年比1.4%増加するなか、ホームセンターは2年ぶりの販売額減少となっています。
だからホームセンターの再編が進む
こうした環境を背景として、ホームセンター業界ではM&Aや経営統合が相次いでいます。
規模を大きくすることで、
共同仕入れ
物流効率化
店舗運営効率化
プライベートブランド強化
商品調達力向上
などを進め、利益率を確保する狙いがあります。
重要なのは「売上規模を大きくすること」そのものではなく、規模を利用してコスト構造を変えることです。
デザイン業とホームセンターに共通するもの
デザイン業は「新しい技術の登場」。
ホームセンターは「一時的な特需の終了」。
原因は全く違います。
しかし、経営という視点で見ると共通しています。
それは「過去の成功モデルが通用しなくなっている」ということです。
デザイン会社であれば、「依頼された制作物を作る」という従来型の受託モデルだけでは、AIとの価格競争に巻き込まれる可能性があります。
ホームセンターであれば、売上拡大だけを追いかけても、人件費や物流費などがそれ以上に増えれば利益は残りません。
だから経営者が見るべきなのは「売上」だけではありません。
「どうやって利益を生み出しているのか」という利益構造そのものです。
AI時代でもデザイン会社には新しい仕事がある
一方、AIの普及を「デザイン会社が不要になる」と考えるのも極端です。
生成AIには著作権、商標、既存作品との類似性、情報管理、品質管理などの確認が必要になります。
今後価値が下がる可能性があるのは「言われたものを作るだけ」の業務です。
逆に、
ブランド戦略
マーケティング
企画
ディレクション
AI活用支援
品質管理
権利面の確認
まで提供できれば、新しい付加価値を作ることができます。
AIを拒否するのではなく「AIによって安くなる仕事」と「AI時代だから高く売れる仕事」を分けて考える必要があります。
中小企業経営者が確認すべき5つの質問
今回の2つのニュースを、自社に置き換えてみてください。
1.自社の商品・サービスはAIで代替されないか?
2.コロナ特需など、一時的な需要に依存していないか?
3.売上ではなく粗利益・営業利益は増えているか?
4.人件費や原材料費の上昇を価格へ転嫁できているか?
5.3年後も現在と同じ商品・サービスで利益を出せるか?
特に5番目は重要です。
「今売れているから大丈夫」ではなく、「今売れているものが3年後も同じ価値を持つのか」を考える必要があります。
まとめ
今回のデザイン業とホームセンターのニュースは、単なる2つの業界ニュースではありません。
デザイン業では生成AIという「新しい技術」が市場構造を変えています。
ホームセンターではコロナ特需という「一時的な追い風」がなくなり、高コスト構造への対応力が問われています。
共通しているのは、経営環境の変化です。
そして、変化が激しい時代ほど「これまでうまくいった方法」を続けること自体がリスクになることがあります。
AI、物価、人件費、金利、人口減少、消費行動。
企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
だからこそ中小企業経営者はいま、自社の売上だけではなく「利益がどこから生まれているのか」「その利益構造が3年後も通用するのか」を確認する必要があります。
変化を危機として受け止めるだけではなく、新しい商品、新しいサービス、新しい収益モデルを作る機会として捉える。
それが、これからの中小企業経営ではますます重要になるでしょう。