はじめに
2026年8月から9月にかけて、東京商工リサーチと帝国データバンクから、マッサージ業・鉄道軌道工事業・ペット小売業・焼肉店・鉄鋼業・唐揚げ店という異なる6つの業種に関する最新の倒産・経営データが相次いで公表されました。同じ「物価高・円安・人件費上昇」という逆風下にありながら、業種によって明暗がはっきり分かれています。本記事では各業種のデータを整理し、中小企業経営者が自社に置き換えて確認すべきポイントを解説します。
結論
- マッサージ店の倒産は2026年1-7月で68件と、過去15年で最多を更新。
- 焼肉店の倒産は高止まり傾向が続く一方、唐揚げ店の倒産は前年比9割減と急速に沈静化。
- ペット小売業は6期連続の増収でも利益は2期連続の大幅減益と「増収減益」の典型。
- 鉄鋼業は大企業ほど業績悪化が先行するという、通常とは逆の構図が出ている。
- 共通する主因は「販売不振」であり、原材料・人件費上昇分を価格転嫁できるかどうかが生死を分けている。
制度・ニュースの概要
今回取り上げるのは、東京商工リサーチが2026年8月26日〜31日にかけて発表した5本のレポート(マッサージ業、鉄道・軌道工事業、ペット・ペット用品小売業、焼肉店、鉄鋼業)と、帝国データバンクが2026年9月1日に発表した「唐揚げ店」の倒産動向レポートです。いずれも直近の決算期または2026年1-8月の倒産件数を対象としています。
今回の重要ポイント
- マッサージ業:2026年1-7月の倒産68件(前年同期比7.9%増)、うち88.2%が「販売不振」主因、人手不足倒産は前年ゼロから7件に急増。
- 焼肉店:2026年1-8月(20日まで)の倒産29件、前年同期比17.1%減とはいえ、前年が年間最多59件だったことを踏まえると依然高水準。
- ペット小売業:98社の売上高合計2,417億円(前年比0.5%増)に対し、利益は19億円(前年比50%台の大幅減)。休廃業・解散も含めた合計は64件で12年間の最多を更新。
- 鉄鋼業:1,248社の売上高16兆1,886億円(前期比5.4%減)で3期連続減収。純利益は3年ぶり増加も、ピーク時から約3割減。資本金1億円以上の大企業ほど減収企業の割合が高い。
- 唐揚げ店:2026年1-8月の倒産はわずか2件で、前年(15件)から9割減。2023年の過去最多27件から一転、業界の淘汰と定着が進んだ結果とみられる。
- 鉄道・軌道工事業:158社のうち業歴50年以上が37.3%を占め、新規参入が少ない構造。売上上位10社の6社は大手鉄道会社出身の代表者で資本関係も持つ。
背景
共通する背景として、円安による輸入原材料・輸入肉・輸入品の価格上昇、電気・ガス等の光熱費上昇、人件費上昇が挙げられます。特に唐揚げ店は輸入鶏肉やキャノーラ油など原材料コストの急上昇が2023年の倒産急増の直接的な引き金となりました。一方でマッサージ業・焼肉店・鉄鋼業では、大手企業の参入や海外勢との競争激化が価格競争を招き、体力の乏しい小規模事業者が淘汰される構図が共通しています。
中小企業への影響
- 飲食・サービス業では、原材料・人件費の上昇分を価格転嫁できるかどうかが倒産の分岐点になっています。焼肉店・マッサージ業のように客離れを恐れて値上げできない業態ほどリスクが高い状況です。
- 小売業では「売上は伸びているのに利益が出ない」増収減益のパターンに注意が必要です。ペット小売業のように市場拡大期に参入した事業者ほど、成長鈍化局面での収益構造の見直しが急務になります。
- 製造業・建設関連業種では、貿易政策(ダンピング認定等)や需要見通しの変化が業績に直結するため、業界動向・政策動向を定点観測する必要があります。
注意点・落とし穴
- 唐揚げ店の「倒産9割減」は、必ずしも業界全体が好調という意味ではありません。原材料高騰は継続しており、水面下での閉店・廃業(倒産に至らないケース)を含めれば、実際の退出企業数はより多い可能性がある点に留意が必要です。
- ペット小売業の利益減少率について、提供元資料内で「53.6%減」と「53.5%減」の2通りの表記が存在します。正確な数値は東京商工リサーチの原資料での確認を推奨します。
- 焼肉店の倒産件数「前年同期比17.1%減」は改善に見えますが、前年が過去最多を記録した特殊要因を含む年である点を踏まえて評価する必要があります。
経営者が取るべき対応
- 自社の売上構成のうち「販売不振」に直結しやすい客数依存型の商品・サービスの比率を確認する。
- 原材料・仕入コストの上昇分を、値上げ以外の手段(メニュー構成、付加価値化、原価管理強化)でどこまで吸収できているか点検する。
- 売上高だけでなく粗利率・営業利益率の推移を月次・年次で比較し、増収減益の兆候がないか確認する。
- 人手不足が業績に影響していないか、採用・定着率・労働条件を業界水準と比較する。
- 自社業界で「淘汰が進んだ後」にどのようなプレイヤーが生き残っているか(唐揚げ店の事例等)を参考に、差別化戦略を検討する。
今後の見通し
鉄鋼業では、政府によるアンチダンピング関税の効果や、経済産業省が示す2026年度第2四半期の鋼材需要見通し(前年同期比3.1%減)が今後の業績を左右する見通しです。ペット小売業・マッサージ業・焼肉店については、円安・物価高が継続する限り、価格転嫁力の弱い小規模事業者の淘汰が当面続く可能性があります。一方、唐揚げ店の事例が示すように、業界の淘汰が一巡した後には生き残った事業者の収益環境が安定する局面も見込まれます。
まとめ
今回の5〜6業種のデータが示す共通のメッセージは、「業種の好不調」以上に「価格転嫁力とコスト管理力の差が生死を分けている」という点です。売上の増減だけでなく、利益率・原価構造・人材確保の状況を継続的に点検することが、これからの中小企業経営に不可欠です。
出典
- 東京商工リサーチ「TSRデータインサイト『マッサージ業界』の倒産増加」2026年8月31日発表(TSR情報全国版2026年8月28日号掲載)
- 東京商工リサーチ「TSRデータインサイト『鉄道・軌道工事業』158社」2026年8月30日発表
- 東京商工リサーチ「2025年度『ペット・ペット用品小売業』業績動向調査」2026年8月29日発表
- 東京商工リサーチ「TSRデータインサイト『焼肉店』の倒産が高止まり」2026年8月29日発表(TSR情報全国版2026年8月28日号掲載)
- 東京商工リサーチ「2025年度『鉄鋼業』業績動向調査」2026年8月26日発表
- 帝国データバンク「『唐揚げ店』の倒産動向(2026年1-8月)」2026年9月1日発表
- 一般社団法人ペットフード協会 2024年度統計(東京商工リサーチ資料内で引用)